02-10.出航
その日の深夜、遅ればせながら隊長が合流した、ドゥカウスケート隊は母艦“リトルダーナ”にてダリア基地を出発した。
フライトシステムを起動させるとゆっくりと船体が浮き上がり、後部の大型スラスターを吹かし、前進を開始した。
目指すは大西洋の向こう、アフリカ大陸西端にあるクルスデネリ。
その海域、大陸部のどこかにレイズ残党軍の補給ルートがあるらしく、その補給部隊を襲撃し敵の妨害をするのが主な目的だ。
補給部隊を撃滅するのではなく、出来れば部隊ごと捉えて補給物資を強奪し、捕虜や敵MKの鹵獲まで出来れば最も良いだろう。というのは単なる僕個人の思いだ。
作戦の詳細までは僕に伝わっていないけど、多分そこまで出来れば満点だろうな。
小隊に配属にはなっているけど、僕は部外者だ。僕と同じくEMSから出向しているミーシャさん(26歳)には行き先と大まかな作戦内容くらいしか伝えられていない。
ジャミング粒子散布下での敵部隊捜索は非常に骨が折れる作業だ。
聞けば今回向かう場所はドゥカウスケート隊ともう一つの小隊が交代で巡回しているらしく、交代しては補給、また出航し交代。そんな事を繰り返し、長い間粘って、ようやく監視エリアをかなり絞る事に成功したらしい。
今回もその小隊と交代し、エリアの警戒にあたる。
大昔は地球外にある軌道衛星で敵の動きを監視したりする事もあったらしいが、各国が宇宙に進出し、戦場が宇宙にまで広がるとそれの潰し合いがはじまった。
破壊しては破壊されを繰り返していく堂々巡りに陥り、いつの間にか監視衛星を作らなく、いや、作れなくなっていった。
敵部隊に近づけば、ジャミング粒子の影響でレーダー関係の精度は極端に悪くなってしまう。
衛星からの監視もレーダーも当てにならない。ともなれば偵察機などを飛ばし、人員を割いて発見していくしかない。
国際連合もクルスデネリにあると思われる補給ルートはエースパイロットになりつつあるドゥカウスケートを編成するほどに重要だと考えているようで、予算も相当割いているとみえる。
「おい、コータ。ちょい来てくれ」
「はいっ」
“リトルダーナ”がアメリカ大陸を抜け、大西洋に出た辺りでロイ軍曹は僕を呼びつけた。
もうしばらくしたらロイ軍曹の休憩時間。内容は作業の申し送りだった。先に休んでいるミーシャさんと交代だから、恐らく彼女にも同じ内容の事を話すんだと思う。
「……って感じだな。大体終わってるから手が空いたらお前も休んで良いぞ。後はミーシャに任せろ」
「了解しました……あの、このソフトは何ですか?」
僕はドゥカウスケート専用機である“ブルーガーネット”にインストールしてあるひとつのソフトに見覚えがなかった為、ロイ軍曹に聞いてみた。
僕が差し出したタブレットの画面を見た軍曹は、知らないのも仕方ないと言って説明してくれた。
「それは脱出機構を作動させるためのソフトだな」
「脱出機構? この機体にはその装備があるんですか?」
この頃のほとんどのMKには脱出機構が装備されていない。
理由のひとつとしては他の機関が密集した作りになっているため、構造上そのスペースの確保が出来ないというのが装備されていない理由だ。
もう少し技術が進歩すると脱出機構も普及していくんだろうけど。
残念ながら1周目の世界、つまり5年後でも一般機にまでは普及していなかった。
ただ、この“ブルーガーネット”のようなワンオフ機にはドゥカウスケートのようなエース級のパイロットが搭乗する場合が多いので多少無理をしてでも脱出機構を設ける場合があるそうだ。
普及していないとはいえ、僕も1周目の実習で脱出機構自体は何度かいじった事はある。けど……このソフトは初めて見たな。どこ製のソフトだろう。
「ああ。大切なエースの身を守る機構だからな。ちゃんと整備マニュアル通りには整備してある。そのソフトにもエラーは無いし、動作テストも万全だ。隊長の命綱だからな、整備は抜かりねえ」
ロイ軍曹は無双の働きをするドゥカウスケートにはそんなシステムは要らないって言いたいんだろうけどなと付け加えた。
あの、作戦前のそういう会話って嫌な感じしかしないんですけど。
「な、なんだか不吉な物言いに聞こえますが……」
僕が顔を顰めるとロイ軍曹は、な訳あるかと笑い飛ばした。
「はははっ、大丈夫だ。どの項目も重要だけど、脱出機構はパイロットの命と直結する。まぁ珍しい機関ではあるからな。もし気になるならチェックでもしてみたらどうだ。勉強にもなるぜ」
「そうですね……いや、そんな時間は。でもマニュアルくらいは読む暇があるかも知れません」
「そんなもんでいいんじゃないか? 何重にもチェックはしてんだし」
タブレットに脱出機構を作動させるためのソフトのマニュアルが転送されてきた。カスタマー用に編集された大まかなモノだ。出来れば専門的な物を見たかったんだけどな。
1周目の人生においても脱出機構は珍しい物だったから、メカマニアの僕としては興味をそそられる機関だ。
早く作業を終わらせて目を通したい。
……いや、もう作戦行動には出てるんだから休める時に休んだ方がいいか。いや、きっとベッドで読んじゃうんだろうな。
そんな事を思いながら僕は作業に戻った。
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