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02-24.敬意


「え、ちょっと待ってください。どうしてそうなるんですか」

「私はキミのセンスを買っている。この状況から抜け出すには私よりキミが操縦した方が確実だと判断したまでだ」

「僕がメイリン准尉より操縦が上手いとでも言うんですか、冗談じゃありませんよ」


 しかしメイリン准尉はトントンと自身の耳に装着したインカムを指で突いてから眉根を寄せる。

 表情から察するに冗談なんて微塵も言っているようには見えなかった。


「恐らく敵は例の神出鬼没の海賊だ。奴らは先日の戦闘でエディータ隊長と引き分けている。相当な手練れだ、そいつらが準備万端に奇襲を仕掛けて来た。そしてランディ小隊は不在。相当に分が悪い」

「だからこそ僕みたいな素人が――」

「ライセンスを持っていないだけだ。キミには既に十分な実力が備わっている。私はキミを買っているんだよ、コータ」


 するとメイリン准尉はサンクーバで僕がドゥカウスケートの一撃を受け止めたことを引き合いに出して言う。


 あんな見事にドゥカウスケートの突きを止められたのを見たのは初めてだと。それと自分には絶対に出来ないと、そう言った。


「だから今はキミが乗れ。そして隊長を助けてやってくれ。私も“ティンバーウルフ”でサポートする」

「僕がドゥカウスケートを助ける?」

「そうだ。戦況は芳しくない」


 インカムで戦況の変化を把握したんだろう、逃げ回って時間稼ぎという案はどうやら却下らしい。

 そしてあのドゥカウスケートが押されつつある最悪の状況だという。


 ドゥカウスケートが出撃したのは確かに見た。けれどこのダリル基地に所属しているもう一つの小隊はクルスデネリに遠征している。

 基地の警備隊もアメリカ本土の内陸部にある比較的平和な立地であるという理由で守備隊も潤沢とは言えない装備である。月から付いていた護衛部隊も昨日引き上げてしまった。


 そして相手はドゥカウスケートと引き分ける様な手練れ。それが奇襲を仕掛けて来ている。受ける側のコチラと違って例の海賊共は準備万端である筈だ……そう考えると確かに状況は最悪に近いかも知れない。


 だからこそ僕は僕なんかが乗ってもいいのかと思う。代わりがいないサンクーバの時とは違うんだ。

 僕が乗らなくてもメイリン准尉がいる。軍の正規のパイロットであるメイリン准尉より僕の方が相応しいなどとは到底思えなかった。


 でも、メイリン准尉の目は真剣そのもの。揺るぎない意志を(たた)えた瞳で僕を捕らえて逃さない。


「私にはオリジナルにカスタマイズした“ティンバーウルフ”がある。慣れ親しんだ機体の方が力を発揮出来るのさ。それにキミはスーツまで着ている。やる気まんまんじゃないか」

「いや、これは」

「分かっている、冗談だ。大丈夫だ、責任は私が取る」


 僕を操縦席に座らせたままでメイリン准尉はイグニッションキーをコンソールパネル横の鍵穴に差し入れた。

 メインコンソールモニターが立ち上がり、パイロットのパーソナルデータの登録を促してくる。

 各種計器類が放つ鈍い光がメイリン准尉の整った顔を照らした。


「……本気ですか」

「ああ。もう一度言う。エディータ隊長を助けて欲しい。キミの力が必要だ」

「……」


 少しの時間、数秒間思考を走らせる。


 もし僕が“ワルキューレ”に乗らなかったら、メイリン准尉が代わりに出撃するだろう。

 もし万が一、ドゥカウスケートもメイリン准尉が撃墜されてしまったとして、海賊共は素直にそのまま帰るだろうか。

 アメリカにはアカデミーがある。その街にはリオがいる。奴らが万が一そこに向かったら。いや、いく理由なんてないけど、万が一足が向いたら。

 

 ドゥカウスケートを失い、メイリン准尉を失い、“ワルキューレ”も失い……。


 そうなってしまった時に僕は僕が許せるだろうか。

 リオを守るために生きているなんて言いながらも、目の前の問題から目を背けて保身の為に逃げの様な決断をした僕は僕を許せるだろうか。そんなの考えるまでもない。

 

 本当に僕で良いのかと思う気持ちはあるけれど、常日頃からドゥカウスケートの操縦を間近で見ているメイリン准尉が僕のことを買ってくれている。


 自信は無いけど、彼女が認めてくれているという事は自信にしても良いんじゃ無いだろうか。


 ドゥカウスケートを助ける? 

 そんな大それた事は出来るとは思えない。でも、ドゥカウスケートだって自分の意思で戦っているわけじゃ無いんだ。


 経緯はどうであれ【レギュレータ】なんていう依存性のある薬で身体をコントロールされて、本人の意思を無視して戦わされている。


 そんな彼女に背を向けて逃げるなんて僕には出来なかった。

 あの夜、苦しそうにもがくドゥカウスケートの辛そうな表情。あんな思いをしてまで国を背負い、僕たちを守ろうと奮闘する彼女には敬意すら湧いてくる。


 その時、格納庫に爆発音が響く。

 ロックをしていた作業員用扉を爆破して数人の武装した歩兵がなだれ込んできた。

 バイザー付きのヘルメット、分厚い防弾ベスト、大口径のマシンガン。その洗礼された動きは見ていてゾッとする様にしなやかだった。


 考える時間は……もう無いみたいだ。


「決意は固まったか。では、戦場で会おう」


 そう言い残してメイリン准尉は“ワルキューレ”の足元に侵入して来た歩兵に牽制射撃を行いながらハンガーを駆け抜け、自らのMK(モビルナイト)のコクピットに滑り込んだ。


 すぐさま起動したようで、今度は頭部60mmバルカンで威嚇射撃を行う。それに比べたらさっきの拳銃の弾などは豆鉄砲に等しい。射撃を受けた歩兵達は慌てた様子で物陰に身を潜めた。


 それを確認してからメイリン機はカタパルトで発進して行った。


「今度は僕の番、か」


 時間がない。僕も行こう。





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[一言] 最新鋭試作機での戦闘、ご飯3杯いける
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