01-17.出会い
入学から一週間が経つとクラスメイトとの距離感がわかって来て、それに伴って何となくいくつかのグループが出来初めていた。
そんな中、僕はといえば運良くリオとシャルと同じクラスになれたので休み時間などはもっぱら3人で過ごす事が多かった。
けれどいつも3人かというとそうではなくて、移動教室などの時や食事の際などは他のクラスメイトと話したりすることもある。
アカデミーに進学してきた生徒は国籍も人種もバラバラで、僕たちのように同郷出身者が同学年にいる事は稀だ。
だからなのかは分からないけれど、クラスメイトの多くは同級生に積極的に話しかける人が多いように感じた。
そして今はいつもの3人、僕、リオ、シャルに加えて地元アメリカ出身のヨナ、金髪碧眼の白人の少年、ジョナサン・イージスとシミュレータ室へ移動している最中だ。
「へぇ、ヨナの実家は民間軍事会社なのか」
僕がそう相槌を打つとヨナは頷き、そして眉根を寄せて少し渋い表情になった。
「そうだ。だが前大戦でかなり消耗してしまってな。経営は火の車さ」
そう言ってヨナは肩をすくめる。
聞けば彼は民間軍事会社の社長子息で、前大戦ではかなり国際連合軍に貢献したらしい。
けれどそれなりの数の傭兵と設備を失い、今や経営難に陥っているとか。
とは言っても損害保険や国際連合軍からの手当などで金銭的に苦しい訳ではなく、単純に人材不足とMKなどの設備の損失が著しいらしい。
現在登録している傭兵は数人程度しかおらず、MKの補充にはかなりの資金が必要になる。
MKを始め、兵器やそれに準ずる設備の補充は容易に、とはいかないまでも比較的難はないらしい。
けれどそれが人材の補充ともなればそうはいかないそうで、かなり苦戦しているようだった。
日本やアメリカが所属する国際連合軍と北欧諸国連合〝レイズ〟との大戦は一年前に終結しており、今の派遣依頼のほとんどが内戦や大戦の残り火の鎮圧が主らしい。
その小さな小競り合いが終われば世界は平定されて各国が自国の防衛に力を入れ始める。
そうなればヨナの実家のような民間軍事会社の活躍する場は無くなりはしないまでも、絶対的に減る。
それを加味してヨナは言った。
「とりあえず俺は後を継ぐつもりではいるけど、傭兵派遣だけでは食っていけなくなるかもな。ハンバーガー屋でもやるかな。ははっ」
戦争が無くなるのは良いことのはずなのだけど、ヨナのように戦争やそれに準ずる事柄がこの世から無くなると食べていけなくなる人達が居るのは、なんだか複雑な気持ちになった。
もちろん僕は戦争なんて無くなった方がいいとは思っている。
そう思っているはずなのに、こうして人を殺すための……というと語弊があるけれど、そういう手段を必死で学ぼうとしている。
身を守るため、大切な人を守るためには力が、武が必要なのを僕は痛いほど身に染みている。
矛盾しているけれど、そうしないとひとりの人間すら守れないのがこの世の中だ。
どれだけ平和になろうと、ヨナの実家の家業のような会社は無くなることはない。
ただやはりヨナはこれからの情勢を危惧しているようだった。
「ハンバーガー屋か。いいね。アタシ、ハンバーガー好きだぞ」
「じゃあシャーロットにはウエイトレスをしてもらおうかな」
「あー、それはノーサンキュー」
そんなシャルとヨナのやりとりを見てリオが笑う。そこで曲がり角に差し掛かった所で僕はリオの手を掴んだ。
急に手首を掴まれたリオは驚いたように短く声を上げる。
ごめん、と謝罪する間もなく曲がり角の死角からひとりの女性が現れた。
そう、僕がリオの手を掴んだのはこの女性、女子生徒とリオが出会い頭にぶつかってしまいそうになったからだ。
ちゃんと加減したつもりだけど、急な事だったから驚かせてしまった。
「……」
僕たちに気がついたのか、その女子生徒は軽く会釈する。再び顔を上げたその女子生徒と視線が合う。
第一印象は、透明感のある女性。だった。
白銀色の髪は流れるように美しい。儚げに輝くアメジスト色の瞳。流線を描く女性らしいシルエット。白雪を思わせる肌はそこに存在するのかと疑いたくなるほどに透明感がある。
そう、彼女の存在は透けるように曖昧に感じられた。
「……失礼」
消え去りそうなほど小さなその声は、しかし澄み切った泉のような声は僕の耳に確実に届いた。
僕以外の3人も彼女から何かしらを感じたようで、その背中を目で追う。
今にも消えてしまいそうな儚さ、しかし確実にある存在感。そんな不思議な雰囲気を纏った女性だった。
彼女が後に〝女傑〟と呼ばれる事になる人物であると知らされたのは、彼女の背中が見えなくなってからだった。
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