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02-03.便箋



 アカギ教授との打ち合わせより数日。


 僕はリオとシャル、そしてヨナの4人でアカデミー内にあるカフェテリアで昼食を摂っていた。僕と教授が会っていたカフェだ。


 多国籍に及ぶ品数豊富なビュッフェスタイルのカフェテリアは前金制で価格が非常に安い。


 味は大味な物が多いけれど、アメリカにいながら母国の料理が低価格で食べられるとあって毎日盛況だ。


 アカデミーエリア内に何箇所かあるので、生徒も分散してさほど混雑もしない。

 僕たちは手頃なテーブルを陣取り、思い思いのメニューをトレイに乗せて談笑しながら食事にありついていた。


 話のネタは先程の授業で行われた対戦形式のシミュレータ訓練での出来事だ。

 入学して間もないがパイロットとしての才能を示しつつあるシャルと、僕が対戦相手になった。

 

 サンクーバであれだけ動けた筈なのに、シミュレータでの対戦結果は僕の辛勝。

 僕には防衛学園で過ごした5年間のアドバンテージがあるというのに、いや、本当にシャルはすごい。

 

 というか普通に考えればそれも納得だよ。


 防衛学園時代のシャルと対戦したけど、卒業間際の頃なんて本当に何もできない内に堕とされていたからね。

 

「次やったらアタシが勝つんじゃないか?」


 なんて安っぽい挑発をしてくるシャルに僕は言う。


「勝ったのは僕だから、どうしても再戦してほしかったら聞いてあげなくもない」と。


 するとシャルはお腹を抱えて笑い出す。僕がらしくない事を言ったのが相当にツボに入ったらしい。

 まぁもちろん僕も冗談で言ったからね。シャルと再戦しても勝てるかどうか分からない。


 隣で笑っているリオもまだまだシミュレータ実習が、始まって間もないというのに既にその頭角を表している。


 元々、主席の成績で入学しているのもあって教官からの注目度は高かった。けどやはりというのか、彼女にはパイロットとしての、いや、エースの資質が備わっている様に思えた。


 彼女たちより5年多く経験を踏んでいるのに情け無い。僕も彼女たちに負けないように努力を怠らないようにしなければ。


「いや、パイロット志望の奴らはすごいよ」


 と肩をすくめるのはヨナだ。

 彼はパイロット志望ではないので、操縦にさほどこだわりはない。

 

 アカデミーでは2年生から専攻するコースが分かれる。なので一年生である今は助走期間というか、自分の適性を知ったり、様々な事に触れる期間だ。


 だから多分2年生になったらヨナとはクラスが分かれるかも知れない。


 そんな会話をしていると、カフェテリアがしんとした雰囲気に包まれて顔を上げる。周りの生徒たちは皆一様に一点を、入口に視線を送っていた。


 僕も自然とその先を見る。生徒たちの視線の先にいたのは白銀色のショートカット、アメジスト色の瞳。存在すらあやふやにさせるほど澄んだ肌。


 アカデミーが誇る国際連合軍のエースパイロットの1人、エディータ・ドゥカウスケートだった。

 

 彼女は感情など初めから持っていないかのような表情のままひと通りカフェテリアを見渡す。

 しかしある一点で視線が止まり、真っ直ぐに歩き出した。その歩みはゆっくりとしていて、とても優雅だ。

 そういえば貴族令嬢だなんて話を聞いた事がある。あの足の運びを見ればなるほど、その噂もあながち嘘ではないのかも知れないな。


 彼女は僕たちのテーブルの前まで来て、立ち止まった。


 僕たち4人は一様にドゥカウスケートを見上げている。当のドゥカウスケートは僕を見たまま身動きしない。

 一瞬なのかどうなのか。僕は彼女のアメジスト色の瞳を見上げながら思考する。


 会うのはサンクーバ以来か。いや、あの時はモニター越しにすら顔を合わせていないから、廊下でぶつかりそうになった時以来か。

 

