02-21.小僧
メイリン准尉と研修で説明を行っていたオムと名乗ったその男性は所属までは名乗らなかった。
まぁカスタマイザー専用機の研修を行えるほどの人物。生い立ちはどうであれ、あまり深くは勘繰らない方が良いだろう。
オム氏から聞いた話をまとめるとこうだ。
まずこのカスタマイザー専用機には、搭乗者の脳波を感知し、それを送受信出来る機関が組み込まれているらしい。
……そう、まさに僕がアカギ教授に伝えた5年後の新素材。ブラックテクノロジーがこの機種には搭載されているというのだ。いや、もっと言うとあの素材はまだ完成すらしていないので、その劣化版のコピー。開発途中の素材を誰かが自己分析してそれなりの形にしてみた物。と言った方がいいのだけれど。
情報が漏洩している。
アカギ教授がカスタマイザーの研究をしている者に情報を売った。……なんて事はもちろん無い。かと言って無関係かと言うとそうではない。
どういう事かというと、アカギ教授は既に試作1号機と2号機の開発に着手している。研究こそ北海道の防衛学園内にある教授のラボで行われているが、実際に機体を作ったり組んだり、するのは“ティンバーウルフ”を手掛けるMK製造会社の大手【アークティック社】に委託している。
【アークティック社】は世界最大のMKの製造シェアを誇る会社だ。それはもうレイズや国際連合軍の機体など関係なく製造する。
つまり、アカギ教授が書いた図面を元に【アークティック社】の開発チームが実際に機体の製造を開始する。
その段階でブラックテクノロジーの情報が漏れて今こうしてカスタマイザー専用機に兵器として搭載されるに至った。
僕が信じたのはアカギ教授とその研究チームの仲間たちまで。それ以外から情報が広まるのは仕方がないことである。
アカギ教授がいかに素晴らしい図面を描いてもそれを機体に起こすには研究チームだけの力では絶対に不可能なんだから。
そんな事は分かりきっていたので、情報が漏れてこうして機体に組み込まれるのはまぁ許容範囲内だ。むしろ情報が漏れてそれに世界中の研究者が食いつけば更なる発見にもつながるからね。
そしてその新素材が完成して多くの機体に組み込まれればその時は。
いや、話を戻そう。だからまぁ情報漏洩は仕方ないと、そう言う事だ。
まだ不完全な状態でもこの機体に組み込まれたそれは一体どんな事が出来るのかというと、それは腰部サイドアーマーに装備された合計6基のミサイルの誘導に利用する事が出来るんだという。
近年のMK戦に於いて、誘導ミサイルというのは夢のような兵器だ。
何故ならジャミング粒子下での戦闘の場合、ほとんど電子制御の誘導は意味をなさなくなってしまうから。
しかしこのカスタマイザー専用機の誘導ミサイルはパイロットが肉眼で敵機を追って、ミサイルを自分のさじ加減で自在に軌道修正出来てしまうんだから。
ほとんど最強じゃないかとそう思ったけど、やはりというか弱点があった。
そのミサイルの軌道を変えられる回数と誘導可能範囲。一度発射して一度だけ方向転換が可能らしい。それと急すぎる方向転換は不可能だ。例えば進行方向に対して急に真逆に軌道を取るのは無理。方向転換は90度程度までみたいだ。
高速で移動するミサイルを自分の意思で方向を変えるって相当に難しいと思う。
そして当然だけど、敵機が、もしくはミサイルがレンジ外の場合は誘導不可能だ。信号が届かなきゃ動かせないから。
やはり試作段階で更に言えば劣化版のコピーなので機体制御には利用できていないみたいだね。
それと最大の弱点。
それはカスタマイザーが、パイロットが発する脳波が必要だということ。
それを感知して兵器に反映するのだから、送信機にパイロットの意思が伝わらなければいけない。
カスタマイザーやごく一部の人間にのみ検出出来る特殊な脳波を機体に取り込んで各動力に信号を送る。
その特殊な脳波が出せる人間以外にも使えるようにするのがアカギ教授や僕の最終到達点だ。
ごく一部の兵士にか使えない、ましてやカスタマイザーで無ければ使えないだなんて論外だ。誰にでも使う事が出来る汎用性がない兵器、という事になる。いや使い手を選ぶ兵器だなんて確かに格好いいけど、引き金を引いても発砲出来ない銃なんてただのガラクタだ。
「説明は以上だ。3日後シャトルが地球に降下する。機体の受け渡しはダリル基地。その後陸路でE.M.Sに移動する手筈になっている。では、解散」
敢えて「これは極秘だ」とか言わないんだな。そうだよな、そんな分かりきっていることを。
説明会が始まる前にダリル基地の整備兵が「こんな小僧に聞かせるのか」と噛みついてきた。
いや、うん、そうだよね。それが普通の反応だ。当人の僕ですらそう思う。僕は何処の馬の骨かも知れない子供だ。
けどそれはドゥカウスケートがカスタマイザーである事をこれ以上広げたくないんだと分かる。
メイリン准尉やヨナは僕の整備士としての腕を買ってくれてはいるけど、まだ実践がない僕の社会的信用は皆無だ。
信用を積み重ねて今の位置にたどり着いたこの人たちからしてみたら面白くないんだろうな。
けどそんな事はどうでもいい。
僕はまだ見ぬ機体に思いを馳せる。
どこぞのコソ泥がくすねたあの新素材をどう解釈してどう発展させたのか。中を開いてみるのは少し楽しみではある。
例えカスタマイザー専用機であっても第4世代MKのプロトタイプに触れる事が出来るなんて整備士冥利に尽きるというものだ。
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