01-27.事件後
「リオ!」
「コータ!」
ドゥカウスケート隊がサンクーバに到着してしばらく。
島周辺の安全が確認されてから、ようやく街のシェルターが解放されて避難していた人たちが街に出てこられるようになった。
街の中央広場。大きな噴水の前にいたリオは僕を見つけるやいなや駆け出し、僕の胸に飛び込んで来た。
それを僕は両腕で受け止める。僕の胸に頬擦りをするリオは少しだけ疲れているように見えるけど、元気そうだ。リオの細い肩を抱き、その感触に安堵する。
「良かった、本当に」
「MKに乗って戦ったって聞いたよ? 本当なの?」
翡翠色の瞳に涙を浮かべたリオが僕の顔を覗き込んでそんな事を聞いてくる。
「うん、パイロットが居なくなっちゃったから」
「フレミングさんが!? そうなんだ……」
リオは心底辛そうな表情をしてから静かに目を閉じてフレミング氏の冥福を祈る仕草をした。
彼とリオはホテルのロビーで少し顔を合わせた程度の面識しかなかったはずだ。それなのに名前もしっかり覚えてるなんて。
優しいリオに感心しつつも、彼女の心情を考えると心が痛んだ。
「コータ、“ティンバーウルフ”動かしたんだって? マジかよ」
「シャル。うん、何とかって感じだけどね……」
リオの後ろから歩み寄ってきたのはシャルとヨナだ。事情はヨナから聞いたのかな。2人とも顔色は良く、見たところ怪我もないようだ。ヨナも合流出来たんだな。良かった。
そう思ったら少し安心したのか、心に余裕が出来たのか。
僕は愛する人や大切な友達を救う事が出来たんだと思った。それと同時に戦闘の事が脳裏に浮かぶ。
僕は人を守るために人を殺したんだ。
大切な人を守れたんだ、という達成感のあとにそれに匹敵するほど大きな罪悪感が心を襲った。
僕の顔色から何かを察したのか、シャルが僕の肩を強めに叩いた。まるで心を支配する黒い感覚を打ち消すかのように。
「助かったぜ」
そして白い歯を見せて笑って、一言そんな事を言った。
「……シャル」
人を守るために人を殺すという矛盾。
目的を達成した後にやってきた罪悪感を振り払う一言。そうだ、そうしないと僕は大切な人を守れなかったかも知れない。
僕はリオを守ると誓った。何が何でも。
それはつまりはそういう事だと思う。
誰かを守るために、犠牲を払わなければいけないんだ。
そうやってこれから僕は常に命の選択を繰り返していく。
しかし常に念頭に置かなければならないことは、大切な人を守るために戦っているんだという事だ。
心の迷いは判断を鈍らせる。それを忘れてはならないという事だ。
けど罪悪感に苛まれたのは事実。
シャルのさりげない一言に救われた。
「ありがとう、シャル」
僕はそう言ったけど、シャルは「なんでお前がそれを言うんだよ」と言った。とは言ってもシャルは分かっててやってるんだろうから敵わない。
今回のこの事件で僕がやろうとしている事にはもっと沢山の覚悟が必要なのだと言う事がわかった気がした。
あの虐殺テロが起こる日まで丸5年。
試作機の開発。
裏切りの理由。
それを回避する手段。
己の技を磨く事。
ガーランドとやり合う事になれば小規模でも軍は必要だろう。それには人脈だけでなく資金も必要になる。それも小金程度ではダメだ。
中隊規模を動かす事が出来る程の資金が要る。
リオを守る。それは第一条件だけど、ガーランドは虐殺テロをやるような奴らだ。当然戦争も回避しなければいけない。
僕に出来るのか。
自信は無い。けど、やらなければならない。
それに僕ひとりだけじゃない
焦る事はない、まだ時間はある。けど確実に手は回さなければならない。
日々何かのきっかけが無いか探すんだ。
あの日に向けて、僕は確実に歩み出している。
最悪の事態から最愛の人を救うため、僕は全力を尽くす。
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第一章最終話です。
ヒロイン視点の幕間を挟んで第二章に続きます。
これからもご愛顧賜りますよう、よろしくお願いします。