02-15.狩猟
まずは状況の整理だ。
捜索作戦が実行された翌朝、僕とドゥカウスケートはクルスデネリの領海内だと思われる島に漂着した。
現在“キュー”のコクピットは水没しており、動作不能。もちろん起動もしない。破損箇所を調べなければ分からないけど、修理もこの場では恐らく出来ない。望みがあるとすれば、十分に乾燥するのを待って火を入れてみるか。
だけどその場合、通電するわけだから最悪そこでショートを起こして部品が破損し、修理不能に陥る可能性がある。
“ブルーガーネット”のコクピットブロックはその点では無事で電源は生きている。救難信号は相変わらず発信しているので、現在の望みがあるとすれば友軍にそれを発見してもらうほかない。
非常用ボックス内にはレーションと水が1日分。それとナイフと携帯ライト。ごく簡単な調理器具、タープ、体温管理用保温シート。それと使い捨ての発煙筒。
食糧と水は1日分。それは1人用の備えであって、2人で分ければ半日分という事になる。
少し周辺の調査をしてみると恐らくここは無人島だと思われた。
周囲は海に囲まれており、岩場等もあるが基本的には砂浜。島の中心は丘の様な起伏があり、木々が茂っていた。恐らく頂上だと思われる所に登って見ると漂着した側と反対の砂浜が見えた。
と、その調査に1時間程。それだけの時間で把握出来るほどの大きさの島だ。周囲の海には似たような島が点在している。
場合によっては遠浅なので歩いて渡ることも出来るかも知れない。
ただ、この島には運良く、本当に運良く小さな谷を発見出来た。そこまで大きな島では無さそうなのに水源があるのは本当に運が良い。
食糧になる様なものがあるかは不明だけど、水があれば何日かは持ち堪えられそうだ。
防衛学園で、1周目の時に受けた模擬遭難訓練の中で一番辛かったのは水が得られない事だった。
そう、僕もドゥカウスケートもこの様な事態に陥った場合に備えて訓練はしている。
とは言ってももちろん無敵では無いし、飢えるし乾く。とりあえずは今生きている幸運に感謝はするが、物資が無くなる前に何とか救助をしてもらいたい。
それほど遠くに流されたわけでは無さそうなので、“リトルダーナ”が捜索を開始してくれたら間もなく発見されると思う。と思いたい。
「って、何してんだ?」
ドゥカウスケートの姿が見えないと思って探してみれば、波が押し寄せる岩場の崖の上にいるのを見つけた。
ナイフを棒の先端にくくりつけて、まるで槍の様な道具を作って手にしている。
パイロットスーツの下に着るインナー姿(レオタードの様な形)になって崖の上にしゃがんで、ジッと海面を眺めている。
何か見えるのか?
未だに波は高いために僕には何も見えないけれど。と思った次の瞬間、即席の槍を持ったドゥカウスケートが海に飛び込んだ。
「え、えぇ!?」
海に一直線に飛び込む姿はさながら狩りをするハヤブサのようだった。
って感心してる場合か!
波は荒いし深度は大丈夫か!? 下手すれば崖に叩き着けられるぞ!
人間離れしたムーブに驚いていると、ほんの何秒か経つとずぶ濡れになったドゥカウスケートが相変わらずの無表情で僕が立っていた浜辺にバシャバシャと上がってきた。
「あ、危ないですよ!」
「……?」
なんでそんなに焦ってるの? と言わんばかりにドゥカウスケートは無表情のまま首を傾げる。
これがあの日に裏切ったドゥカウスケートか? こんな純粋そうな目をした人間が虐殺に加勢しただなんて信じられない。
てか、せっかく助かった命なんだから大切にしようよ。そう思ったけど、彼女が手にしている即席の槍の先端に大人の手のひらほどの魚が突き刺さっていた。
「え、これを狙って……?」
え、それを目掛けて飛び込んだの? 崖の高さ10mくらいあったのに。しかも白波の中から。いや、僕でも大きな魚ならもしかして……いや、無理だよ絶対。
ドゥカウスケートは魚を刺したまま、ずいと僕に突き出してきた。
「……ごはん」
「え、あ、は、はぁ」
僕があやふやな返事をしていると、また首を傾げる。
「……いらない?」
じゃあ、と言って魚をそのままかじろうと口を開いた。
「ちょ! そのままですか、マジですか!?」
「……?」
どうして止めるのと言わんばかりに首を以下略。
この魚は、アジは生食でも十分美味しいし何よりとれたてだから最高の状態だろう。
だからと言ってそのままかぶりつくなんて何処の野生動物だよ。
お腹空いてるのか? 保存の効くレーションにはまだ手をつけていないし、随分と食事は摂っていないから。
「捌きましょうか?」
「……捌く」
「生がいいなら刺身にしますよ。わかります? サシミ」
「……」
コクンと頷いて槍ごと突き出してきた。あとはやってくれと言う事だろうか。
衛生管理は出来ないし、本当は火を通した方が良いかもしれないけど、そのまま食べるよりはマシだよね。
非常用セットの中のまな板を取り出してアジの頭を落として三枚に下ろす。皮を剥いで肋骨を削ぎ落としてひと口大にカット。一応消毒はした。お腹を壊したら大変だし。
「はい、どうぞ」
「……!」
刺身を食べたドゥカウスケートは目を見開いた。
どうやらお気に召したみたいだな、透明な白肌もほんのり赤みが差しているようにも思える。
ドゥカウスケートの背は僕と同じくらい、女性にしては高い方だとは思うけど体の線が本当に細い。こんな状況だし、ちゃんと栄養を摂らないと絶対に僕より先に倒れそうだからね。
「……獲る」
「もっと獲るんですか? それは良いですけど怪我はしないでくださいよ? 病み上がりなんでしょ」
「……」
ドゥカウスケートは「そういえばそうだった」というような表情を浮かべて(気がする)から、コクコクと頷いてから少し思案して比較的波が穏やかそうな岩場へトテテと走っていく。
飛び込み狩猟はやめてくれたみたいだ。まぁ、あれだけの運動神経があれば怪我とかは大丈夫だと思うけどね。
何だろう。こうして接触してみて思うけど、あんな事件に積極的に関わるような人物には見えないな。
無口で確かに変わった人かも知れないけど、好きで人間を虐殺出来るような人間には……いや、とりあえず今は生きる事を考えなきゃ。
それからドゥカウスケートは何匹もの魚などの魚介類を獲り、それを僕が捌いて物によっては調理して2人で食べた。
魚たちは本当に美味しくて、ドゥカウスケートがお腹いっぱいになるほど獲ってきてくれるので僕たちは海の幸を堪能した。
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