02-13.焦燥
“ブルーガーネット”を襲ったのは一筋の雷。
轟音を伴って一瞬視界が真っ白になるほどの光を放った。ドローンから送られて来た映像をライブで見ていたから目が眩んでしまった。
それに音。水中にいた僕の耳にも聞こえるほどの音だった。
“ブルーガーネット”は背中に2本のジャイアントバズーカを装備している。
砲身が上部に突き出た様になっている為に、それが避雷針代わりになったのかも知れない。メイリン准尉の“ティンバーウルフ”と全高はほぼ同じだけどバズーカの分だけ背が高くなっていたのが原因か。
MKに雷が落ちるのはごく稀にある。一昔前はそれによってパイロットが感電して大怪我、または死亡してしまうなんて悲惨な事故が起こった事もあったらしい。
背が高い機動兵器だから稀に起こる。
だから最近の機体には様々な落雷対策が施されている。例えば、今も暴発しなかったジャイアントバズーカやコクピットブロックの絶縁処理だ。
パイロットが感電して大事に至らない様にするための処理がしてある。もちろん“ブルーガーネット”にも“ティンバーウルフ”にも。
ただ、電子回路の類までは不可能なので、もしかしたらショートしてしまっている可能性もあるかも知れない。
『……た、隊長!!』
落雷に驚いたのか、慌てた様子のメイリン准尉の声がインカムから聞こえて来た。
ドゥカウスケートに何かあったのではと危惧しているのかな、最近は落雷で亡くなるパイロットはゼロに近い。ごく稀に運悪く旧式に乗っていた方が亡くなる話は聞くけど、“ブルーガーネット”は大丈夫。
けど万一電子回路がやられていたらマズイ。けど整備士の僕が近くにいて良かった。偵察の任務はもう大丈夫だから被害の有無を確認した方がいいかも知れない。
と、ドローンからの映像で状況を確認しようとした僕の目に飛び込んで来たのは目を疑う光景だった。
「コクピットブロックが……!」
僕が目にしたのは、節々からうっすらと黒煙を上げる“ブルーガーネット”。その胸部にあるはずのコクピットブロックが丸ごと無くなってしまっている。
あの脱出機構はコクピットブロックごと射出して遠くに避難させる仕様のモノだ。落雷によってそれが誤作動を起こし、射出してしまったみたいなんだけど、飛んだ方向がまずい。
機体の正面に向けて勢いよく射出されるんだけど、“ブルーガーネット”の向きは運悪く海を向いていた。
暴風雨で荒れた夜の海へ。
「脱出機構が作動したのか!? “リトルダーナ”、緊急事態発生! 応答して下さい!」
『こちら“リトルダーナ”、どうしたコータ?』
「“ブルーガーネット”に落雷発生! 脱出機構が作動してコクピットブロックが海に排出された模様! コクピットの位置情報を確認して欲しい!」
『な、なんだって!? 』
嵐の影響で波は非常に高く、白波があちこちで飛沫を上げている。フロート機能は確か備わっているとは思うけど、この高波の中から探し出すのは非常に困難だ。
コクピットから発信されているであろう位置情報信号を転送してもらって今すぐに捜索しなければ見失ってしまうかも知れない。
脱出機構で射出されたコクピットブロックは自力で帰還するのは不可能だ。ドゥカウスケートからの連絡もない。恐らく距離が開いてしまったが為にジャミング粒子の影響を受けている可能性がある。
この手の脱出機構の飛距離は相当なもののはずだ。
例えば戦場で作動しなければならない事態に陥ったとして、作動と同時に戦線離脱を出来なければ的にされてしまうから。故にドゥカウスケートはあっという間に通信可能範囲外だ。
方角と飛距離は大体わかる。それを頼りに捜索するしかない。……嵐の海の中で。
僕の頭には不思議と国際連合を裏切ったテロリストだ、という考えは浮かばなかった。
そうだ。現時点の彼女はまだなんの罪も犯していないから……。そうだ、今はそんな事はどうでもいい。
『隊長が! 隊長おおぉぉ!』
「メイリン准尉、落ち着いて下さい!」
『隊長! どこに、隊長!!』
まずい、副隊長のメイリン准尉がショックでパニックになってる。落雷時に至近距離にいたから外的ショックとドゥカウスケートが飛ばされてしまったというショックが重なってしまっているのかも知れない。
メイリン准尉はこの絶望的な状況を理解している、してしまっている。
波に押し返されるのを待とうくらいの事を言えるくらい冷静だったら良かったのに。ちなみにその案は却下だ。荒れてはいるが、今からどんどん潮が引いていく時間。沖に流されてあっと言う間に海流に巻き込まれて大西洋に投げ出されてしまう。
荒れた海に入って行こうとするメイリン准尉の説得を試みる。
「メイリン准尉、その装備ではかえって危険です!」
『やめろ、早く探さなければ沖に流されてしまうだろ!』
このパニック状態のメイリン准尉が沖に出てしまっては二次災害が発生しかねない。
『救難信号ロスト! ジャミング粒子の影響で追えない! 副隊長、指示を!……メイリン?』
『指示? 指示、そ、そうだ、どうすれば!? わ、私はどうしたらいい!?』
少しだけ冷静さを取り戻してくれたか? さっきよりは焦りの声色は消えたような気がする。
そんな中僕は敢えてゆっくりとした口調でインカム越しに言う。
「メイリン准尉、聞いてください。僕が“キュー”で追います」
『な、何?』
僕はメイリン准尉に考えを伝えた。
僕が乗っている“キュー”は“リトルダーナ”とケーブルで繋がっている。その状態で捜索をする。“リトルダーナ”も潜水航行は出来る。騒音は出るが、海上はこの嵐。飛行型駆逐艦や艦船の類は航行していないだろう。つまりは敵機を気にしなくても良い。……甘い考え、かも知れないが。
そうでなくても比較的会敵確率は低いはずだ。希望的観測だけど。
救難信号は途切れてしまったけど、コクピットブロックの性能、推定飛距離は分かる。近づけば再び信号を受信出来るはず。
それを頼りに“キュー”と“リトルダーナ”が追従して捜索すれば発見出来る可能性は十分にある。
風が無ければ空からの捜索も視野に入れれるんだけど。
『……悪くない手だと思う』
『副隊長、コータの案で捜索開始しよう』
『……』
“リトルダーナ”の操舵手、現在の艦長代理の言葉を受けてしばらく考えてからその案を採用してくれた。が、ひとつ提案をした。
『“キュー”の操縦は私がやる』
そんな危険な事を民間人の君にやらせられない。そう付け加えて。
「はは、今更ですか」
『……言葉もない』
僕は乗り掛かった船だ、最後までやり遂げる。なんていう性質じゃないし、出来るもんなら代わって欲しい。僕も自信がある訳じゃないしね。
けどパイロットを交代するとして、スクリューモジュールしか装備していない“キュー”で上陸は不可能だし、海上でなんてもっての外だ。それこそ高波にさらわれてしまう。
『コータ、やってくれるか?』
メイリン准尉のその言葉でドゥカウスケートの捜索が始まった。
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