02.1-01.幕間 ※エディータ・ドゥカウスケート視点
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今回は幕間、エディ視点のお話です。
※エディータ・ドゥカウスケート視点
宇宙にある移民居住用コロニー群は地球から月までの間にある11の宙域と月の衛星軌道上にある1基を主体とするコロニー群を併せて全部で12。
その月にあるコロニーが私、エディータ・ドゥカウスケートの母国、リトアーク王国。国が運営するいくつかの食糧生産コロニーの一つで農家を営む家の二女として私は生まれた。
アカデミーで私は貴族だ、王族の血を継いでいるんだ、などと噂があるみたいだけどとんでもない。
礼儀作法よりも何よりも畑を耕す方がずっと上手な農業コロニー出身の田舎娘で、強いて言えば貴族などとは真逆の家柄。時代錯誤の貧乏家の出身だ。
幼い頃の私は生まれつきの難聴で、言葉を覚えるのに相当に時間がかかった。ある時突然、聞こえる様にはなったものの、同い年の子供に比べて話すのがかなり遅かった。
ここからは推測なのだけれど、耳の聞こえなかった私は他人の動きを観察する力、洞察力が備わっていったような気がする。人に自分の意見を伝えるのが得意ではない理由もここにあるとは思うのだけど。
それは置いておいても、その洞察力はMKの操縦に大いに活かされるようになり、運の良い事にその才能を軍の人間に見出された私はMKのパイロットになるべく教育を受ける事になる。
元々パイロットなどには興味は無かったけれど、戦場でスコアを出す度に家族が裕福になるはず。そう思って私は操縦桿を握り続けた。これが確か12歳くらいの時、だったと思う。
任務の合間に文字や計算の授業を基地の中で受けて戦場に出る。無事帰還したらまた授業。
教育などというものをまともに受けられなかった私は、戦いさえすれば教育を受けられる。それも3食付き。更に戦場でスコアを出せば出すほどに実家にはお金が入るんだ。貧乏なりに私の耳の治療のためにお金を使わせてしまった両親へのせめてもの恩返しになればと、私はそう考えた。
暖かい寝床もあって勉強も出来て、お金までもらえる。
定期的に行われる注射だけはいつまでたっても慣れなかったけれど、それさえ我慢すればそれなりに幸せな人生が送れた。
そう思って過ごしてきた。その基地がカスタマイザー育成を目的とした施設だという事を知るまでは。いや、知ったからと言っても何か変わるわけでは無かった。
何故ならその頃には私は、私たちカスタマイザーは【レギュレータ】により精神を支配されて戦う為だけの装置に成り下がっていたのだから。
私が戦場でスコアを上げる度に1人、また1人と仲間が死んで行った。
ある者は戦場でMKもろとも撃墜され、ある者は戦場で発狂して暴走し、止むなく味方に撃墜されて。またある者は自室で……。
明らかに異常な場所に身を置いている事は重々に理解が出来た。けれどその頃には私は私をコントロール出来なくなってしまっていた。
【レギュレータ】は生への執着を削ぎ落としていく恐ろしい薬である一方で、人間の感覚、第六感とも言える感覚を研ぎ澄まして戦闘能力を引き上げる事が出来る薬。それと同時に強力な依存症も引き起こす。薬が切れたら泣き叫び、苦しみ悶える。
それでも薬を与え無かったら。
そんな実験動画を見せられた事があったが、被験者はコンクリートの壁に自らの頭を割れるまで打ち付けて絶命した。生きた心地がしなかった。私もあんな風になる可能性があるのか? まさか信じられなかったけれど、薬が切れそうになるあのソワソワとした感覚が大きくなれば十分に有り得そうな話ではあった。
しかし何故わざわざそんな実験動画を見せたのか。
それは、カスタマイザー育成施設の職員が『我々が【レギュレータ】を与えなければこうなるだけだ。だから馬鹿な考えは起こすな』とそういう意図があるのだろう。
実際【レギュレータ】の入手は研究所以外からの入手は非常に困難だ。研究所と関係を切って終えば待っているのは画面の中の彼と同じ末路。
そう、気づいた時にはもう遅かった。
人より少しだけMKの操縦センスがあった、それを活かして家族に少しでも楽な生活を送ってもらいたい。そう思っていたはずなのに、気づけば私はもう普通の日常生活が送れないほどに【レギュレータ】に対する依存性が強まって行ってしまった。
自ら選んだ道。そう思っていたけど、ある日私は気づいてしまった。
本当に12歳の子どもが自らそんな道を選ぶのか、と。
いやもちろんカスタマイザー育成施設だと気付かなかったとしても、家族にすらそんな説明をしなかったのだろうか。私が施設に入ってから家族はある程度裕福な暮らしをし始めたに違いない。けれど、私はそれ以来家族と会っていない。
連絡も取れない。会う事もない。
そう、気づいてしまった。
私は家族に売られてここに居るんだと。不思議と絶望はしなかった。むしろ妙な納得感すら湧いてきたほどに私はその事実を受け入れてしまった。
家族に散々迷惑をかけてしまったんだ。私は家族に取って不要な存在だった。それはそうなるだろうと。
しかし戦場に立つと周りのみんなは私を頼って来てくれた。時には感謝すらされる事もあったり。私はそれが嬉しかった……のかもしれない。自分が誰かのためになっているという事が。
レギュレータによって得た力だったとしても、その力で誰かの命を救える喜びを私は感じていたのかもしれない。人の命を奪って人を守るという矛盾を日々繰り返していく。
そんな生活を送るようになったある日、私は小隊長に任命される事になった。そこで私は彼女に出会う。
そう、それが私とメイリンとの出会いだった。
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