表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/179

02-27.白鬼 ※???視点

 

 これは、殺意。そう、絶対に私を殺すという明確な意志。

 

 それがヒシヒシと伝わってきて私は自分の身体がコントロール出来なくなってしまっていた。


 操縦桿を握る手が震える。視界が涙で霞む。

 そして何より情けない事に、生暖かくて嫌な感触が股に広がっていった。


 怖い。殺される。


 単純な力の差を見せつけられた私の心は恐怖で押しつぶされそうになっていた。

 先程まで燃え上がっていた心の中の炎はもはや見る影もない。


 これが初陣ではあるのだが、戦場というものがいかに恐ろしく、命というものがいかに簡単に失われていくのかという事を思い知った。


 私に読み書きを教えてくれたサム、嫌いなニンジンを食べてくれるリリィ。カードゲームが弱いくせにやたらと賭けたがるフランク。そして叱られてばかりだけど、いつも私を見守っていてくれたジュンコ二尉までもあっさりと散っていった。


 呆気ない、最期だった。


 私達はてっきりあの青い機体に乗っているのが〝女傑〟かと思っていたけど、どうやら違ったみたいだ。


 あの白い機体のあの動き、尋常じゃない反応速度。絶対に普通の人間の動きじゃない。間違いなくカスタマイザーだ。そうじゃないと説明がつかない。


 連合のカスタマイザー専用MK(モビルナイト)の試作機が完成したという情報を掴んだ私たちはその機体の奪取、それが叶わないなら破壊を目的とした作戦を実行した。


 基地内に潜入したアスカ隊長があの白い機体を奪う心算だったけれど、敵兵に発見され失敗したと連絡が入った。

 守備隊と戦闘していた私たちの任務は白い機体の破壊へと切り替わる。


 守備隊の大将として出撃してきたのがあの独眼の青い機体だった。

 そう、〝女傑〟が乗っていると思われる機体だ。


 私たちは先日交戦した際には敢えてフォトンライフルを使わなかった。今日この日のために手の内をさらさないために。

 カスタマイザー専用機を奪取するべく準備を続けて、満を持して挑んだというのに。


 いや、確かにあの青い機体の動きも鋭いものではあったのだけど。機体のスペックが、世代が違う。

 こちらは第4世代MK(モビルナイト)。それも8対1。いくらドゥカウスケートとはいえ機体性能と数で圧倒出来たと、そう思っていたのに。あの青い機体には誰が乗っていたのだろう。


 〝女傑〟の力を見誤っていたのは私たちの方だったみたいだ。カスタマイザーの本気を垣間見た。あの白い機体に乗っていたのは〝女傑〟ドゥカウスケートに違いない。


『ヨーコ、聞こえる!?』

「! ……隊長っ!?」


 白い機体は私を睨んで動きを見定めている。その隙を狙ってなのか基地に侵入していた隊長から無線が入った。ジャミング粒子の影響で音質は悪いけど聞き取れない程ではない。

 私は白い機体から目を離さずに隊長に指示を仰ぐ。


『カウント3で対MK(モビルナイト)チャフを撃つ。効くか分からないけど全速力で逃げなさい。ポイントK9にライドブースターを配置している。カモフラージュしてあるから気をつけて』

「隊長はどうされるのですか、それにみんな(・・・)は」

『みんな? 全員……死んだわ。私は私でなんとかする。ヨーコは全力で逃げなさい』

「しかし――」

『カウント! 3、2、1……』


 その後の事はあまり憶えていない。ただ必死で、後ろからあの白い機体が追ってこないかだけが気がかりで。


 ライドブースターに乗って空中に上がってからようやく私は仲間の死を実感し、涙を流した。

 けどそれは本当に悲しみの涙だったのか。もしかしたら私は自分が助かって安堵していたんじゃないかと、そう思った。

 

 そんな自分が嫌だった、許せなかった。


 仲間を守れなかった自分の弱さが。そして仲間を奪ったあの白い機体が、許せなかった。

 確か前情報では“ワルキューレ”とか言ったか……戦乙女? まさか。あんなのは……そう、


「……鬼だわ」


 戦乙女などというロマンチックな名前なんて似合わない。人の命と夢を食い殺す地獄の使者、鬼に違いない。


 私は歯を食いしばり、操縦桿を強く握りしめた。


 許さない。絶対に。

 

 カスタマイザーという存在も。それを利用しようとしているガーランドも。


 私は忘れたくなるような悲惨なこの光景をもう一度目に焼き付けるために振り返る。


 もう遥かに遠くなり、豆粒のように小さくなったダリル基地からは火の手が上がり、またそれに伴って黒煙が立ち昇っていた。


 まるでその様は仲間たちが天に召されていくような気がして。

 止まらない涙を拭うこともせず、私はあの白い悪鬼に復讐を誓った。



最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


2022/10/17改稿を行いました。

ジュンコ中尉→二尉

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