00-99.僕とみんなで創った未来
ネオ・レイズ事変より5年が経った。
総帥だったガーランドを失ったネオ・レイズ軍は一時撤退。その後何人かの指導者を立てて建国に向けて動いてはいたけれど、〝聖騎士〟と謳われたガーランド程の能力は無かったようで活動は頓挫。今もなお活動は続いてはいるが、決定的な力はなく数年経った今も燻り続けている。
結局、ガーランドは何がしたかったのだろうかと僕は未だに考える事がある。
奴が掲げる理想的な政治を行う国の樹立。それを成すために武力を手に入れようとしていた事はわかる。その内のひとつが新型試作機、“エーデルワイス”や“シャムロック”であり、非人道的な手段で生み出された狂戦士カスタマイザーだった。持ち前のカリスマ性を駆使して優秀な人材を多数集結させて進軍してきた。
全ては順調に思えたけれど、僕はどうも何かが引っかかっていた。
かつて〝聖騎士〟と言われていた名将にしては作戦の所々に穴が多々あったような気がしてならない。
例えば新型試作機2機の強奪した時。比較的警備の緩い日を狙ったとは言ってもMGシリーズが護衛に当たっていたのにも関わらず作戦は成功出来た。
例えば最終決戦の際の情報漏洩。意図的にとも思えるタイミングでこちら側に情報が入って来た。
今後の戦況を左右するほどの兵器と情報。そのどちらも比較的簡単に手に入れる事が出来た。そう、不自然な程に。
結局的にこちらの都合の良いように転じた訳だからまぁいいんだけど、僕はガーランドが僕たちの力を試していたんじゃ無いのかと思えてならない。
試作機の強奪はいいとして、北海道への進軍情報は明らかに意図して行われたものだと言える。
その指示をガーランドがしたのかは定かでは無い。でも、もし奴の指示だったとしたら……どういう意図があったのだろうか。
奴は自身が思う理想を掲げていた。その方法は絶対に間違っていたと僕は思うけれど、奴が思う奴なりの方法で人々を、国を守ろうとした。
これは仮定だけど、その理想を打ち砕くような人物が現れたとして、それを打ち破れないような自分であったのならその夢は叶わないと、夢や理想に近づけば近づくほどに強大な壁にぶつかる。
意図的に情報を流すことによってその障害が現れる。それを早い段階で打ち滅ぼす、あるいは吸収することによって夢の実現を早める打算があったんじゃ無いのか。
ガーランドが死んだ今となっては真実はわからないまま。でも、それが5年間ぼんやりと考えて行き着いた僕なりの答えだった。
これからも戦いは続くと奴は言った。残念ながら奴の言う通り現実となってしまっている。
世界では大小様々な争いが日々起こっており、戦争を行っていない国吉もやはり次の国益を第一に考えるが故に他国の動向を日々伺っている。
そんな混沌とした世界情勢を少しだけ客観的に見られる位置、月にほど近い位置にあるリトアーク・キングダム管轄のコロニー群。その中の農業コロニーのひとつで僕たちは静かに暮らしていた。
E.M.Sでの最終決戦を終え、世界的にテロリストと認識されてしまった僕たちはエディの勧めでそのコロニーに組織ごと身を隠した。
リトアーク・キングダムは多数の移民を受け入れている他人種国家。働き手はいくらあっても良いとの事で比較的簡単に受け入れてくれた。
まぁその裏ではアークティック社とナナハラ重工が動いていてくれたみたいだけど。
月に本社があるアークティック社、MK製造に必要な素材を多数扱うナナハラ重工、月にほど近い宙域に国を構えるリトアーク・キングダム。その関係性は非常に複雑で密接なようだった。
そんな後ろ盾を得て僕は農業コロニーの内のひとつに家と作業場を借りて小さな整備工場を営んでいた。
事業としてはまずまずと言ったところで、主に農作業用に改造された“キュー”の販売と整備。小さな物だと草刈機の整備まで担っている。
コロニー自体が大きいわけではないので客の絶対数は多いわけではないけれど、それと同じように整備屋も数少ない。贅沢さえしなければ家族2人が食べていくには十分な収入が得られた。
そう、僕は今リオと夫婦として生活している。
毎日仕事から帰ると美味しいご飯を作って待ってくれている。一緒に食事を摂って一緒に片付ける。一緒にシャワーを浴びて、ソファで寛ぐ。同じベッドで寝て、リオのキスで目覚める。本当に穏やかで幸せな毎日を過ごしている。
夫婦と言っても公的な書面を提出したわけでは無いけれど。まぁ、そんなものは些細な事だ。こうして愛する人と平穏な日々が送れている。それだけで良い。
絶望に支配されたあの日、全てを奪って行ったガーランド。
あの日死んだはずの僕は5年前にタイムリープし、最悪の未来を変えようと必死にもがいた。
僕の行動は人を巻き込み、世界を巻き込んだ。結果的にこうして愛するリオを救う事が出来たけれど、それによりたくさんの命を奪ってしまった。
結果的に世界からカスタマイザーが消えたとは言っても、僕の行動の全てを正当化することなんて出来ない。
でも、僕に後悔などひとつもない。
僕を庇って死んでしまったリオを救えた。こうして幸せに、暮らしている。それだけでいい。
ただ、僕にも責任がある。
未来の知識を持ち込み、科学の世界水準を強制的に引き上げてしまった。それにより更なる脅威的な兵器が開発され今も世界中で使用されている。
争いの全てを止めることなんて出来ないけれど、戦争に介入して世界のパワーバランスを保つ事はしなければならない。それはその知識をもたらした僕の責任なんだから。
