01.1-02.幕間 ※シャーロット・ルイス視点
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今回はシャル視点の幕間です。
※シャーロット・ルイス視点
退屈な日々はまっぴらだ。アタシは宇宙へ行く。
◇
小高い丘の上にある一際デカい家。それがアタシ、シャーロット・ルイスの家だ。
昔からこの辺一帯に住む事が金持ちどもの一種のステータスになってたみたいで、何が楽しいのかこんな坂だらけのこの街にこぞって家を建てている。
大人は車があるからいいものの、アタシら中学生にとっては地獄でしかない。特に夏は死ねる。
玄関扉のロックを解除し家に入るとクーラーが効いた室温がたまらなく心地よい。
と感じるのも束の間。汗が冷えて少し肌寒くなったアタシはウォークインから薄手のジップアップパーカーを引っ張りだして羽織った。
リビングを横切って階段へ。
父親に進路の相談をしたい。今日は休みのはずだから部屋にいるよな?
ふかふかの絨毯にアンティークの家具達。ぜんぶ父親の趣味だ。
「……」
テーブルの上にティーカップがふたつ。
そこで気付いておくべきだった。
私は彫刻が施された手すりを伝って二階へ上がる。廊下の突き当たりの父親の部屋の扉をノックしようと手を伸ばす。
「……っ……ん……」
「……」
中から漏れて来た艶を帯びた女の声に気が付き手を止める。
……最悪だ。あのクソ親父また女を連れ込んでやがる。
アタシはそのまま踵を返して再び家を出た。
アタシの母さんは国際連合の軍人だ。数年前から宇宙での任務に着いていて、年に一回も帰って来れない。
それをいい事にあのクソ親父は自身で経営する会社の社員の女を連れ込んでやりたい放題だ。
いや、この間はアタシとそう変わらない年の女を連れ込んでいたことすらある。
進路の相談したかったのに。まぁいいや。どうせクソ親父はアタシのアメリカ行きも反対しないだろう。
むしろいつでも女を連れ込めるから喜ぶかも知れない。なんか腹立ってきた。
じいちゃんが必死で立ち上げて大きくした会社を好き放題してる父親には心底うんざりだ。さっさとこんな所オサラバしてアタシも宇宙に上がりたい。
昔、まだ家族がバラバラじゃなかった頃に行った月面旅行。初めての無重力。初めての宇宙遊泳。そして、初めて外から見下ろす地球の美しさにアタシは魅了された。
丸くて青い。そしてめっちゃデカくてキレイだった。そんなとてつもない存在感の地球。それが宇宙に浮かんでいる。
自分の母星がこんな美しいんだと思うと物凄く嬉しかった。何故かは分からない。けどすごく誇らしかったんだ。
そしてこの宇宙にはまだまだ知られていない事がたくさんあるんだと知った。
それから私は宇宙の虜になって行く。本を読んだり、映画を見たり。特に私は大昔から伝わる星座からなる神話が大好きになった。それと、まぁ星占いとかもたまにやる……。たまにだぞ、本当たまに。
そんな時だ、母さんが宇宙戦艦の艦長に任命されたのは。
まだ母親に甘えたい年頃の10歳そこそこだったアタシだけど、もともと海外勤務の多い母さんだったから配属先が宇宙になっても寂しさはあまり感じなかった。
その代わりに猛烈に羨ましくて仕方がなかった。
アタシも、アタシも連れてけ!
って泣き喚いた。誇張なしで本気で暴れ回った。
あまりにも暴れるので、見かねた母さんがアタシに言った。
宇宙戦艦に乗るのには免許がいるからだめだって。
どんな免許だと、聞くと母さんは困ったように言った。
「えーと、そうね。MKのパイロットライセンス。とか?」
なぜ疑問系だったのかは今ならわかる。完全に方便だったんだろうけど、子供だったアタシはまんまと騙された。
「分かった。アタシ、パイロットになって母さんの艦に乗る!」
その時の母さんは驚いていて、そして少し嬉しそうに目を細めてアタシの頭を撫でてくれた。
それから時が経ち、なんとなく社会の仕組みもわかって来ても、それでもアタシはMKのパイロットになって宇宙へ上がる夢は変わらなかった。
宇宙旅行は比較的簡単に行く事が出来るし、宇宙コロニーへの移住は手続きさえすれば出来る。
けどそうじゃない。それはアタシの夢とは少し違っていた。
MKのパイロットになる為には軍に直で入るという方法もあるけど、それはかえって遠回りだ。しっかりとした教育を受ける事こそ近道。
兵士学校だ、そうだ、それが良い。
国内外問わず国際連合軍が運営する兵士学校はいくつもある。その中で一番良さげなのはアメリカのアカデミーだ。
エリート学校だけど良い子ちゃんしか居なさそうな雰囲気はない。アタシの性格にも合っていそうだったのに、友達を誘ってもアカデミーには行けないって言う奴らばかりだった。
ノリ悪いぞというと、そういう事じゃなくてそもそも合格が望めないという事だった。
なるほどと思った。友達がいないのにわざわざ海外なんか行ってもつまらない。
じゃあ防衛学園にしよーかな。と思っていた時に出会ったのがコータだった。
近所のゲーセンにふらっと現れたコータとアタシはすぐに打ち解けた。
初対面のクセにずかずかと踏み込んできて、好き勝手言いやがる変なヤツ。けど不思議と嫌な気分にはならず、むしろアタシはコータに好感すら持ったほどだ。
まるでずっと前から友達だったみたいに。
聞けばコータはアカデミーに行くらしい。
コータがいればアメリカの生活も退屈しなさそうだな。なんか可愛い彼女もいるっぽいし。
アタシはこうしてアカデミーに行く事に決めた。
どーしようもない父親なんか放っておいて、自由で無限に広がる宇宙へ。
もしかしたら母さんと一緒に仕事する事になるんだろうか。
丸くて青くて、クソデカい地球を見ながら母さんとクソ親父の悪口を言い合いながら酒を飲む。まぁその頃には成人してるだろうし、そもそも酒の味なんて分からない。けどまぁそこは雰囲気だ。
それは楽しそうじゃないか。
この選択がアタシの人生を大きく変えていく。
そんな予感に心が弾む。
子供みたいに、アタシの胸は高鳴るのだった。
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