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02-04.派遣依頼


 ヨナが作戦会議室に呼び出された日の夜、彼は僕に話があると部屋を訪ねてきた。

 

 話というのは言わずもがな、作戦会議室に呼ばれた理由に由来する物だった。


「国際連合軍の小隊に派遣?」

「そうだ。クライアントは整備士がお望みらしくてな。レイズ残党の補給ルートのパトロールをしている小隊に派遣して欲しいらしい」


 聞けば、EMSに所属している整備士がすでに派遣されている小隊から更に整備が出来る人間を補充したいという依頼があったらしい。


 そのコネクションがあっての今回の依頼。EMSに資格こそ持っていないが、1機のMK(モビルナイト)を戦闘可能状態にまで整備する事が出来る整備士がいると知ったらしい。


 けど、何故わざわざ僕のような資格を持たない者に、しかも学生に声がかかったのか。それは今の世界情勢が大きく影響する。


 前大戦、国際連合軍と北欧諸国連合軍、通称〝レイズ〟との大戦は国際連合軍の勝利で幕を閉じた。

 しかし終戦したというのに、レイズの残党軍による小競り合いは世界各地、宇宙にまで広がっている状況だ。


 あちこちで小さな戦闘が頻発するので、国際連合軍側も大きな部隊では動きにくく、中隊小隊に分かれて行動する事が多くなる。


 今まで一箇所で整備を行えていたのが、チームが分散する事によりそれが出来なくなってしまう。しかし当然整備無しで作戦行動など出来るはずもなく、整備士も分散して各小隊に編成される事になる。

 整備士がどれだけ居ても足らなくなる状況に陥ってしまっている。


 それは1周目の時に起こった事でもあるから非常に理解出来る。元々それは僕が整備士という仕事に就こうと思った一つの理由でもあるからね。


 けど、そういう背景があったにしろ学生で、しかも整備士の資格を持っていない僕にすら声がかかるというのはどう考えても異常事態ではある。


 噂で資格を持っていない整備士が軍にはたくさんいるらしいなんて話を聞いた事があるけど、本当だったなんてね。あれだけ一生懸命に勉強したのが馬鹿らしくなってしまう。


 まぁ正規軍に入隊して整備兵になるのなら資格は必須だから無駄ではない。それに今回のパターンは既に資格持ちが小隊にいるから、資格のない僕も整備補助の人手として出向出来るわけだ。


 猫の手も借りたいほど、という訳では無いだろうが、それでも現場は割といまもごちゃごちゃしていそうだな。


「期間は?」

「一週間から二週間だそうだ。それ以降は他の民間軍事会社の整備士と交代になる」

「それまでの繋ぎって事か。その間の授業はどうなる?」

「そこは安心していい。なんでも公欠扱いになるそうだ」

「へぇ、それはすごい」


 いや、考えてみればアカデミーは軍が運営する兵士学校だし、それくらいの事はするか。

 でも公欠になったとしても僕的に授業は受けたい。操縦の腕を磨くためにアカデミーに来たんだから。


 うーん、どうしたものか。

 

 と少し考えていると、僕の表情を見てなのかヨナが口を開く。


「別に今回の依頼は受けなくても良いぞ。コータは腕はあるが、まだ整備資格は持っていないんだし、何よりアルバイトだ。それにこの間の一件もある。無茶な事ばかり言ってたら逃げられてしまいそうだしな」

「ははっ、そんな事はないよ」


 ヨナはそう言ってくれるけど、EMSの立場からしてみれば今回の依頼は受けたい筈だ。彼も本当は宇宙に上がっているアルフレッド氏が居ないうちに少しでも売上を作る事が出来れば顔向けする事ができる筈なのに。


 だけどヨナの言う通り、サンクーバの一件もある。戦場に派遣されるというのは危険も伴うはずだ。

 ヨナの顔を立ててあげたい気持ちはあるけど、僕にはガーランドの反乱からリオを守るという大役がある。その為に生きていると言って良い。なるべくリスクは負わない方が良いか。


「それは冗談として、本当に無理はしなくていいからな。俺の顔を立てようとしなくてもいい」

「……そう、だね」


 変に事件に巻き込まれてしまったりなどしたら。せっかく得た2度目の人生をも棒に振ってしまう可能性がある。


 死んでもやり直せるなんて思うな、というアカギ教授の言葉が蘇る。


 そう思うと慎重になった方がいい。サンクーバの様に上手くいくとは限らないんだ。

 断った方が良いか。そう思った時にふと頭をよぎった事があった。


 手紙を持ってきた人物。僕はどうしてもそれが気になった。


「ヨナ、もしかして派遣先の部隊って」

「ん? ああ、サンクーバの時に駆けつけた部隊があっただろう、あの部隊だ」

「ドゥカウスケートの小隊?」


 僕がそういうとヨナは頷いた。やっぱりそうか。彼女が手紙を持って来たのはこういう訳か。いや、それでも一士官が連絡係に甘んじた理由にはならないけれど。まぁ、それは良いか。


 派遣先の部隊がドゥカウスケートの率いる小隊と言うなら話は別だ。

 彼女との接点を探していた僕にとってこれはもはや朗報に近い。多少のリスクを背負ってでも彼女に接触し、ドゥカウスケートにどんな事があったのかを探るきっかけになれば。

 もしかしたら反乱を防ぐヒントを掴めるかもしれない。


 諜報、などと大袈裟な事じゃなくても良い。彼女がどんな人物であるか探るだけでも違う筈。

 

 5年後に繋がるチャンスだ。そう考えた僕は今回の依頼を受ける意思をヨナに伝えた。

 ヨナは驚いていたけれど、会社の為に無理するなと言ってくれた。自分の為だと伝えると、それでも助かるよと言ってヨナは眉端を下げた。


 会社の利よりも僕個人の心配をしてくれるヨナは大した人間だと思った。


 出発は数日後。


 リオにはしっかり話しておかなきゃな。

 不安にさせてはいけないから。

 

 


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