02-17.兆し
無人島から救出された僕はアフリカ大陸にあるクルスデネリ本国に来ていた。
ドゥカウスケートが発作を起こした翌朝、僕たちを捜索していた“リトルダーナ”に発見されて無事救出されたんだ。
結果的に身を挺してドゥカウスケートを救出した形になったのでクルーのみんなからはすごく感謝された。もちろん漂流した先でドゥカウスケートに助けられたのは僕の方だし、僕としては複雑な心境ではある。
それでも隊長を助けられたのは僕のおかげだと言ってもらえるだけありがたい。
逆に、お前のせいで……なんて言われる事態も最悪あり得たわけだし。
だってあの時、無理して漂流するコクピットブロックにマニュピレータを伸ばさなければリールが破損するような事は無かったはずなんだから。
今回の遭難事件で分かった事は、ドゥカウスケートは本当にこの隊の隊員に愛されているという事だ。
彼女の無事に涙する隊員も少なくなかったし、メイリン准尉に関しては任務中の凛々しさは一切なく、キャラ崩壊する程泣いて再会を喜んでいたもんな。
ドゥカウスケート隊の隊長で最年少の彼女は、彼ら隊員にとっては頼れる凄腕のパイロットであり、放って置けない妹分のような存在なのかも知れない。少なくとも僕はそう感じたし、ロイ軍曹が言っていた「隊長をみんなで支えるチーム」だと言っていた事が何となく理解出来た。
出来たからこそ、彼女が抱えた問題がどうしても放っておけない。
『……なんじゃと、それは本当か?』
「はい、間違いありません。あれは【レギュレータ】です。空瓶を回収したので後でお送りします」
僕たちは国際連合に属したクルスデネリの基地に寄港する事になった。本来そんな予定は無かったが、ドゥカウスケート機が発進不可能な状態であるし、余りにもイレギュラーがすぎた為だ。
そこで僕はアカギ教授に連絡を取り、ドゥカウスケートがカスタマイザーであった事を告げた。
アカギ教授は以前から前大戦の負の遺産であるカスタマイザーの存在を危惧しており、その処置を施された兵士の救済、治療が出来ないか研究されていた。
アカギ教授は工学が専門ではあるが、カスタマイザーはその特殊な性質上、MKも切ってはきれない間柄だ。
それ故に専門外ではあるものの、アカギ教授はかなり心血を注いで研究されていた。
例えカスタマイザーがMKの性能を十二分に発揮する存在だったとしても、パイロットを、人間をその〝部品〟としか考えないカスタマイザーという存在は許容出来るものでは無いと考えていらっしゃる。
……正確には、カスタマイザーを生み出した科学者を許容出来ない。という事になる。
『まさか〝女傑〟までもカスタマイザーであったとはな。国際連合軍も地に落ちたわい……』
「……はい。非常に残念です」
今までカスタマイザーは国際連合軍、レイズ軍双方で確認されていた。
圧倒的な戦闘能力を持つ彼らは戦場の最前線で活躍していたが、その特性ゆえ、非常に短命。すでに幾人ものカスタマイザーが戦場に散っている。
圧倒的な戦闘能力を持っていたとしても、大量の薬物投与は薬物依存を引き起こし、精神的に非常に不安定だ。
昨日のドゥカウスケートのような発作を戦闘中に起こす事も少なくない。ああなってしまえばどれだけ戦闘能力を持っていても的になるだけだ。
戦闘で運良く生き残っていても、薬物の副作用による中毒症状に悩まされて通常の生活が送れない兵士が多いそうだ。
その兵士はやがて精神を病み、抜け殻のような余生を過ごすことになる……という話だ。
カスタマイザーは自分の意志とは無関係に戦場に投入されては……その、非常に、ものすごく胸くそが悪い表現だけれど、使い捨てられてきた兵士達。
その兵士を何とか救いたい。
アカギ教授はその一心で研究を重ね、ある論文を発表した。
『確かに国際連合の中にも下衆はおるようじゃがの。しかしコータ。お主がワシの論文の問題点を指摘してくれたおかげで彼女の様な兵士を救えるようになったんじゃ』
「……! では」
『うむ。既に手は打ってある。体内にある【レギュレータ】を取り除く為の中和剤の完成はもう間近じゃ』
そう。その論文こそ、僕がアカギ教授と出会う為に利用した論文。
1周目の数年後に僕が解決策を見出して、アカギ教授の論文の問題点を見つけ出して、解決策を立てたあの論文こそ、『カスタマイザーになってしまった人間を救済する為にはどうすべきか』という内容のものだったんだ。
タイムリープしてきて直ぐに手を打ったあの出来事のおかげでドゥカウスケートを薬物から救い出す事が出来るかも知れない。
もっとも、僕のその指摘を真摯に受け止めて即行動に移してくださっていたアカギ教授の手腕は流石だと言わざるを得ない。
まさか新薬の開発すらしていただなんて……。
いや、まさか自らはされてはいないだろうけど。それでも著名な教授自らが委託してくださったからこそ人が動き、これだけ早く結果を出せたんだ。
驚く僕だったけど、アカギ教授は『お主の働きのおかげじゃ』と言って下さった。
いや、アカギ教授の力があってこそだと思うけど、そう言って下さって本当に救われた気分だった。
けれど新薬はまだ試験段階で、形にするのにはまだまだ時間がかかる。
でもそれで救える命があるのなら僕は嬉しい。
そうと決まれば新薬開発を急がせるわい、とそう言ってアカギ教授との国際電話を切った。
ドゥカウスケートは投薬によるすり込みで裏切りを強要された可能性が高い。裏切りに本人の意思は無かった……と思う。
だから彼女の身体を蝕むその薬物【レギュレータ】を中和する薬剤さえ出来れば、あの日の裏切りにドゥカウスケートは協力しない可能性がある。あくまで可能性、という話だけど。
僕はほんの少しだけ希望が見えた気がして心が軽くなるのを感じた。
それからドゥカウスケート隊はクルスデネリ基地にて数日滞在し、体制を整える為にアメリカに帰国した。やはり主力である“ブルーガーネット”のシステムに疑問が残る以上は無理はさせられないから、という事だった。
帰国後、僕はあのドゥカウスケートを救出したパイロットとして少しの間だけ話題になった。作戦中の出来事で、機密とかそんなの無いのかよとも思ったが、誤作動を起こした脱出機構はリコールとなったし、その注意喚起と合わせて話が広まってしまったらしい。
今回の事件でE.M.Sも軍から再注目される事になり、ヨナからはかなり感謝された。
危険手当などかなりの金額が振り込まれたらしいし。もしかしたら民間軍事会社としての立て直しが図れるかもしれない。
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