01-23.サンクーバ事件
ロビーから飛び出し、空港内の連絡橋を走っていると近くで2回大きな爆発音がした。ガラスが震え、振動で照明が揺れる。
敵の接近は思ったより早いらしい。
敵。敵ってなんだ。この島は何から狙われている。レイズの残党か、隣国のマフィアか。
正体は分からないけれど、こちらに攻撃してくるならそれは敵だ。
僕とヨナが待機していたサンクーバ空港は市街地から10km程度。丘の上にある空港からは街全体が見渡せるのだけど、幸いにして街からは煙など上がっておらずどうやら被害は出ていないみたいだ。
今すぐ車に飛び乗ってリオの元に駆け出したい衝動を必死で抑えて、僕とヨナは“ティンバーウルフ”が待機している航空機整備用の格納庫に急ぐ。
僕たちが向かって何が出来るわけではないけれど、フレミング氏には僕たちに代わって街を守ってもらわなければならない。
兵器が正常に作動して初めて僕たちの役割は達成されたと言える。
これはプロ意識なんて大層なものでは無く、自身の身を守る為にやらなければいけない事だ。
そう、僕たちはフレミング氏の駆る“ティンバーウルフ”に守ってもらわなければならないのだ。
けれど、自警団と回線を繋いでいたヨナが青い顔をして言った。
「……フレミングさんが、今の爆発でやられた……」
「……!」
ガラス張りの通路からは“ティンバーウルフ”が格納してある倉庫は無事なのが見える。おそらくフレミング氏は搭乗前にやられてしまったんだろう。
どうして機体の中で待機してなかったんだ……。そう思うけど、今から言っても仕方がない。
サンクーバの自警団の中でMKを操縦出来るのはフレミング氏だけだって言っていた。
この島には消防用のMKはあるらしいけど、武装した機体は無い。だからこそ今回の貸出依頼だったわけだし。
その唯一のパイロットであるフレミング氏が乗れなくなったって事は……。
「ヨナ、リオの所に急いでくれ!」
「え、こ、コータ!?」
「リオを頼む!」
その言葉に僕の全ての想いを乗せる。
僕の命なんかよりずっと大切なリオの命をお前に任せたと。
僕はレンタカーのキーをヨナに放ると格納庫へ走った。
キーをキャッチしたヨナは強い意志を湛えた瞳をして、コクリと頷いて僕とは逆方向に走り出す。
迷っている暇はない。あの日、心を支配した虚無感を味わうのは絶対にごめんだ。
◇
滑走路に出た僕は唖然とした。
何故なら“ティンバーウルフ”が格納されている倉庫で火災が起きていたからだ。
機体がある場所とは逆側から火の手が上がっており、ガスボンベなどが爆発しているのだろうか。小規模な爆発が次々に起こり、黒煙が立ち上っていた。
そして滑走路にあった小中型旅客機も被弾したのか大破し炎上していた。
乗客の有無は分からない。今は人的被害が無いことを祈ることしか出来ない。
そして立ち昇る黒煙の先、青く広い空に機影があった。
「MK」
僕は照りつける日光に顔を顰めてそう呟き、再び走り出す。
肉眼では機種までは分からないけど、何かに乗ったMKが確認出来た。
MKは単独での飛行はこの年の機体には不可能だから多分、ライドブースター(MKを空中移動させる為の装置)を用いているんだろう。
そしてライドブースターの航行時間は長くない。輸送機などから降下する際に使用される事が多い。
状況によってはパラシュートでの降下もできるけど。
要はもうすぐここに降りてくるという事だ。
いや、ここ。飛行場ならまだマシだ。
まず空港を空から襲撃し、航空機を潰した。外に脱出する手段を絶ったという事だ。
あのMKの目的は分からないけど、このままじゃ街に矛先が向きかねない。
あの街にはリオがいる。僕の大切なリオが、シャルが、ヨナも彼女たちの所へ向かっている。
あの2機を街へ行かせてはいけない。
「僕が守るんだ」
格納庫へ到着した僕は迷わず“ティンバーウルフ”のコクピットへ滑り込んだ。
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