02-02.自己評価
「よし分かった、方向性は大体決まったな。とはいえまだまだ企画段階じゃし、例え製造が始まっても臨機応変にしていくからいつでも言ってくれ」
「ありがとうございます」
アカデミーのカフェでアカギ教授と試作機についての打ち合わせをした僕はすっかり緩くなってしまったコーヒーを飲み干した。
ちなみにここはオープンな場所。
こんなひと目につくところで5年後のブラックテクノロジーについて話してはいるけど、周りの目や耳にはしっかり気を配っているから抜かりはない。
著名なアカギ教授と一般生徒の僕が会っているのも不思議にみえるかも知れないが、アカギ教授の人柄だとどんな生徒と交流を持っていても不思議じゃない。
アカギ教授は年に何回かアカデミーに来訪する。
それはアカデミーでの講義をする為であり、お互いの研究成果を交換する為でもある。
その合間にこうして生徒と雑談などするのは珍しく無いから大丈夫じゃ。とはアカギ教授が仰った事だ。
確かに僕も何度かそんな光景を目にした。だから敢えてコソコソする事ない方が良いのかもしれない。
アカギ教授はこの設計図を国際連合軍の〝特派〟に提出して開発許可を仰ぐので、この機体自体は隠匿する必要はない。というと語弊があるが。少なくとも機密に値するので、こうして僕に見せてくださっているので教授もかなり危ない橋を渡っているんだ。
けどブラックテクノロジーをタレ込んだのが僕だ、という事は秘密にしなければならない。僕みたいな学生がそんな知識を持ってるのは不自然だからね。
かと言ってアカギ教授がいきなり全てのブラックテクノロジーを開示して開発に向かうのも不自然。
教授には『上手いこと、不自然じゃない速度』でブラックテクノロジーを採用してもらわなければならないから、それも大変だと思う。
でも前にも言ったように素材一つ一つを作り出すのが困難なので少しずつの進展にはなるのだけれど。
その辺りは僕なんかより教授の方が理解してらっしゃるだろうから任せてしまえば良いと思う。
アカギ教授はかけていた老眼鏡を頭に乗せると、僕と同じ様にコーヒーを飲んだ。
「うむ。しかし初陣で4機も撃墜とはな。1周目で相当に防衛学園でしごかれたと見える。作戦課の教官と言えばシバの奴あたりか」
「シバ先生には確かに鍛えられましたが、アキヤマ先生の特訓は辛かったです」
僕が防衛学園でしごかれた教官の名前を出すとアカギ教授は首を傾げた。
「はて、アキヤマ。聞かん名じゃ」
「あれ、そうですか」
そうか、アキヤマ先生は若い先生だから、この時の防衛学園にはまだ居ないのか。
僕が入学した時にはもう居たような気がしたけど。
「現時点でそこまでの腕があるのであれば5年後にはこの機体に相応しい戦士になっておるじゃろう」
「いえ、そのお言葉はありがたいですが、僕の技術はまだまだです。今回の件も、相手が熟練されたパイロットだったらやられていました」
「そう謙遜するでない。お主は確かにMKを駆り、仲間を守ったのじゃ。それは揺るぎのない事実で実力。自信にしなさい。自信は自分を育てる」
お主は自己評価が低いところがあるからの。と教授は言った。
僕はその言葉を受けて胸が熱くなるのを感じた。
タイムリープしてきてこの方、自分なりに考え、行動してきた。自分なりに一生懸命考えた行動なのだけど、本当にこれでいいのかと首を傾げながらの行動ばかりだった。
アカギ教授のいう通り、最近の僕は自己評価がかなり低かったかもしれない。何をどうすれば良いのか、自分の選んだ選択肢は本当にこれで合っているのか。
アカギ教授は僕をよく見ていて下さった。北海道とテキサスだから頻繁に会えるわけではない。それでも、だ。
やっぱり教授に相談して良かった。
僕が目頭まで熱くなっていると、それを察してなのかアカギ教授が話題を変えようとしてくれた。
「して、これからはどうするつもりじゃ? 真っ当にアカデミーで腕を磨いていくつもりじゃな」
「はい、そのつもりなのですが……」
「なんじゃ? 何か力になれるかもしれん。言うてみ」
「はい、実は……」
僕はアカギ教授にガーランドやドゥカウスケートの身辺調査をしたいのだと告げた。
奴らの周辺を探れば裏切りの原因がわかるかも知れない。もしそれが解決出来るなら反乱は起きないんじゃないかと。
僕の意見を聞き終わると、アカギ教授は背もたれに身体を預けて天井を見上げた。やがて身を起こして僕を見た。
「なるほど、確かに反乱事態が起きねば最善じゃな。身辺調査……自ら探偵をやるとなると相当骨が折れるぞ」
「そうですね。いや、僕はそんな技術持っていませんし、下手に動いてこちらの動きを勘繰られたら都合が悪くなります」
「……」
「アカギ教授?」
少し考えるような仕草をしていた教授は顎ひげを撫でながら片眉を下げた。
「ワシの知り合いで国際連合軍の元兵士の男が退役をして今はジャーナリストをしておる者がおる。其奴ならガーランド少将の身辺の事は知っておるかもしれんの」
「ジャーナリスト、ですか」
「うむそうじゃ。しかしヤツらは話を引き出すのが相当に上手い。もし彼と会うとすれば、ズルズルと情報を引き出されてしまわぬようにしなければならんがの」
僕もその意見に同意しかない。
先日空港でその様な体験をしたばかりだ。うっかり未来の情報など口を滑らせてしまったら、そこからどれだけの情報を推測されるか分からない。
安易に接触するのは危険かも知れない。例えその人が有益な情報を持っていたとしてもだ。
今日の所はとりあえず話だけにしておいた方が良さそうだ。
「ありがとうございます。もしかしたらその方を紹介して頂くかもしれません」
「うむ。いつでも連絡してくれ」
それから僕はアカギ教授から試作機の図面データを貰って解散となった。
次に教授に会うのはいつかな。随分と色々な話をさせてもらったな。気持ちまでスッキリした。
アカギ教授の図面は素晴らしいものだった。
もし可能なら僕なりに図面を引いてみるのも後学の勉強になるし、何より面白いかも知れないな。
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