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01-26.紺桔梗

 


 〝ラッター〟が使っていたライドブースターを1機奪い、僕はサンクーバの街を飛び越えて海岸沿いに来ていた。


 漁業が盛んで、交易の拠点になっているサンクーバ港は大型船も入港する事がある為、水深が深い。

 その為、20m近い全高の水陸両用MK(モビルナイト)が潜水して接近する事も可能だと思う。


 空と海からの挟撃。


 アイツらの目的は分からないけれど、戦法としては十分に考えられる事だった。そしてその読みは当たってしまう事になる。


 思った通り、浜辺から潜水タイプのMK(モビルナイト)“ザブロック”が2機上陸してきていた。

 

 ずんぐりとしたボディで両腕のマニュピレータには人間のような手は無く、4本の鋭い鉤爪が装備されている。背面にはスラスターの代わりにスクリューモジュール。

 “ラッター”やこの“ティンバーウルフ”のように俊敏な動きは出来ないけれど、機体の関節の可動には通常のトルクモーターに加え、油圧駆動を併用しているために動きはやや鈍重だが力はある。正面の力比べではやや分が悪い。


 僕は“ティンバーウルフ”を駆り、その2機を苦戦しながらなんとか撃破。


 どうやら増援は無く、とりあえずはMK(モビルナイト)の脅威は去ったか。


『――』


 そう思っていた時、何か、強い意志……のようなものを感じた。そして数瞬の後にコクピット内に警告音が鳴る。


 何かしらの接近を知らせる通知だった。僕が身構えるのとほぼ同時。次の瞬間には、僕の駆る“ティンバーウルフ”は〝何者か〟が放った斬撃を受け止めていた。


「……!!」


 それは確実にコクピットを狙った必殺の突き。

 バチバチとフォトンセイバー同士がぶつかり合い、光の粒子をほとばせる。


 自分自身でも信じられない反応速度で背中のフォトンセイバーを引き抜いていたらしい。僕自身、反応出来たこと自体に正直いって驚いていた。


 ジャミング粒子の濃度が非常に高く、敵機の接近に気付きにくい状況なんだけど、それでも相手のスピードは神速めいていた。


 何者か、それはMK(モビルナイト)だった。


 濃紺の装甲。丸みのある頭部に一角の鋭いブレードアンテナ。機体各所に数多くのスラスターを携えた機体。

 鈍く光るモノアイが僕の“ティンバーウルフ”を捉えている。

 全身は見れないけど、このMK(モビルナイト)は……確か1周目の時に教材で見かけた事がある。もしかして……。


 鍔迫り合いながらも、“ティンバーウルフ”のコクピットスピーカーから声が流れた。


『……所属と目的を問う』

「……!? な、なんだ」


 女性の声だった。


 【接触回線】を介して、そのパイロットが僕に話しかけてきた。いや、これは話しかけるなんて行為ではなく、その声はひどく冷たいものだった。


 冷たく氷の張った、澄んだ冬の湖のような声が僕を突き刺す。


『直ちに武装を解除し投降しろ。貴様は完全に包囲されている。従わなければ破壊する』 


 あの機体には見覚えがある。最近の記憶じゃない。1周目で学んだMK(モビルナイト)の資料に載っていたのを覚えている。


 彼女らは正規軍。本来、この街を守るべく急行してきたはずの部隊。


 そう、機体から判断するに彼女らは国際連合軍の部隊だ。

 

 って、ちょ、ちょっと待って!

 武装解除って、破壊って!?


 僕はサンクーバを、リオを守りたかっただけなのに!

 そこで僕は自機から国際連合機構所属機と識別するための信号を発信していない事に気づく。

 そうか、それならば僕もあのテロリストに間違われても仕方がない。


 勘違いされたまま反撃されてもつまらない。ここは相手の言う通りにしておいた方が良いだろう。 





『……なるほど、良く分かった。確かにその“ティンバーウルフ”の識別番号はEMSの物として軍のデータベースにも登録してある事が確認出来た。要らぬ容疑をかけてしまって済まなかった』

「いえ、誤解が解けて良かったです」


 “ティンバーウルフ”の武装を解除し抵抗の意思がない事を示すと、僕と鍔迫り合いをした濃紺色の機体は剣を納め、一歩退いた。


 するとすぐに同隊所属と思われるカスタムされた“ティンバーウルフ”が僕に近距離通信で連絡が入った。


 僕は駆けつけた部隊の副隊長と名乗る人物と機体間でやりとりをしていた。お互いに機体に搭乗したままで音声とデータのやりとりをする。

 

 ちなみに僕に先制攻撃を仕掛けてきた濃紺色の機体は一歩下がった所で待機している。


 他の小隊機が量産型の“ティンバーウルフ”なのに対し、あれは明らかなワンオフ機だ。おそらくあれが隊長なんだろうけど、僕とやりとりしてるのは副隊長さんだ。

 なんなんだ、こういうのは隊長の仕事じゃないのか、分からないけど。

 

 どうやら彼女らは僕も襲ってきた奴ら、“ラッター”や“ザブロック”の一味と勘違いしたらしく、いきなり戦闘に介入してきたみたいだ。


 今回、僕が駆るこの“ティンバーウルフ”は識別信号を出さずに戦闘していた。


 これが正規軍の部隊との共闘、もしくは出向している場合は当然敵味方を識別する為に信号を発しながら戦う。

 けれど今回のこのサンクーバは国際連合に所属していないので識別信号を出さずに戦っていた。そもそも配備していたのは自国での自衛の為だからね。識別信号を出す必要がない。


 けど発進前にヨナが国際連合軍から出撃要請があったと聞いてはいたので、識別信号は出した方が良かったんだろうけど……そこまで頭は回らなかった。


 この“ティンバーウルフ”も国際連合軍の作戦に加わった事もあるみたいだから、軍のデータベースに機体番号が登録されていたらしいので話は早かった。


 まぁこうして話してわかって貰えたので良かったけど、一歩間違えたら無実の罪で切り捨てられてたよ。次からは気をつけなきゃな。


 話はどうやら終わったようで、ようやく僕は解放された。


 僕はいち早くリオやシャルがいるシェルターに駆けつけたかったので操縦桿を操作して“ティンバーウルフ”の(きびす)を返す。


 すると隊長機と思しき濃紺色のMK(モビルナイト)から通信が入った。


『……貴方』

「はい?」

『……いえ、何でもないわ』

「……」


 それっきり通信は無い。

 何かを伝えたかったのかどうなのか分からないけど、僕はその声に聞き覚えがあった。


 それに僕は彼女が駆る機体を知っている。


 あの機体は、重装強襲用MK(モビルナイト)“ブルーガーネット”。それはエディータ・ドゥカウスケートの愛機だ。


 そう、偶然にもこのサンクーバに駆けつけたのはドゥカウスケートが率いる部隊だったのだ。


「用がないのであれば失礼します」

『……ええ。さよなら』


 音声のみの通信。彼女は細くて、けれど澄んだ声でそう言った。

 

 僕に何か言いたかったのか。それは分からない。

 彼女の事は色々探らなければいけないのだけど、今はそんな場合じゃないし、リオやシャル、ヨナの安否が気になる。


 事件の後処理をするであろう彼女をその場に残して僕はリオ達の元へ急いだ。



 

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

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評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


モビルナイトでの戦闘を描写してみましたが、如何でしたでしょうか?

初戦でしたので、チュートリアル程度にしようとくどくならないように、わざと薄口にしてみたのですが『もっと濃い口で頼む!』や『まぁこんなもんだろ?』などのご意見ございましたら、感想をお聞かせ下さい。


 よろしくお願いします。

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