02-13.捜索
“リトルダーナ”から送られてきた情報と脱出機構のマニュアルとを照らし合わせてドゥカウスケートを乗せたコクピットブロックの所存を探る。
自動で発信された救難信号が途切れた場所、方向、マニュアル上の排出飛距離、風向き、潮の流れ、それらを元に計算してある程度の場所を探ってから捜索に向かう必要がある。
『その、コータ、コンピュータで算出出来ないのか?』
「出来るならやっています」
そんな事が出来るなら当にやっている。確かにそういう計算が出来るソフトウェアはあるけど今この場には無い。無いなら計算式を構築して自分で弾き出すしかないんだ。
勢いに任せて荒波に飛び込んでも見つかるものも見つからない。僕は計算しながら口を走らせる。
このまま見つからなかったら、あの日の虐殺テロは……なんて考えが一瞬過ぎった。そしてそんな自分に嫌悪感を覚える。今のドゥカウスケートは無実だ。一瞬でもそんな考えが過ぎるなんて僕は人でなしだ。
「それより“リトルダーナ”のジェネレータ出力は大丈夫ですか? 潜水航行の際は通常航行の出力では航行出来ませんよ。機関士さんと、その辺打ち合わせでもして待ってて下さい……って、す、すみません、生意気言ってしまって」
言ってる途中で言葉尻が強くなっているのに気づいて尻すぼみになってしまった。
けど艦長代理は僕の言葉を戸惑いつつも飲み込んでくれる。
『う……いや、君の言う通りだ。完全に動揺して忘れていた……騒音規制解除、ジェネレータ出力を潜航可能値まで上昇させろ。潜航スタビライザー展開、アンカー回収、各員航行準備』
艦長代理の命令を通信担当の人が艦内に伝達するのが聞こえた。
『コータ君の計算が終わり次第潜水航行開始する。絶対に隊長を探し出すぞ』
『『了解!』』
こまごました計算をしていた最中に話しかけられるものだから少しだけ語意が強くなってしまった。
目上の人に対して失礼だったか、とも思ったけどジェネレータ出力を上げていなかったみたいなので結果オーライ……かな。
潜伏していたわけだし、必要最低限の出力にしているだろうと思って言ってよかったよ。
結果的に意気消沈していたチームの雰囲気が上がったみたいで良かった。落ち込んだままじゃいつもの仕事は出来ないだろうしね。
あの操舵手の曹長さんはチームの感情コントロールが上手いな。それだけドゥカウスケートが慕われているという事か。
計算が終わった僕は“リトルダーナ”の通信担当の人宛に着水予測地点の位置情報を転送した。計算は見直したし、多分合ってると思う。
早急にその海域付近へ向かって海上付近を潜水したまま捜索する。
コクピットに近づけば救難信号を再度受信出来るはずだ。発見したら僕がコクピットブロックを回収して“リトルダーナ”がリールを巻いて“キュー”ごと船内に引き入れる。
◇
『ーー』
いる。
その瞬間ドゥカウスケートの呼吸が聞こえた気がした。
捜索開始からどれだけ時間が経っただろう、算出した方角を中心に捜索をしていると途切れ途切れではあるけど、救難信号を受信出来る様になった。
そして一瞬、海面付近にポジションライトの光を見つけた。
「……いた!」
『本当か!? 確認急げ、絶対見失うな!』
『了解!』
“リトルダーナ”に位置情報を転送してから“キュー”を大急ぎで現場に向かわせる。
相変わらず波は高く、外海は大しけだ。黒い大波が高々とうねり、稲光がおどろおどろしく瞬く。
水中にいても海面がうねるたびに機体が大きく上下して“キュー”を揺さぶる。
MKのコクピットにはパイロットの安全を確保する為に衝撃を吸収する機構が装備されている。
けれどこの作業用ポッドの“キュー”にはそんな機能は無く、揺れたらその分機体が揺れる。
こんなに揺れたら気分が良いはずがなく、あっという間に船酔いの様な症状が現れる。
けど弱音なんて吐いてる暇はない。やっと見つけたコクピットブロックを掴まなければならない。
自分で買って出た役割だ。気持ち悪いなんて言ってる場合か。
僕は細心の注意を払って海面に浮かぶコクピットブロックにマニュピレータを伸ばす。
失敗。どこを掴めば良いのかわからない。肉眼で目星はつけられないので操縦桿を上手く操作しながらタブレットで“ブルーガーネット”の整備マニュアルを素早く呼び出す。
コクピットブロックの展開図を開き、その形状を確認。
“キュー”のマニュピレータは2本。関節は各2箇所ずつあり、マジックハンドの様な腕の先端には物を挟むためのクローアームが装備してある。それで掴めそうな部位は……あった。
高光度の投光器を作動させてコクピットブロックを照らして再挑戦。
“リトルダーナ”と繋がっているケーブルが伸び切っているのか、ギチギチと嫌な音が鳴った。
母艦はこちらに近づいて来ているんだろうけれど、波で揺れて距離を縮めるのが難しい。機体が揺れるけど、このタイミングを逃したらもう一度遭遇出来るとは限らない。
スクリューモジュールの出力を上げてコクピットブロックに接近。もう少しで届く。ケーブルが耳障りな音を立てる。
もう少しだ。片腕のマニュピレータを伸ばして……掴んだ。手繰り寄せて、もう片方のマニュピレータでも掴んだ。ロック。これでもう放さない。
「腕をロックしました! 巻き上げ開始してくださ――」
その時。
機体が大きく揺れたと感じた瞬間、金属が弾ける様な音が“キュー”のコクピットに響いた。
「……なんの音だ!? うわ!?」
警告……リールが破損した!?
“リトルダーナ”と接続していたケーブルが切れたのか、くそ、あと少しで届くと思って無茶してしまったか!
巨大な“リトルダーナ”はこの〝キュー〟に取っては碇みたいなものだ。あれば機体は安定するけれど、無くなればこの軽い機体は一気にうねりに飲み込まれ、制御出来なくなる。この深度ではスクリューモジュールなどでは機体制御は不可能だ。
荒波に揉まれてコクピットがカクテルシェイカーの様に容赦なく揺さぶられる。MKなら衝撃吸収機構もあるのに……。
意識が途切れる瞬間に浮かんだのは、ふわりと温かい感覚。
リオ……。
そう、心の中で呟き、僕は意識を失った。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!