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02-14.漂着


 リオ……。

 リオなのか?

 

 柔らかい、暖かい……。

 

 とても、眠い……。







「…………! ゴホッ!? ゴホッ、がはっ……!」


 

 暖かい夢を見ていたが、次の瞬間、僕は猛烈に咳き込んで一気に意識が戻る。


 何かを吐き出した。塩辛い……海水か、これは。

 気を失っていた……のか?

 

 自分の心臓が激しく脈打っているのがわかる。その鼓動に合わせてズキズキと頭痛がした。


 ぼやけていた視界が少しずつクリアになっていく。……倒れていたのか、僕は。そうだ、そういえば僕はドゥカウスケートが乗るコクピットブロックを掴んだ後に気を失って……。


 そして次に目に飛び込んできたのは、朝色にやけた空と白銀の髪をした少女。アメジスト色の双眼が横たわる僕を覗き込むように見つめていた。

 ドゥカウスケートだ。

 上向きで寝ていた僕に覆い被さるようにしていた彼女は僕が目を覚ましたからなのか、身を起こすと静かに僕を見つめる。

 

「……」

「……」


 僕が気付いた事を確認したからなのか、ドゥカウスケートは無表情のまま濡れた下唇をペロリと舐めるとスッと立ち上がって背を向け、波打ち際に鎮座するコクピットブロックに歩いて行った。

 身体のラインが浮き出る純白のパイロットスーツ。見る限り外傷はない様に見える。

 

 救出、出来たのか……。


 状況が分からないが、健康そうな彼女の姿を見れたという事は最悪の事態は回避出来たみたいだ。


 そうだ。一体どうなっているんだ。僕は辺りを見回した。


 僕が倒れていたのは浜辺。波は荒いが嵐は過ぎたようで、水平線の向こうからは太陽の姿が見える。方角から朝日だという事がわかる。一夜が明けて嵐は去ったみたいだ。


 僕の衣服はベタベタ、砂も身体中に付いている。……もしかして僕は溺れていたのか。


 浜辺に打ち上げられるように横たわる“キュー”には波が当たって飛沫となっている。


 見ると“キュー”のコクピットが開いており、目玉にも見える強化ガラスの窓になんと亀裂が入っている。宇宙空間でも使える信頼性の高いもののはずなのに。よほど強い衝撃があったと見える。


 あそこから海水が侵入したのか。荒波に機体を揺さぶられて気を失っていたというのは理解できる。やはり目を覚ました時に吐き出したのは海水だったのか。

 

 ……どうやらここに漂着して、先に目を覚ましたドゥカウスケートが浸水した“キュー”のコクピットから僕を引きずり出して、救命措置をしてくれたみたいだ。


「あの、あ、ありがとうございました」

「……」


 多分、人工呼吸もしてくれたんだろう。何となく感触が残っている。


 ドゥカウスケートの背中に感謝を告げるけど、彼女はこちらを振り向かずに自身が入っていたコクピットのハッチから身を入れてコンソールパネルを操作している。


 聞こえてるのか? そう思ったけど、今度はドゥカウスケートが振り向いた。


「……記録(ログ)


 ログ? 記録がなんだって言うんだ。そう思って首を傾げていると再び口を開いた。とても細い声で。


「……助けて、くれた」


 ……ああ、そういう事か。


 恐らく彼女は“キュー”から自動転送された作戦記録を見たのかな。


 要するに「私を助けに来てくれたのは作戦記録を見て理解した」と言っているっぽい。口数が少な過ぎて分かりにくいな。


 ……わかりにくいけど言いたい事わかる、気がする。気がするだけだけど。実際、僕は彼女から謝意の様なものが伝わってきている。


 不思議な感じだ。何かに近いものを感じる。なんだろう。体験した事がある変な感覚だ。


 そしてドゥカウスケートはコクピットに備え付けられている非常用ボックスからボトルに入った水を取り出して僕に突き出した。


「……みず」

「……僕に?」

「……」


 無言で肯定……したのかな。眉毛ひとつ動かさないからわかんない。


 海水を飲んでしまっていたみたいなので声も出しにくいほどに喉がカラカラだ。彼女の手から受け取って口に含む。思わずごくごくと飲んでしまいそうになるけど、節約するためにふた口程飲んでから封をする。


 それをドゥカウスケートに返すと彼女もそのボトルに口をつけて水を飲んだ。白くて細い喉がコクコクと動いた。

 一瞬だけ間接キスかとも思ったけど、色気付いてる場合じゃない。


 そうだ状況……。


 一番身近にあった“キュー”のコクピットは水没してしまって電子機器は全滅だ。防水処理されてないからね。水中作業もするんだから処理しておいて欲しかった。今言っても仕方ないけど。


「ドゥカウスケート、隊長。何か分かりましたか」


 “ブルーガーネット”のコクピットなら大丈夫だろうと思ってコンソールパネルを操作していたドゥカウスケートの背中に話しかける。

 けれど彼女は振り向いて首を振った。


 ……どこだ、ここ。


 景色は何となくクルスデネリ近海……に見えなくもない。わかるのはそれくらいだ。


 そう、それくらい、だ。

 

 登る朝日、真っ白の砂浜、押しては返す白波。


「……遭難した」

「……」


 僕が悲壮感を含んだ声色でそう呟くと、ドゥカウスケートはただこくりと頷いた。

 


 

 

 

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