02-07.小隊
メイリン准尉に案内された格納庫で僕が配属されることになる整備班の班長、ロイ・スーベン軍曹を紹介された。
ロイ軍曹は30代半ばと思われる白人男性。
茶色のミドルヘア、堀が深く、まるっとしたお腹が特徴的な体格の良い人だ。
けれどどこかワイルドさを感じるイケメンで手入れされていない無精髭すらカッコよく見える。
空想小説に出てくるドワーフってこんな感じなのかな。と僕は思った。失礼かもだけど。
技術屋にありがちな少し言葉使いが荒い所はあるけど気さくな感じの人だ。
ちょうど休憩のタイミングだったのか、ロイ軍曹は僕にこの“リトルダーナ”のこと、エディータ隊の事を色々教えてくれた。
エディータ隊は14名。今回の作戦は全員が“リトルダーナ”に乗り込み出発する。
小隊って聞いていたけど、思ったより人数は少ないみたいだ。けれどどの部隊も人員不足なのは知っているし、驚きはしなかった。この艦の最低搭乗人数もクリアしているし、問題なく運用は出来るはずだ。
小隊長であるドゥカウスケートと副隊長のメイリン准尉がMKのパイロットであるため、2名が出撃した場合は操舵手(2名在籍)に艦長代理を任せるらしい。
本来の隊長機の役割としては、戦場が見渡せる所に配置して戦況を見るのがセオリーではあるけど、どうやら彼女は自ら先陣を切るアタッカーだと思われる。
艦長代理という役割もそういうチームの特色も関係しているのかな。
「さすがのドゥカウスケート、隊長も操縦してる最中は戦闘指揮が取れないからですか?」
うっかり配属先の隊長の事を呼び捨てにしそうになって思い留まる。今思えばドゥカウスケートなどと彼女のファミリーネームで呼んでいるのは僕くらいなんだよね。
自軍のエースだろうが、上官だろうが、僕にとっては裏切り者のテロリストなのには変わりないから、ファーストネームで呼ぶのはかなり抵抗がある。
けど僕だけ違う呼び方をしていても不自然だし、呼び方は変えた方がいいかもしれないな。
僕の考えなどつゆ知らず、ロイ軍曹は話を続ける。
「あーまぁそうなんだが、ちょっと違うな。そもそも隊長は隊長だけど隊長じゃないというかな」
「?」
どういう事かと聞くと、どうやら実質的なこの隊の隊長はメイリン准尉。つまり副隊長であるというのだ。
「……すみません、ますます分からないです」
「おう、だろうな」
ロイ軍曹は快活に笑うとこう続ける。
「えっとな、隊長は人と話すのが苦手なんだ」
「は、はぁ」
予想外の言葉に僕は気の抜けた返事をする。
人と話すのが苦手……そうかな。サンクーバで遭遇した時、僕に警告した時は結構しっかりめに喋っていた気はするけど。いや、敵機への警告や作戦に必要な事くらい喋るか。
ならばと先日のカフェテリアでの事を思い出す。
「……これ、軍から」と細い声で言っていたっけ。なるほど、日頃はあんな感じなのかな。
「本人は頭も良い人だから何をどうしたら良いか分かってんだろうけど、それを人に伝えるのが上手くないんだ。編成当初は指示が無えから苦労したんだ。エディータ隊は彼女の小隊だ。指示が無きゃ俺たち兵卒は動けねぇからな」
〝女傑〟と謳われるドゥカウスケートがそんな性格だったなんて。てっきりバリバリに指示を飛ばす敏腕指揮官を想像してたよ。
「彼女自身もそれに悩んでるみたいだった。もちろん口には出さないけどな」
「悩んで……」
「ああ、〝女傑〟も人間だからな悩む事もある……って、なわけあるかって顔だな」
「え、いや、そんな」
「いいさ、お前もいつか分かる。もっともこの作戦の期間にわかるとは限らんけどな。だから出撃中はエディータ隊長に負担をかけないようにクルー全員で隊長を支えるんだ」
「隊長をフリーにして前線で働いて貰えば、艦も安全……?」
「そうだ。無駄な気を使いながらだといくら〝女傑〟でも気が散って仕方ねぇだろ?」
それは僕の中には無い常識だった。
隊長は隊全体を見渡して最善の指示を下して作戦を遂行するものだと思っていた。けどこの艦は、この隊はそうじゃない。
「エディータ隊長は俺たちの女神みたいなもんだ。隊長が出撃すりゃ絶対にその作戦は成功する。全員無事で死人も出ない」
クルーが隊長を支えて、様々な事、不得意な事をやろうとするストレスから解き放っている。
そうすると隊長はひとりのエースパイロットと化す。無双の働きをし、結果的に作戦は成功し、又、結果的にクルー全員が生きて帰れる。
クルーが隊長を支えるチーム、か。
「ではどうしてドゥカウスケート隊長は隊長に就かれたんですか? 話を聞くとあまり隊長向きの性格ではないように感じますが」
「まぁそう思うわな。俺たちもそう思った事がある。エディータ隊長はパイロットに専念させた方が絶対にいいはずだ」
これは推測だけどな、と前置きしてから続けた。
「上層部のエゴだ」
「エゴ、ですか?」
聞けば、まだ18の美少女が少尉の階級について隊長やってたら単に見栄えが良い。それもエース級の腕を持った凄腕パイロットだ。やれ天才だ、やれ美少女だと祭り上げれば多方面から支持が得られる。という事だった。
「それって本当ですか?」と聞くとロイ軍曹は「わからん」と肩をすくめる。あくまで推測だけど、恐らくそれの多くは当たっていそうだ。
けどそこにこそ反乱の原因があるんじゃないのかと僕は考えた。
自分をタレントとして利用した国際連合軍の上層部が憎くて反乱を起こした。
あり得そうだ。あくまでも仮定だけど、心の中に留めておいても良いかも知れない。
休憩は終わったのか、ロイ軍曹が立ち上がって僕を手招きする。
貴重な情報が聞けたな。無理をして来た甲斐があった。僕はロイ軍曹の後に続いた。
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