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02-12.不明船


『用意はいいか、コータ』

「はい、いつでも大丈夫です」


 僕がそう告げると水中用に換装された“キュー”が運ばれた後部発進用区間が閉鎖されて注水が開始される。

 やがて隔壁内が海水に充されると、発進用ハッチが開放されて音もなく“キュー”は海底に解き放たれた。


 水深が深く視界は非常に狭い。

 後付けされたソナーレーダーを頼りに浮上していく。もちろん各部の駆動音には細心の注意を払うのを忘れない。


 機体下部には“リトルダーナ”と繋がったワイヤーケーブルがあり、データのやり取りなどを有線で行うことが出来る。それとこれはドローン回収後に巻き取ってそのまま帰艦する事が出来る。言わば命綱みたいなものかな。

 こうして繋がっているだけで安心感は半端じゃない。


 潜望鏡深度まで浮上した僕はコンソールパネルを操作して偵察用ドローンを射出した。

 このドローンはブイの様に自力で浮上し、やがて自力でプロペラを展開して飛行するタイプだ。

 

 ドローンから送られてくるデータを“キュー”がアンテナとなって海底にいる“リトルダーナ”に転送する。

 そのデータを受けてメイリン准尉と参謀格の操舵手の男性下士官があーでもないこーでもないと相談しているのがインカムから聞こえる。

 

 さっきから聞いてるけど、ドゥカウスケートは本当に作戦に口を出さないんだな。


 メイリン准尉が「これで良いですか?」と最終確認を取る程度だ。それに対しても細い声で同意するだけ。

 なるほどロイ軍曹が言っていた通りにこの隊の実質的隊長はメイリン准尉みたいだ。

 反面、居ることで安心感を与える精神的支柱はドゥカウスケートという感じだろうか。

 ダリル基地を出発して数日、何となく見えて来たドゥカウスケート隊の実態はまさにロイ軍曹の言った通りだった。


 エースの〝女傑〟ドゥカウスケートとテキパキと指示を飛ばすメイリン准尉。この二枚看板でこの隊は回っている。そう感じた。


 やがて転送された情報から、所属不明船はレイズの補給艦ではない可能性が高いと判断された。

 とりあえず直接の敵ではなさそうだけど、その可能性が無いわけではないし、この海域、クルスデネリは国際連合加盟国。

 その海域に所属不明船が停泊しているのは許される事じゃない。

 見たところ大型の商船にも見えるけど、相手が武装していないとも限らないのでドゥカウスケートとメイリン准尉が出撃して警告する手筈になったみたいだ。

 

 相手が誰か分からない以上は警戒するに越した事はないからね。マフィアの類か、はたまた商船を襲う海賊か。

 相手がMK(モビルナイト)を隠し持っているかも知れないからね。


 “リトルダーナ”と“キュー”の2つのソナーで近海に他の部隊が潜んでいない事を確認すると、2人のMK(モビルナイト)は発進する。


 MK(モビルナイト)を水中発進させる場合に用いられるスクリューブースターモジュールを使って深海から接岸。

 射程に入った段階で姿を見せてオープンチャンネル(国際共通通信)にて不明船に所属国と積荷の詳細、航行目的を問う。


 僕は相変わらず海に潜水した状態の“キュー”の中で2人、ドゥカウスケートとメイリン准尉の手際をモニターしていたけれど無駄のない見事な手際だった。日頃から訓練を繰り返しているんだろうな。


 それに対応した不明船の船長はMK(モビルナイト)がいきなり現れたからものすごく驚いていたみたいだった。


 結果から言うと、所属不明船はレイズ残党軍のものではなく、国際連合加盟国のものだった。

 それを聞いてひとまずはホッと胸を撫で下ろした。もしかしたら敵軍と交戦、なんて事も考えていたから。


 けれど積荷が良くなかった。


 比較的大きな船倉を持つ船だなと思っていたら、中身は前大戦で使用されたMK(モビルナイト)のスクラップだった。


 この不明船を、いや、商船を管理する会社は世界中の戦場後に赴き、その戦いで使用不能になって破棄されたMK(モビルナイト)の残骸を不当に回収して自らの会社の商品としていたみたいだ。

 

 修理が出来ればMK(モビルナイト)として、不可能であれば使える部品を取るために解体する。

 

 それを比較的安価に市場に流せば辿り着くのはサンクーバのような国際連合非加盟国の自警団やマフィアなどのゲリラ。またはEMSのような民間軍事会社に辿り着く。


 それはそれで商売になるし、何より必要とされるなくてはならない存在ではあるのだが、正規軍からしてみれば戦場漁りに等しい存在だ。

 

 大破して動かない機体でも軍のものには違いない。後々、回収部隊が出向いても少なくない割合でこれの被害に遭っていることが多いそうだ。


 話は逸れたけど、どうやらこの船は〝真っ当ではない組織〟と取り引きするためにこの島に不当停泊していたと推察出来る。

 

 どうやら先方の船長は雇われの身らしく、見つかったからには抵抗の意志は無いようだ。

 

 今回の事案は国際連合軍が扱う事案ではないらしく、クルスデネリ軍に引き渡す事になったらしい。


 定期的にレイズ残党軍が散布していると思われるジャミング粒子のせいで連絡は取りにくい状況ではあるけど、いくつかの基地を経由すればなんとか連絡はつきそうだ。


「……ん、この音、雨か」


 “キュー”の中でソナーの音に耳を澄ませていると風の音に混じって雨の音と雷の音が混じり始めていた。モニターをドローンから送られてきた海上の様子に切り替える。

 見ると水平線の向こうから真っ黒な雲が迫って来ているのが見えた。

 嵐になるって言ってたから、軍が発表した天気予報はぴったりと当たったという事になる。

 

 嵐が来る前に撤収出来るかな。発進は水中で出来るけど、着艦は“リトルダーナ”を海面まで浮上させないといけないんだよね、確か。この“キュー”はケーブルを巻き取ればそのまま回収してもらえるから楽だけど、MK(モビルナイト)はそうはいかないから。


 早いところクルスデネリ軍に彼らを引き渡して撤収しなきゃいけない。

 

 そんな心配をしていたドゥカウスケートとメイリン准尉だったけど、間もなくしてクルスデネリの巡洋艦が到着し、彼らを引き渡す事が出来た。

 クルスデネリの艦影が見えなくなった頃、風も雨も強くなり、海面も白波が立ち、相当荒れてしまっていた。


 そんな時だった。ドゥカウスケートの機体“ブルーガーネット”を一筋の雷光が襲った。



 


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