02-08.試験
ロイ軍曹と格納庫でドゥカウスケートについて話した後に連れられて来たのは、格納庫の裏にあるヤードと呼ばれる、倉庫の様な意味合いがあるスペース。
金属製の大型コンテナがいくつも積み重ねられており、外装のロゴから察するに中身は恐らくMKの様々な交換用の部品が入っているんだと思う。
「さてお前の初仕事だ、頼むぜ」
そのコンテナの隙間に作業用ポッド“キュー”が固定用ラックの上に鎮座していた。
“キュー”は日本のMK製造メーカーの〝ナラハラ重工業〟が開発製造する作業用ポッド。
名前の由来にもなっている球型の本体の中心がコクピットになっており、パイロットの視界を確保するためにハッチに設けられた円型の超強化ガラスが目玉の様に見える。又、本体の下部前方にはマジックアームの様なマニュピレータが2本取り付けられている。
主に土木、建築、建設などの工事用に用いられたり、取り回しを活かして消防や災害復旧などと活躍する場面は非常に多い。
言い換えれば一般市民にとって一番身近なMKの一種だといえる。
様々な場面で活躍が期待でき、下部にキャタピラを付けたり、蜘蛛を連想させる6本足を装着させる事もでき、二本腕の他にクレーンやショベルバケット等を取り付けたりとオプションパーツが多彩でこと作業に置いては非常に汎用性が高い。
地上はもちろん、水中や宇宙での運用にも適している。
この“キュー”は下部と背部にスクリューモジュールが取り付けられているみたいだから水中仕様に換装されているみたいだ。傍には6本足のレッグパーツもあるので、状況によって付け替えて運用すると思う。
ちなみに、前大戦末期にこの“キュー”に武器を取り付けて兵器として運用していた事があったらしい。兵士の中で“棺桶”だと揶揄されて、搭乗命令は即ち死の宣告だったなんて話も聞いた事がある。
なんて話もあるけど、僕は当然見た事はないし、都市伝説なんじゃないかという話が濃厚だ。
兵器不足だったから、なんて理由があるけど作業用ポッドの“キュー”を戦闘用に改造する事自体がなかなかの作業だ。
整備士としてはそんな事やってる暇があるなら小中破した敵機を捕獲してリペアした方がよっぽど効率的だし、何より戦力になる。
話が脱線したけど、僕の初仕事って言ってた通り、この機体のチェックと必要なら部品交換を頼まれたわけだけど。
パッと見たところ手入れは行き届いている様に見える。そこまで大変な作業では無さそうだ。
ロイ軍曹は僕のタブレット端末に国際連合軍規定のチェックシートと整備マニュアルを転送すると「あと頼むわ」と言って格納庫に去って行った。
丸投げ? と思ったけど、格納庫は扉を経て隣だし、工具や整備補助用パワードスーツの場所も教えてもらった。分からない事が有れば聞けば良いか。
この“キュー”はこの小型母艦“リトルダーナ”の外周作業用に1機搭載されているっぽい。艦の外装補修だったり。
大体の艦には“キュー”に限らず何らかの作業用ポッドを搭載している場合がある。
着任して早々に仕事を任せてくれたんだし、ちょっと頑張ってみよう。
そういえば、こうして整備士としての派遣の仕事が増えてくるので有れば整備士の資格を取っておいた方がいいかも知れないな。
そうすれば今回みたいな遠征じゃなく、近場の仕事で有ればEMSに取ってはいいかも知れないな。
いきなり一級とかではなくても、その下の二級か、整備補助員の資格でもあれば動きやすいかも知れないからね。
僕は「よし」と気合いを入れると腕まくりをして作業を開始した。
◇
「ロイ軍曹、作業終了しました。確認をよろしくお願いします」
タブレット端末に記載されたチェック項目の点検を終わらせた僕は格納庫でメイリン准尉の“ティンバーウルフ”を整備していたロイ軍曹に作業項目の確認を仰いだ。
整備用パワードスーツを装着し高所で作業していたロイ軍曹が上がって来いとジェスチャーをしたので、固定用ハンガーの足場を駆け登っていく。
「……点検箇所に不備はなかったか?」
「ほぼ大丈夫でしたがスクリューモジュールの右タービンに劣化が見られました。在庫もあるみたいですし、交換した方が良いかと。必要なら今から作業に入りますが、いかがですか?」
と、それを聞いたロイ軍曹がニヤリと笑う。
「良く気づいたな、合格だ」
「え、合格って」
「いや、すまん。実はあの“キュー”は昨日すでに俺がチェックを済ませていてな。お前の先輩のミーシャの二重チェックも済ませてる」
「先輩?」
見ると“ティンバーウルフ”の足元で作業している整備兵の姿が見える。なるほど彼女が先にEMSから出向している整備士か。あ、こっちに手を上げてる。とりあえず会釈して後からしっかり挨拶しておこう。
「で、スクリューモジュールのその箇所だけわざと残しておいたんだ。ちゃんと気づいて部品の在庫まで確認するなんて完璧だ。すぐ作業に向かってくれ」
試すような真似してすまん、と言いながら僕が預けたタブレットを返してくれた。
テストみたいなものだったのかな。
ロイ軍曹は申し訳無さそうな顔をしてくれているけど、僕は全然構わない。むしろしっかり気づけて良かったと思うくらいだ。
「了解しました。……と、出航前に該当部品の補充もしておいた方がいいでしょうか。それとも時間がありませんか?」
“リトルダーナ”に乗り込む際にメイリン准尉が間もなく出航だと言っていた事を思い出し、そう尋ねた。
思えば作業を開始して一時間近く経っている。
そろそろ出航する時間なんじゃないかと思いそう尋ねたけれど、ロイ軍曹は大丈夫だというジェスチャーをする。
「大丈夫だ、部品注文しておいてくれ。すぐに問屋が走ってきてくれるし、出航は今夜遅くになる」
「了解しました」
出航時間が伸びたのか。ようやく陽が傾き始めたような時間だからまだ大丈夫なんだな。
僕は部品を追加発注するとパワードスーツを装着して“キュー”の整備へ向かった。
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