02-01.設計図
ご覧頂き、ありがとうございます。
本日より第二章スタートです。
よろしくお願いします。
サンクーバの事件から数週間が過ぎた。
事件後の国際連合軍の対応は意外とあっさりとしていたもので、サンクーバでは特に聞き取り等は無く、割と苦労する事なく出国出来た。
が、問題はアメリカに帰国してからだった。
空港に着くなり僕を待ち受けていた国際連合軍の人たち(作戦部所属だと言われた。本当の所は不明)に質問攻めにされた。丸一日は空港から出られなかったから、あれは半ば軟禁だよ。
けど法が届かない海外での出来事だったといっても無免許でMKを操縦して自衛目的だとはいえ僕は人を殺めている。
その事を引き合いに出されては無下にするわけにもいかず、リオやシャルを先に帰すという条件で取り調べに応じた。
相手は情報を引き出すプロだ。
あの日の事件の事やアカギ教授に伝えたブラックテクノロジーなど、要らぬ事を言わないように気をつけながら受ける取り調べは操縦以上に神経を使った。そのおかげで必要のない情報は隠せたと思う。
その事をアメリカを訪れていたアカギ教授に話した。
教授は興味深そうに顎ひげを撫でながら僕の話を聞いていたが、とうとう限界が来たのか盛大に吹き出した。
「はっはっは、それは大変じゃったのう」
「笑い事ではないですよ、教授。下手したら死んでいましたから」
僕が恨めしそうな視線を送るとアカギ教授はとりあえずと言った様子で謝罪する。でも口角は上がっている。
「いや、すまんすまん。まぁまぁそれは冗談として。それにしてもの、コータ、君にもし万が一の事があってもまた死に戻ってくるのかの」
「モルモットを見る目はやめて下さい」
科学者としての血が騒ぐのか、教授は僕のタイムリープに興味があるようだ。が、僕は即座に半目になって跳ね除ける。
「がははっ、冗談だとも」
もはや何が冗談なのか分からないけれど、これが本来のアカギ教授の性分だ。
冗談が好きで気さくな人。その冗談がかなりブラック寄りなのはまぁご愛嬌だ。僕も嫌いじゃないし。
いや、冗談抜きで今の僕が死んだらまた前回のようにタイムリープするのだろうかとそれは考えたことがある。とはいえもちろん試す手段も度胸も無いけどね。
それにあの日の事件を止められるのは僕しかいない。
そんな実験じみた事をしてこの人生でもリオを守れなかったら。そんな事はあってはならない。
僕はリオを死んでも守るけど、死ぬつもりはないんだ。
けどもし、万が一ガーランドの反乱を止める事が出来ずに1周目と同じ事になってしまったら……。
僕の死に戻りこそが最後の手段にならないだろうか。何度も人生をやり直す事が出来ればいつかはリオを助けられるかも……。
「コータ。お主、不吉な事を考えておるのではあるまいな?」
「……」
アカギ教授は琥珀色の真っ直ぐな目で僕を見つめる。
「よいか。もし死んでも元に戻れるなんて思うでないぞ。この世界でお主の大切な人を救えるのはお主しかおらんのじゃ。さっきはあんな事を言ったが、命を粗末にするな」
今度はさっきの冗談を言っている顔では無く、真剣な表情でそう言った。まるで僕の心を見透かされた気分になって一瞬ドキッとした。
「……はい。分かっています」
「最後の最後、万策尽きてもう後が無くなったとしても諦めるな。死んで戻ればいいなんて思うでないぞ」
そう、僕が死んだ後どうなるかなんて誰にも分かるわけがない。
こうして2周目の人生を送っている事自体が神の気まぐれ。奇跡なんだ。
これが僕のステータスだなんて思うな。ミスしても死んでやり直したらいいやなんて考えたらおしまいだ。
「その為のワシじゃ。いいか、ワシとて虐殺テロなど起こされたら堪らんのじゃからな。その為には協力は惜しまん。……ほれ」
「これは……設計図? もう書いたんですか?」
「うむ。素材は完成してはおらんがな。材質の強度や性質はすでに分かっておるからの。図面を引く事が出来るのじゃ。物質が無いのに図面が引けるなどと不思議な話じゃがの」
僕はタブレット端末に表示された試作機の図面にざっと目を通す。
これはすごい。まだ出来ていない未知の素材の特性を理解した素晴らしい設計図だ。
教授のいう通り、素材が無いのに図面が引けるのがすごく不思議で面白い。
そして図面はしっかりと2機分用意してあった。
「“試作1号機”と“試作2号機”ですか」
それぞれ共通のフレームを使用する為、部品の互換性はあるみたいだ。けれど図面から察するにこの2機はコンセプトが全く異なっている様だ。
「うむ。ワシは名前を考えるセンスがないからの当面の間は“1号機”、“2号機”で良いかと思っての」
「全然いいと思います。むしろその方が呼びやすいですし」
そもそも整備士界隈では、敢えて名称で呼ばずに型式をもじった隠語を用いたりする。
“ティンバーウルフ”なら、型式番号【RGX-98】だから『98』と言った具合に。
なので技術者はあまり名称に執着しない節がある。……もっともそれは整備士同士での話で、それ以外の人と打ち合わせなどする場合はその限りではない。
この設計図を軍に提出し、承認が得られれば本格的に開発が始まる。アカギ教授と出会って数ヶ月しか経っていないので、非常にスピーディだと感じた。
教授が僕を信じて方々に働きかけてくださっているおかげだ。本当にありがたい。
「それでお主の意見が聞きたいんじゃが」
とアカギ教授は老眼鏡をかけて声を低くする。
どうやらこの試作機に僕の意見を取り込んでくれるらしかった。
それから何度かの雑談などを挟みつつ僕とアカギ教授は試作機の打ち合わせをした。
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