 僕に用事なのか、リオか、シャルかヨナか。サンクーバ関係のことならヨナに用事かな。一応あの時のEMSの責任者だったわけだし。

 でもドゥカウスケートは僕を見ている。

 まつ毛長いな。瞳も〝女傑〟だなんて猛々しい二つ名にそぐわない美しい物だ。まるで研磨した本物の宝石をはめ込んでいるかのような輝きを放っている様に見える。


 そこでようやく我に返ったシャルが立ち上がり、敬礼をする。 


 そうだ、ドゥカウスケートは僕たちのふた学年先輩だし、何より少尉。立派な上官だ。僕たちもシャルに続いて立ち上がり、まだ慣れない敬礼をした。

 

「……これ、軍から」


 僕たちに返礼してそれだけ言うと、ドゥカウスケートは手に持っていた紙を僕に……ではなく、ヨナに差し出した。


「え」

「じゃあ」


 ヨナはそれを半ば条件反射的に受け取る。そして首を傾げる暇さえなく、ドゥカウスケートは(きびす)を返して去って行ってしまった。

 

 まるで微風(そよかぜ)の様に歩き去った彼女の背中を僕たち4人はただ見送ったが、ややあってリオとシャルが口を開いた。


「今の、エディータ先輩だよね?」

「何だそれ?」

「いや、わからない。俺も何がなんだか」


 手渡されたのは一通の真っ白な封筒。中に便箋が入っている感触はするらしいから、何かしらの手紙みたいだけど。


 一瞬サンクーバ事件のことが頭を過るが、それ関係のことにしても軍からドゥカウスケート経由でヨナに連絡が来るのは不自然だ。


 それに、僕やヨナに事情聴取した自称作戦部の人たちには個人の連絡先を教えている。必要ならば直接連絡がある筈だ。

 それをわざわざ末端の、という訳ではないだろうが一士官に連絡役を依頼するだろうか……。

 

 などと考えていると「まさかラブレターじゃないよな?」だのとシャルがからかい半分でそんな事を言い出した。


 そんなはずないだろとシャルをあしらいつつヨナは一応宛名を確認する。

 間違いなく本人宛だった。中身を破らない様に注意しながら封筒を破り、便箋を取り出す。

 三つ折りにされていた紙を開き中身を確認する。


「何だったんだ?」


 とシャルが興味津々と言った感じでヨナに聞く。すると中身を読み終わったヨナはシャルに便箋を渡した。


「出頭依頼みたいだ」

「なに、どういうこと?」


 そう、ヨナがドゥカウスケートから預かった手紙にはアカデミー内にある軍の作戦会議室に本日の放課後に出頭して欲しいという内容が記されていた。


 何故ヨナが。僕はそう思ったけれど、ヨナは何となく察しがついているようなそんな表情を浮かべて顎を摩った。


「さあな、分からない……とりあえずは放課後話を聞いてみてからだな」

「なんかやらかしたのか」

「ははっ、そんな訳ないだろ。多分EMS関連のことだと思う。オヤジは出張で宇宙(そら)に上がっているから、地上の事は任されているんだ」

「そうなの? 大変じゃない?」


 リオは少し心配そうにそう言うけど、確かにそれは大変じゃないのかと僕も思う。


 アルフレッド氏の代わりにEMSの経営を任されているという事じゃないか。アカデミーに通いながらそんな事をするとなると相当に大変な気がする。

 

 けどヨナ曰く、依頼が来てもうちにはMK(モビルナイト)1機と整備士見習いしかいないから殆どの依頼は受けられない。との事だった。


 全盛期の頃はともかく、今のEMSには確かにまともに民間軍事会社として機能しているとは言い難い。中身を知っている僕だからよく分かる。


「じゃあ何の用なんだろう?」

「分からない。心当たりがありすぎてな」


 説教だったら笑えないな、とヨナは肩をすくめていた。


 

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