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02-18.半年後


 クルスデネリから帰国して僕の噂が過去のものとなった頃、あの遭難事故から半年が過ぎた。

 

 僕たちはといえば、アカデミーでの生活にはもうかなり慣れてきて、朝晩のトレーニングをしたり、積極的にシミュレータ室で操縦訓練をしたりと確実に自分を磨いている。

 リオやシャルは持ち前のセンスの良さを発揮して、既に学年で敵うものがいない程の腕前になっている。


 そんな2人に僕はギリギリ勝てる程度……。いや、5年のアドバンテージがあるとは言っても、元々僕は操縦が得意って訳じゃないから。うん、言い訳だけどさ。 


 サンクーバで“ティンバーウルフ”に乗った時にはすごく頭の中がクリアになって、思うように機体を動かす事ができたんだけどなぁ。相手の動きが手に取るように分かる全能感もシミュレータでは発揮されないし……。やっぱりあの直感めいた感覚は何かの気のせいだったのかな。


 リオやシャルに追いつかれようとも僕の思いは一切変わらないから、日々の努力は怠るつもりはない。それに、今の僕たちには強力な先生がついている。


「……再戦」

「よろしくお願いします」

「……」


 こくりと頷いて、もう一度シミュレータ対戦の相手をしてくれるのは、なんとドゥカウスケートだ。

 リオとシャル、2人を同時に相手をしているというのに全く危なげない操縦。やはり〝女傑〟は伊達ではない。

 

 あのクルスデネリから帰国して以来、こうして僕たちのシミュレータ訓練にドゥカウスケートが付き合ってくれる事が多くなった。


 いや、正確には僕たち3人、僕とリオとシャルがシミュレータ訓練をする時は僕から声をかける様にしている。これは他ならぬメイリン准尉の頼みであった。ドゥカウスケートも本心はどうであれ、嫌がるそぶりもなく付き合ってくれる。


 メイリン准尉はドゥカウスケートが“カスタマイザー”である事を知っていた。

 

 これは“リトルダーナ”に救出された後に、メイリン准尉の方から聞かされた事で、副隊長という立場であると同時に、軍のある機関から“カスタマイザー”であるドゥカウスケートの世話役を命じられていたというのだ。


 残念な事に“カスタマイザー”であるドゥカウスケートは一人きりでは通常の生活を送るにはやや不自由な身体になってしまっている。

 

 投薬は時間で管理しているので、アカデミーにいる時は余程の事がない限りは心配はないという事だけど、なるべくなら気にかけて欲しいと。さすがにメイリン准尉はアカデミーまでは一緒に来られないから、可能な限り見守って欲しいと。


 まぁ僕としては敵だと思い込んでいたドゥカウスケートには事情がある事がわかったし、〝女傑〟に稽古をつけてもらえるなんて願ってもない事だ。

  

 稽古と言ってもドゥカウスケートは教えるのがそんなに上手くないから、ひたすらに対戦して動きを身体に叩き込む訓練、とにかく対戦を繰り返す。


 ただそれだけだけど、リオとシャルはメキメキという音が聞こえてきそうなほど上手くなってきている。

 もともとセンスの塊の様な2人だ。それを〝女傑〟に鍛えられれば上達も早くもなるというものだ。

 

 ドゥカウスケートの動きを見て、考えて実行する。それを繰り返していく内に少しずつでもリオとシャルは強くなっていっている。僕も負けていられない。


「エディータ先輩はどうやって射線予測してるんですか? 全然当たる気がしないんですけど」


 ドゥカウスケートに完膚なきまでに打ちのめされたシャルが黒色のショートヘアをガシガシとかきながらそんな事を聞く。

 ここ半年間、シャルもリオもドゥカウスケートに一撃すら命中させていない。それで心を折る事なく挑み続ける彼女らの意志の強さはさすが。だけど流石に現状を打開したいのだろう。


「……みる」

「み、見る?」


 ポツリと返すドゥカウスケートにシャルが、相手を見ろって事か? と首を傾げる。隣にいるリオも意味が読み取れないのかコテンと首を傾げる。


 リオの仕草はめちゃくちゃかわいいけどドゥカウスケートが言ってる事は分からない。

 教えるのが上手じゃないというか、話す事自体が苦手だからな……。

 

 いや、話すのが苦手というか、自分の気持ちを伝える事に意味を見出していないというか。


 彼女は他人に気持ちを伝える意味を理解していない様にすら感じる。それは彼女がカスタマイザーであるからではないはず。カスタマイザーとして調整されたとしても個の人格までも変えれないらしいから。


 とはいってもカスタマイザーは陰の存在。


 その存在は確認されてはいるけど、それほど事例が多い訳ではない。だから分かっている事も非常に少ない。

 幸い僕は5年後の世界では少し研究が進んでいたから今のこの時代の常識よりも知識はある。

 

 他人の意思で戦わせられる兵士。他人の意思で命すら投げ出す戦士。

  

 兵士というものは自らの命を差し出す覚悟は必要だろう。けれどそれは他人がコントロールして良いものでは無い。


 知識チートだろうがなんだろうが使ってやる。

 あの反逆にどんな意味があったのかはまだわからないけれど、少なくともドゥカウスケートは自分の意志とは無関係にテロに加勢していた。はず。


 もしかしたらドゥカウスケート以外にもカスタマイザーが混ざっていた可能性がある。

 そうすれば自分の言いなりになる強力な兵を比較的簡単に手に入れる事が出来る。


 考えただけで腹が立ってくる。


 ならばカスタマイザーの身体を蝕む【レギュレータ】を中和する新薬が簡単に手に入れる様に出来れば、その様な事態を予防出来るのではないか。


 シミュレータ訓練を行う3人を眺めながら僕はそう思いを馳せていた。


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