05-42.【ARX-000】“モーニング・グローリー”
超高高度の上空を“モーニング・グローリー”が翔る。
透き通るような真珠色の機体。逞しい四肢を覆う屈強な装甲。額には四本のブレードアンテナ。前面に小さく2本、それからVの字に2本。蒼く光るツインアイ。背面に左右非対称にマウントされた4枚のストライクビット。腰には納刀された剣。その姿はまるで片翼を得た戦乙女の様に見えた。
『前方に敵機、5。距離1200』
自然落下しながらも更にスラスター全開で加速していく“モーニング・グローリー”のAIがそう報告してきた。360°モニターに敵の位置を知らせる円状のカーソルが5つ表示される。いずれもまとまった行動をしている。明らかにこちらに接近、高度を上げて来ている。
“ソメイヨシノ”から地球に向けて降下させたコンテナが国際連合側の監視衛星に補足されたか。それをネオ・レイズ軍が察知した?
理由はどうであれ僕の邪魔をするなら……。
「PK-LINK コンタクト」
『了解』
僕の意思と“モーニング・グローリー”のシステムが繋がる。機体の様々な状態が自分の身体の事かのように理解できた。すごい、これがPK-LINKシステム……。
手を添えていた半球状のフィンガースレイヴ型の操縦桿を操作する。
「一気に突破する」
『了解。私もサポートします』
「……私、か」
AIが自分の事を私なんていうのか。そう思ったが深く考えずに武装の選択をする。
“モーニング・グローリー”の基本武装は多数あるが、僕は機体に近接戦用の実体剣を選択。射撃系の武器を使っても良かったけれど、今のこのスピードなら照準している間に射程が無くなる。それなら力技で押し通る。
腰部ハードポイントにマウントしてあった片手剣【FXブレイド】を鞘から引き抜く。鞘と刀身が擦れる音が鳴り、ミスリル合金製の刃が現れる。FXカーボンとミスリル合金で構成されており、薄く、けれど広い板状の刀身を持っている。抜刀と同時に“モーニング・グローリー”からエネルギーが供給され、半透明の刃に光が宿り、規則的な紋様が浮かび上がった。
エッジ部分に最小限に抑えられたフォトン粒子を纏わせたそれを片手に装備させスピードに任せて突撃を仕掛ける。
すれ違い様に一振り。“モーニング・グローリー”のスピードについて来れなかった“ルビリア”の機体は二分されて数秒後に爆発飛散した。
続けて2機目、3機目も同じ要領で撃破。固まった陣形を取っていたわけではないけれど、どのパイロットも“モーニング・グローリー”を捕捉するには至らなかった。
残り2機。いや、増援か。後方、正確には奴らは地表を背に戦っているから僕から見たら下方に当たる位置に更に5機を捕捉していた。コレだけジャミング粒子が濃いというのに遠方の敵もしっかりと捕捉出来ていた。
敵機と距離がある。それに縦にまとまった陣形。
「超電磁加速砲スタンバイ」
『了解。コンプリート』
背面ランドセルに格納してあるサブアームが稼働し、折りたたまれてマウントされていた超電磁加速砲を掴み、腰に構えるように装備させた。
高濃度に圧縮されたフォトン弾を超高速で撃ち出す超電磁加速砲。この兵器も僕が設計したものだ。試し撃ち……というわけではないけれど、そのシーンにそのコンセプトがマッチしていた。
360°モニターに現れたレティクルを敵陣形の中心あたりに照準してトリガーボタンを押し込む。
腰に構えた超電磁加速砲から猛烈なスピードでフォトンの弾丸が撃ち出され、敵機に命中する事なく横切っていった。そう、僕は敢えて全機に対して掠める様に発射した。この兵器の醍醐味は直撃せずとも発揮される。
その弾道の周囲にいた敵機は弾丸が通り過ぎただけなのに装甲から溶け出し、メインジェネレーターを傷つけて爆発飛散していった。
たった1機だけ残って僕に背を向けようとしたけれどすぐに追いつく。前腕マニュピレータに内蔵してあるフォトンビームバルカンを掃射して撃破する。
「なんて機体なんだ……」
この間7秒。設計した僕がいうのも変だけど、驚異的な機体だと感じた。
もちろん全ては実行に移してくれたカレンさんやクララさん、それに出資してくれただろう“ソメイヨシノ”艦長のアヤコ先輩、実際に作業してくださったアークティック社のクルー達のおかげなんだけど。
高出力の機体なのに“ワルキューレ・ブレイズ”と何ら変わりない操作感。フィンガースレイヴ式の操縦桿のおかげで更に操作しやすい。
音速を遥かに凌ぐスピードが出ているのにパイロットへの負荷がほぼ無いし、的確なサポートをしてくれるAIも優秀。
この機体ならやれる。今度こそ。
超電磁加速砲を格納し、僕は再び機体を加速させた。今度こそリオを救うために。二度とあんな思いをするわけにはいかないんだ。
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