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02-29.Edy


「……ん」

 

 どれくらい眠っていたのか、視線を感じて僕は目を開けた。

 

 すると隣に寝ていたはずのドゥカウスケートが身を起こし、その隣にはメイリン准尉が付き添っていた。

 2人は目を覚ました僕に気づいた様子で、目を覚ました僕と2人の目があった。

 彼女らに寝顔を見られていたのかな、そう思うとなんだか気恥ずかしくなって僕も身を起こす。


「よく寝られたか」


 昨晩の事を労ってくれてからそんな事を言ったのはメイリン准尉だ。彼女も相当に大変な夜だったはずなのに。気遣いが純粋に嬉しかった。


「はい、メイリン准尉は休んだんですか?」

「うむ、いや、私はこれからだ」

「そうですか」


 取り止めもなくそんな事を話す。もっと話さなければいけない事はあるだろうが、僕もメイリン准尉も嫌でも責任云々の話をしなければならないので、今はわざわざ深い話をする気にはなれなかった。


「……」


 と、そこでドゥカウスケートが何か言いたそうに口を開けて……言葉を飲み込んだ。というより、何か言いたいのに何て言えば良いのかわからない。そんな感じだろうか。


 ただアメジスト色の瞳には僕の姿がしっかりと写っているので、僕に何か言おうとしたんだろうなというのは何となく伝わってきた。

 

 多分、僕の勘違いでなければ感謝の言葉、だったと思う。それはメイリン准尉もそう思ったらしく、口端をあげて笑う。


「ふふっ、隊長は〝ありがとう〟と言っているようだぞ」

「……メイリン」

「ははっ、僕もそう感じました」

「……」


 ドゥカウスケートは一度メイリン准尉を不服そうに見てから、次は笑った僕を睨む。気がした。

 相変わらず表情は変わらないけど、彼女が発する空気、雰囲気が伝わってきて面白い。


 そうだ、少し前に感じたこの感覚。

 表情も変わらないし、言葉も話さない。けれど気持ちがなんとなく伝わってくるこの感覚の正体。それは孤児院施設で飼っていた小型犬のそれに何となくにている。

 キャンキャンと吠えるタイプの犬ではなく、どちらかと言えば大人しい分類に入る犬だった。


 僕が餌を見せても彼は『別に何も思ってませんけど?』みたいにすました顔をしているのに尻尾だけはブンブンと振ってしまって気持ちがバレバレになるあれ。

 そう、懐かしいあの感覚に近い。あの頃の事を思い出して少し笑ってしまう。

 そんな僕を見てドゥカウスケートはコテンと首を傾げる。その仕草はやはり子犬じみていて微笑ましい。

 いや、彼女の容姿は大人びていて決して幼くはないのだけれど。


 出会って半年。何となく表情から気持ちが読み取れるようになったかな。


「僕にもドゥカウスケート先輩の気持ちが読み取れるようになってきたみたいです」

「……」


 うん? 何故か睨まれた。


「……エディ」

「え?」


「……さっき、呼び捨てだった」

「……そ、そういえば」


 さっき、戦闘に割り込んだ時に僕は彼女の事を〝エディータ〟と呼び捨てにしてしまった。

 呼び捨てにしたのを怒ってるって事なのか、いやいや、確かに悪かったけど、わざわざそんな事を言う人ではないように思うし……。


 なんて考えていると、僕らのやりとりを見ていたメイリン准尉が見かねたように口を挟んできた。


「エディと呼べと、そう仰っているようだが?」

「ええ?」 


 ああ、そういう事か。ドゥカウスケートもコクコクと頷いてる。分かってきたつもりでもまだまだ付き合いの長いメイリン准尉には及ばないみたいだ。


 ふ、ふむ。確かになんだかクセでドゥカウスケートだなんて言ってしまうけど、彼女が悪人じゃないのは分かったし、姓で呼ぶのは僕くらいなもんだしな。

 以前から違和感はあったんだし、この際だからエディータ先輩と呼び方を変えても良いかも知れない。

 

 改まって言うとなんだか緊張というか、若干照れ臭さはあるけど僕は新しい呼び方で彼女を呼んでみた。


「……エディータ先輩」


 けれど彼女は、エディータ先輩はアメジスト色の瞳で僕を見つめるばかりで、


「……エディ」


 とそう言った。

 メイリン准尉はなんだかやれやれと言ったジェスチャーをして肩をすくめる。口元がニヤニヤとしているのがなんとも謎なんだけど。


 〝エディ〟って呼べと?


 先輩で上官なのに良いのかな。彼女も年上のメイリン准尉の事を呼び捨てにしてるし、僕もいいのかな。いや、でもドゥカウスケートは少尉だし……。


 って、心の中ではドゥカウスケートだなんて呼び捨てにしていたくせに変だよな。


 そうだ、今更だしな。

 少しだけ遠慮がちに僕は更に新しい呼び方で彼女を呼んでみた。


「……エディ?」

「……コータ」

「あ……」


 その時、少し。ほんの少しだけ彼女が、エディが笑ったような気がした。

 その笑顔は戦争で鬼神の如き働きをする国際連合軍のエースパイロットの笑顔ではなく、年相応の、18歳の少女の笑顔だった、気がした。


 けれどその笑顔も一瞬。僕の見間違いだったのではと感じてしまうほど一瞬の事だった。

 けど、きっと幻なんかじゃない。

 彼女が自ら望んでカスタマイザーになったのか、経緯は分からない。けれどあの夜、(すが)るように苦しそうに泣き叫んでいたエディの姿はもう見たくない。

 前大戦の負の遺産カスタマイザー。彼女のような存在を根絶させる事が出来たら。


 ガーランドの反逆を阻止するキッカケになるんじゃないのか。リオを守る事に繋がる気がする。


 そうする事でエディの様なカスタマイザーが、薬物に苦しむ人が救われたら僕も嬉しい。

 中和剤の製薬も最終段階みたいだし、その日が来るのはそう遠くはないはず。

 

 ドゥカウスケートを、いや、エディと少しは分かり合えたのかな。それはやはり嬉しい事で有り、すごく心強い。もちろん彼女が僕の目的に賛同してくれるかは分からないけれど、それでも彼女というひとりの人間とこうして少しでも仲良くなれたと言う事は嬉しい。


 そして第4世代MK(モビルナイト)“ワルキューレ”という存在が1周目の世界からより逸脱した人生を歩むキッカケになっていく。

 僕はまだこの時は気付いていなかったけど、事態は確実に大きく動き始めている。

 


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

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評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


このお話で第二章は完結です。


幕間を数話挟みまして第三章が始まります。

いつも応援していただき、ありがとうございます。

これからも変わらぬご愛顧賜りますようよろしくお願いします。

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