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02-11.追加任務


 “リトルダーナ”が敵に動きを悟られ無いように、クルスデネリへの直線距離ではなくやや迂回した航路を選んで目標海域付近に到着したのが昨日の事。


 敵補給ルートがあると思われるエリアに到着した“リトルダーナ”は持ち前の潜水機能を使って、海底に潜んだ。


 その際、騒音規制が発令。艦内放送の類は一切禁止され、各乗組員にはインカムが支給される事になった。

 海底に潜むのであれば騒音は厳禁。光学センサーが使えない海底では音を頼りに索敵を行うのが最良の手段だ。


 そんな状況下で万が一、艦内放送などを流したらあっという間に敵ソナーに捕捉されてしまう。


 今までは艦内放送なり、ロイ軍曹からの伝達で自身の仕事を把握していたけれど、これからは隊長、もとい、副隊長のメイリン准尉の指示を直接聞く事になる。


 この艦の最底辺人員である僕は隊長副隊長の指示を人づてでしか聞けてなかったから、このムーブはすごく助かる。


 メイリン准尉の指示を直接聞ける事によって、僕の直属の上司であるロイ軍曹からどんな指示が与えられるかある程度予測出来るから、次の行動に移りやすい。


 この時もロイ軍曹の指示で作業していると、例によってインカムで僕はメイリン准尉に士官室に呼び出された。


 士官室というのはその名の通り“リトルダーナ”内にある士官用の個室。つまりはドゥカウスケートの部屋だ。


 何の用だろう。


 作業を中断して急いで出向くと、そこは二人部屋でドゥカウスケートとメイリン准尉が僕を待っていた。

 

「自分が“キュー”で浮上、でありますか?」


 メイリン准尉から伝えられたのは思いがけない作業内容だった。

 

「君の操縦技術を見込んでの頼みだ。この隊にはMK(モビルナイト)搭乗ライセンスを持っている者もいるが、彼らは既に配置についている為手が離せない。……もちろん無理にでも行かせる事は出来るが、出来れば君に頼みたい」

 

 メイリン准尉曰く、海底付近に潜水している“リトルダーナ”から僕が駆る“キュー”を発進させてある程度の深度、潜望鏡深度まで浮上する。

 そこから更に“キュー”から偵察用のドローンを発進させたいみたいだ。

 そのドローンで海上の様子を探りたいんだろうな。


 「頼みたい」だなんて言うのは僕が正規の軍人ではないからだろう。彼女なりの配慮だと思われる。


 本来ならこの“リトルダーナ”自体が潜望鏡深度まで浮上してドローンを発進させるつもりだったらしいのだけど、近海を航行中の商船が近くの島の一つに所属不明船が隠れるように接岸している、という内容の無線を飛ばしていたのを傍受したらしい。潜水して足を止めてまで身を隠しているのは、この船が如何なるものか分からないためだ。


 味方軍では無いのは確かで、それがどこの何かという事は分からない。ただわかるのはその島には何かが潜んでいる。という事だ。


 つまりはこの“リトルダーナ”はその不安因子を取り除くまではこの場に固定。浮上して捕捉されるわけには行かない。

 “リトルダーナ”は潜航こそ出来るけれど、それに適した船体をしていない。下手に動き回れば海流を乱れさせ騒音が起こる。敵ソナーに捕捉されるような事態は避けたい。


 かと言って潜航せずに海上を航行していては逆に敵に目視で捕捉されてしまいかねない。嵐も近づいているらしいし、ここらで素早く潜航したのは流石の手際だと、素人目ながら僕はそう思った。


 静音性の高い“キュー”であればその任務はこなせるだろう。


「……」


 隊長のドゥカウスケートはメイリン准尉の後ろの椅子に腰掛けて作戦書らしき紙面を眺めている。

 ロイ軍曹が言っていた通り、実質的な作戦指揮はメイリン准尉がとっているみたいだな。

 

「僕にそんな事が出来るでしょうか」

「“ティンバーウルフ”の操縦よりは簡単だ」

「ライセンスも無いのに?」

「もちろん無理にとは言わない。……しかし」

「上からの命令なんですよね、分かりました」

「……すまない」


 メイリン准尉は頭こそ下げなかったが、目を伏せて謝罪の意を示した。副隊長が易々と頭なんて下げられるはずがない。そんな事情くらい分かるからそれはいいんだけど。


 その作戦を立案してるであろう上層部は一体何を考えているんだ。ライセンスも持たない民間人の僕を平気で“キュー”に乗せるだなんて。しかも最悪接敵の可能性もない事もないんだよ? その島とは距離があり、相当な事がない限り危険はないと言ってもだ。

 

 僕が“キュー”に乗るのは当然EMSには伝わって居ないだろうし、伝えるつもりもないんだろうな。


 その事を末端の小隊長に抗議しても話は大きくはならない。その上に上がった時点でこの話は終わりだから。


「私と隊長は出撃出来る様にそれぞれのMK(モビルナイト)内で待機しておく」

「了解しました」


 僕は敬礼をして士官室を後にした。


 なるほど、出撃準備をするのであればロイ軍曹やミーシャさんは格納庫で作業しなければならないし、MK(モビルナイト)のライセンスを持っていそうなのは操舵手の人くらいなものだと思う。2人いるとは言っても艦を離れるわけには行かないだろうという事情はなんとなく理解できた。


 “キュー”の操縦はやったことがあるし、水中での取り回しも問題はないだろう。

 その作戦自体は素人の僕に任せるだけあって確かに難しい事ではなさそうだ。サンクーバでの事もあるからある程度操縦できるのは伝わっている訳だし。


 ただ完全に業務外のことだから、後からEMSに報告書は上げさせてもらわなきゃね。

 クレジットの方にも少しは色をつけなきゃならないし、軍としても付けざるを得ないだろう。


 でもこうも簡単に学生を、しかもライセンス不所持の僕をいとも簡単に“キュー”に乗せるなんてね。任務内容がそんなに危険じゃなくてもちょっとおかしい。


 ……まぁ任務に深く関われるのは悪いことではない。ドゥカウスケートの動向をある程度追えるからね。

 そうと決まれば準備しなきゃ。僕は自身が整備した“キュー”の元へ急いだ。



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