02-25.覚悟 ※エディータ・ドゥカウスケート視点
今回はエディータ視点のお話です。
警報、警告、警報――。
私が駆る“ブルーガーネット”のコクピットの中はすごく騒がしかった。
360°モニターに表示されたそれらひとつ一つの警告に対応している暇などなく、初めのうちは目で追っていたが、やがて追いつかなくなり、全てのコーション表示を非表示にした。
これで静かになった。もちろん全ての問題に蓋をしただけに過ぎず、状況は何一つ改善されていない。
敵は先日会敵した例の海賊で間違いない。明らかに目立っていた【赤い機体】が居ないのが気になったし、どの機種も見たことのない機体だけどショルダーアーマーに描かれたマーキングが先日と同じものだから間違いない。
敵機は8機。どの機体も脅威的な操縦技術を持つ手練れだ。陣形を組んで、それぞれがそれぞれの役割を理解し、連携して襲ってくる。
何とか2機減らしたけど、向こうは私の事を良く研究しているみたいで、どの機体も距離を取る戦法を取って私を近づけさせてくれない。
私の得意とする戦法は近距離での格闘戦がメインで、短い距離を一気に詰めて肉薄して一撃離脱。そして次の目標へ。
それを繰り返してスコアを稼ぐ。敵の真っ只中に突撃して、掻き回す戦法が私の最も得意とする所なのだけれど、今みたいにバラバラと広がった陣形を取られていては1機に突撃を試みても他の機体から中距離射撃を受けて近づく事も容易ではない。
いつもならこんな戦法を取られたとしたらメイリンとの連携で何とか切り抜けられるのに。
彼女は今私の新型に張り付いて守ってくれているはず。イグニッションキーが見つからない以上起動する事は出来ず、私は“ブルーガーネット”で出撃した。
……私はあの“ワルキューレ”が好きにはなれそうにない。
私専用に作られた機体はこの“ブルーガーネット”だけで十分だ。私をよく理解し、私が得意とする戦法を理解し機体に反映してくれた。私のための機体。
けれどあの“ワルキューレ”は違う。最新の技術を駆使し、私をより『マシーン』の一部に組み込もうとしてくるかの様なあの機体が私は好きじゃなかった。
そう、科学者にとって私は装置でしか無い。
神経を研ぎ澄まして戦場に於ける【勘】を過敏にし、戦闘能力を向上させる【レギュレータ】
それは非常に依存性の高い薬物で、少量を定期的に摂取しなければ身体に禁断症状が出る。私の身体はその薬物に侵されている。
簡単に手に入るものでは無いので、薬物依存から抜け出せない私はマッドサイエンティストの言う通りに戦闘データを提出して、その見返りとして【レギュレータ】を受け取る。
自ら身を投じた事だとは言っても、こんなはずでは無かった。こんなはずでは……。
『――』
来る、右から。
私は直感を頼りに機体に回避行動を取らせる。するとさっきまで自機がいた場所に一筋のフォトンビームがよぎった。
そう、今回、奴らはMKでは初めて“ワルキューレ”が装備するはずだったフォトンライフルを装備していたのだ。
それに気付いた時は流石に悪い冗談だろうと思った。いや、違うな。悪い冗談であれと思った。が正しい。
フォトンライフルはその特性上、機体のジェネレーター出力が少ない機体には装備出来ない。
つまりは機体のパワーも数段上、しかも次世代MKの代名詞であるフォトンライフルを全機装備している。
私の“ブルーガーネット”は第3世代の中でも初期に開発された機体だ。それなりにうまく使う自信はあるけれど、第4世代MKと正面からぶつかって押し返すことなど無理だという事はわかっている。
「……っ」
再び射撃を受ける。機体を捩らせて回避……もう一撃。再び回避。90mmサブマシンガンとジャイアント・バズーカで応射して再び移動。この場に留まったら良い的だ。奴らならものの数秒で撃ち抜くだろう。
「……」
残弾を撃ち尽くしたジャイアント・バズーカを破棄。身軽になったと思うのも束の間。
『――』
右……いや、左!?
【レギュレータ】で得た直感を見誤るなんて……焦っている。敵が放ったフォトンビームが“ブルーガーネット”の左肩を撃ち抜いた。
スパイクが施されたショルダーアーマーが融解し、左腕が吹き飛ぶ。フォトンビームの熱がコクピットにまで届いて息が詰まる。
「っ!」
続けて2連射、1発目は機体を翻して回避、しかし2発目は右腕前腕部に被弾。手にしていたライフルが誘爆して砕け散った。
“ブルーガーネット”はバランスを崩して転倒、すぐさま立ちあがろうと背面スラスターを焚こうとするが推進剤が枯渇して起動しない。
ならばと各部のスラスターを確認するが、結果は同じだった。
ここが好機とばかりに海賊共が一気に距離を詰めてくる。
捕らえるつもりか、はたまた殺害が目的か。敵は恐らく私がカスタマイザーであると知っている気がする。だとしたらカスタマイザーなんて面倒くさい人間なんて捕虜にしない方が良い。薬が切れれば一晩中泣き叫び続けるんだから。
そう、漂流して流れ着いたあの島で過ごしたあの日のように。
戦いでここまで追い詰められた事はあっただろうか。そうか、これが死ぬ前の気持ちなのか……諦めと、謝罪。それらが入り混じった感情が胸に広がって行く。
あの日、家を出た私の心の中にあった確かな感情。もう忘れてしまった確かな願い。最期を悟ったその時にその願い、その夢が私の凍った心を確かに逆撫でした。
ふと浮かんだ顔は、メイリンだった。お飾りの隊長の私を一生懸命に支えてくれた私の副官、メイリン。彼女には本当に迷惑をかけた。
「……メイリン」
私はポツリとそう呟いた。
それと同時に1機の敵MKが私にフォトンライフルの銃口を向けた。
一閃。
そのフォトンライフルを横切る様に一本の光の筋が入った。
ほんの一瞬。その光は幻かと思えるほどの一瞬の瞬きだった。けれど確実に射貫かれたフォトンライフルは融解し、爆発した。
な、なに……?
そう思う間もなく再び閃光が走り、私の目の前に迫っていた敵MKが爆発炎上した。真っ赤な炎が燃え上がり、飛散してきた小さな部品が“ブルーガーネット”の装甲に当たって音を立てた。
そして銃弾の嵐が降り注ぐ。これは知ってる、60mmバルカン。“ブルーガーネット”と敵MKとの間を切り裂く様に放たれたバルカンは基地内の滑走路に当たって跳弾した。
一瞬の出来事で瞬間的に動きが止まった敵MKの視線が一斉に射線の先に向く。
次の瞬間、また閃光が走った。
稲妻の様に早く、槍の様に鋭い、閃光が――。
「……ワ――」
『准尉、エディータを!!』
『応っ! 隊長、こちらに!』
光、それは獰猛で、力強く、勇敢な一角獣。
悪を挫き、正義を貫く、新雪色の鎧に身を包んだ、純潔の誇り高き戦乙女。
私の、仲間。
「……“ワルキューレ”」
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