「コータ、シャルが迎えにきたよ」
「うん、今行くよ」
旅行用の鞄に着替えを詰め終わった所でリオが声をかけてくれた。
流れるような黒髪、翡翠色の綺麗な瞳。きめ細かい肌、形の整った眉、桜色の唇。本当に見るたびにに綺麗になっていく。
僕は鞄を持って立ち上がるとその唇に優しくキスをする。唇が離れるとリオが優しく目を細めて、少し大きくなったお腹をやはり優しく撫でた。
「この子もいってらっしゃいって」
「ははっ、そうか。いってくるねー」
そう言って僕も彼女のお腹を撫でる。
しばし抱き合い、リオの髪を撫でていると玄関の方からシャルの声が飛んできた。
「おーい、まさかアタシを待たせてイチャついてんじゃねぇだろうな?」
「……ふふ、バレちゃってるね」
「だね。じゃあ、行ってくる」
最後はリオの頬に優しくキスをして僕はシャルの元へ歩んで行く。
僕は整備工場を営みながらも“ソメイヨシノ”の乗組員、MKのパイロットとしても働いていた。
E.M.Sは表向きは解体されたが、その実態は“ソメイヨシノ”に組織ごと吸収、合併され、メンバー全員が第二分隊として働いている。
その中には、今迎えにきたシャル、メイリンさん、パイロットは引退したけど作戦部に所属しているエディもいる。もちろんヨナも。
“ソメイヨシノ”は現在も世界中の紛争に介入していた。と言っても無闇やたらに戦場を引っ掻き回すなんて事をしているわけではなく、持ち前の諜報能力を駆使して大量殺戮兵器などの使用を事前に防いだり、非人道的な作戦が実行されるのを未然に防いでいる。
前述した通り、僕は未来の知識を持ち込んで科学力の発展スピードを飛躍的に加速させてしまった。それに対する責任を取る……といえば聞こえは良いかも知れないが、それはただの言い訳だ。
僕は自分の目的のために理不尽に命を奪ってきた人達に償いがしたかった……のかも知れない。
リオのお腹の中の子が大きくなる前にはきっと争いが無い……少なくとも人と人が殺し合うような事がない世界になっていてくれないだろうかと。僕はわがままにもそう願ってしまっていた。
まだ見ぬ我が子が安心して暮らせる世の中に。
遠回りかも知れない。事態を悪化させるかも知れない。でも、理想を想わすにはいられない。
そう願いながらもやはり僕はMKを駆る。
未来の知識を詰め込んだ最強の機動兵器で子供達が安心して暮らせる世の中を創るために。
◇
【蒼星のファンファーレ】〜僕をかばって死んでしまった幼馴染の彼女を救うため、二度目の世界では知識チートを活かした最強装備の機動兵器で守り抜く〜
【END】
最後まで読んで頂きありがとうございました。
以上を持ちまして当作品は完結です。
約1年間かけてゆっくりと書かせていただけたのも応援して下さる読者様がいてくれたからこそです。
心からお礼申し上げます。ありがとうございました。
物書きを自称して3年弱が経過しました。書き始めた当初は生意気にももしかしたら作家としてデビュー出来るかも……などと根拠のない夢を胸に抱いて執筆を初めましたが、いやはや、周りには上手い人ばかり。現実を突きつけられて凹む毎日でした。
自身の技量や才能に落胆し、失望していた私でした。
もうやめようか。そう思った時に出会ったのがある作家さんが書いた作品でした。
その作品を読んでいる間は夢のような時間を過ごす事ができ、充実した日々を過ごす事が出来ました。
最後に、筆を置く前に大好きなロボ物を書いて終わりたい。私はそう思うようになりました。
ロボットのアニメ作品を見直し、設定資料を読み漁りました。好きなものを知るという事は私にとっては楽しいことばかりでした。
今までの作品は執筆するにあたって辛い思いもしましたが、趣味全開で好きなことを書き殴ってきたからなのか、この作品は最初から最後まで楽しんで書く事が出来たと思います。
好きなものを書いた。もちろんどうしたら読者様に継続して読んでもらえるのか。そう思考しながら書きました。
結果、私の作品で一番読んでいただけた作品になりました。本当に嬉しく思います。
この作品をもちまして、一旦筆を置き、充電期間に入ろうなどと思っています。
読者としていろんな作品に触れて創作意欲を充電し、爆発させようと。
このまま引退なんて事ありません。断言します。
自身の作品を読んでもらえる喜びを私は知ってしまっています。そう、読者の皆様がそう思わせてくれました。本当に得難い経験です。ありがとうございました。
最後になりましたが、改めて。
当作品を読んで下さった全ての読者様に最上級の感謝を。私の拙い物語を最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。読者様無しには完結はあり得ませんでした。
創作は楽しい。でも、やっぱり辛い。そんな時に読者様の評価やコメントにどれだけ救われたか計り知れません。重ねてになりますが、本当にありがとうございました。
またいつの日かお目にかかれることを心より願いまして、あとがきとさせていただきます。
当作品に関わってくれた読者様。
応援、励ましてくれた友人
尊敬する先生方。
支えてくれた家族に最上級の尊敬と感謝を。
大好きな友人、罪人Aさんにこの作品を捧げます。
皆様の幸せを心から願っています。
また次の作品でお会いしましょう。
2023.07.28 悠木ゆう




