02-26.初陣
「准尉、エディータを!!」
『応っ! 隊長、こちらに!』
『……“ワルキューレ”』
僕は“ワルキューレ”を駆り、1機の敵MKを撃破した。続けて頭部バルカンで牽制して視線をこちらに集める。
そして強化されたスラスター全開で加速した勢いよくそのままにもう1機のMKのコクピットに飛び蹴りを炸裂させた。
あの勢いではコクピットは無事では無いだろう。
間に合った、間に合ってくれた。
本当にあのドゥカウスケートが堕とされそうになっていた、信じられない。
いや、コイツらの機体は何だ。見た事が無い。
“ティンバーウルフ”に似ているけれど、特殊部隊が被る様な丸みを帯びたバイザー付きヘルメットの様な頭部。闇夜に溶け込む様な漆黒色に塗装された装甲。ゴツゴツとしたアーマーまで装着している。
恐らく“ティンバーウルフ”のカスタム機であると思うが、1週目を含めても見覚えの無い機体だった。
そしてなにより目を引くフォトンライフル。
2週目の世界において採用されたのは、この“ワルキューレ”が世界初じゃ無かったのか。いや、考えても仕方ないんだけど。
そもそもこの時代、この年にフォトンライフルを装備できるMKが開発されることがおかしい。いや、それは僕が持ち込んだ5年後のブラックテクノロジーを応用して生まれた技術なんだろうけど。それにしても早い。ふと僕の頭をよぎるのは、その技術を先に採用したのはこの“ワルキューレ”か、あの海賊共どちらか。という事だ。
アークティック社が開発した“ワルキューレ”はカスタマイザー専用機の言わばプロトタイプ。試作機だ。
しかしヤツらの機種はカスタマイザー専用機では無いにしろ量産に成功しているみたいだ。という事は、ヤツらの方が先に開発に着手した可能性がある。
つまり、より技術が洗練されている、という事だ。
何にしろ理由は分からないし、それを考えても状況の打開は出来ない。
次世代量産機があと4機。この状況を楽しめるほどの経験は僕には無かった。だから僕は雄叫びをあげる。
心に住まう恐怖を、うちなる弱さ、魔物を祓うために。
そんな僕の叫びが聞こえるはずはないのだが、タイミングを同じくして敵MKが散開した。
敵の目的はやはり僕、ではなく“ワルキューレ”の様で、メイリン機やドゥカウスケート機には見向きもしない。
そうだ、それでいい。
その隙にドゥカウスケートは中破、いや、大破した“ ブルーガーネット”から“ティンバーウルフ”に乗り移る。
近距離通信で確認したが、パイロットも負傷しているものの大事には至っていない様だ。
その情報にとりあえず安堵し、僕は操縦桿を押し込む。
初めて握るはずのその操縦桿は不思議な程に手によく馴染んだ。グローブ越しに伝わるこのMKの熱のようなもの……それは言い過ぎかな。そう錯覚するほどにこの“ワルキューレ”は僕の意思通りの動きをしてくれる。
これなら行ける。
敵MKはホバリング能力に優れているようで、人間の下腿に位置する場所に自重を浮かせる程の強力なスラスターを潜ませているようだ。
まるで氷上のスケーターの様に大地を滑って撹乱を試みる。もちろんただ動き回るだけではない。この時代の最新兵器フォトンライフルを放ちながら。
フォトンビームの軌道は4本。見極めるのは困難だ。
しかしこちらとて自ら望んで的になってやる心算などない。
僕も彼らに習って背面スラスター全開で機体をホバリングさせて突撃を仕掛ける。相手の予測より早く移動するんだ。銃口の向きで射線を予測。そして誘うようにして発砲を促す。
敢えて紙一重で交わして懐に飛び込む。前腕部に格納していたフォトンセイバーのグリップをパージして素早く装備。それと同時に光の刃を発生させて敵MKの胸部を焼き貫く。これで3機。
これはこの半年間、ドゥカウスケートと手合わせする事で得た僕なりの戦い方だ。
自らが動き回り、照準を合わせさせない。同時にこちらも照準がつけにくくはなるが、肉薄すれば当てるのは造作もない。もっともこれは“ワルキューレ”の出力あっての戦い方でもあるのだけれど。
シミュレータ訓練ではなかなかこうは行かないのはリオやシャルが僕の癖を熟知しているからだろうか。
ふとそんな事が頭を過ぎる。そんな事考えられる程に冷静になれているみたいだ。
続けて“ワルキューレ”を敵MKの1機に肉薄させるとフォトンライフルの銃口を相手の胸部に突きつけて数瞬の迷いもなく引き金を引いた。
青色のフォトンビームが敵MKのコクピットを容易に貫く。脱力したMKを蹴り飛ばして動き回っていた中の1機に衝突させる。
もつれて体勢を崩して欲しかったけれど、それくらいでもたつく様な腕前ではない様だ。
コクピットを貫かれたMKを引き剥がし、フォトンライフルを構える。
『ーー』
散弾?
そう、敵MKが放ったのはショットガンのように細かいフォトンビーム弾を放つ散弾だった。
なるほど、通常弾が当たらないからって事なのか。でも、
「散弾ではなぁ!」
そんな細かくしたフォトン粒子ではこのルナティック合金の装甲は打ち破れない。頭部のみを対フォトンコーティングされたシールドで守って、あとは捨て置く。案の定、細かくしたフォトン粒子は強靭な装甲に阻まれて散っていった。
散弾モードに切り替えられる事には驚いたけど、こんな初期型のフォトンライフルの出力から放たれる散弾など目眩しにしかならない。もっともルナティック合金じゃなければもう少し効果はあっただろうが。
散弾モードでは歯が立たないと思ったのか、今度はフォトンセイバーを装備して突撃してくる。隙のない洗練された動きだ。
僕は背後の1機の動きに注意しながら、それでも“ワルキューレ”にフォトンセイバーを装備させる。一合打ち合う。敵は鍔迫り合いを望んだ動きをしたが僕はそれを嫌ってあっさりと機体を外へ逃す。 バランスを崩し、背中を見せた敵MKの肩口から脇腹にかけて両断する。
多くのMKは背部ランドセル内にメインエンジンを携えている場合が多い。
そのエンジンを両断したのだから当然爆発が起こる。少しのタイムラグの後爆発を起こしたが、シールドと高速バッグステップでそれを凌ぐ。
これで何機目だ。気付けば6機残っていた敵MKはあと1機を残すのみになっていた。
その1機残された敵MKはフォトンライフルを構えながらも一歩、また一歩と後退りし始めた。
怯えている?
機体の動きからそう感じとったが、僕にコイツを無事に帰す心算はない。敵兵を逃せば再び武器を持ち戦場に帰ってくるだろう。それが僕の大事な人、そうでなくても友人や友人の友人を殺すかも知れない。
僕はこのMKにありったけの殺意を向ける。
そう、戦場に出てきた以上は覚悟がいるんだ。
奪う覚悟、そして、奪われる覚悟が。
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