05-34.総帥
『3、2、1……』
リオのカウントがゼロになるのと同時に後方から巨大なフォトン粒子の弾丸が飛来し通り過ぎていった。
周囲の木々を巻き込み、大地を抉り突き進すんだ後には稲妻じみたスパークが瞬いている。猛烈な威力を誇るハイパーメガランチャーの弾丸は狙い通り巨大戦艦の右舷に内蔵してあるであろうフライトシステムのみを上手く掠めた。しかしフォトン粒子の弾丸は威力は衰える事は無く、直進し続け遥か空の彼方に消えていった。
低空をゆっくりと航行していた戦艦だったが、片側の推進力を失い、やはりゆっくりと右舷が下降し始める。屈強だったはずの装甲を失ったその箇所からは黒煙が上がり、それに伴い小中規模の爆発が各所で起こっていた。
母艦に甚大な被害を被ったネオ・レイズ軍は更に混乱に陥っているようで明らかに繊維を喪失している様子だった。
それを好機と見たのか南側に展開していた国際連合軍。ネオ・レイズ軍の母艦が不時着する頃には大口径のフォトンビームの掃射を皮切りに全軍突撃開始。一点突破を図っていたネオ・レイズ軍を進軍を押し返して一気に形勢優位を取った。
国際連合の前線はみるみる内に上がり、ガーランド親衛隊の位置、つまりはさっきまで僕たちが戦っていたラインまで攻め込んで来ていた。
母艦が動かない以上はこれ以上前線を上げさせたく無いのはネオ・レイズ軍。母艦に待機していたであろう残りのMGシリーズ2機が出撃してそれに応戦。しかし多勢に無勢。圧倒的な物量と、何より低下した士気がそう簡単に上がるわけもなく、勢いづいた国際連合を押し切れずにいた。
均衡した戦場。下がりつつある士気。追い詰められたネオ・レイズ軍。このまま国際連合が母艦を包囲するか……そう思われた時、
『――』
……確かにあの男を感じた。
『っ!? コータ!』
「リオ……。うん、来る。アイツが」
そう。やはりというのか、とうとうネオ・レイズ軍の総大将が現れた。
不時着し、黒煙と炎を上げる巨大戦艦の後方にある発進口から一筋の赤いスラスター光が瞬いた。
「……“ダリア”!!」
真紅のモノアイ、鋭い一角のブレードアンテナは鬼を連想させる。
血液のように深い紅の装甲は太陽光を反射して鈍く光り、節々に施された黄金色の装飾が神々しく輝いている。手足に取り付けられた大出力スラスター、背面には翼を連想させるバーニアが4基。
左腕に装備している大型シールドにはネオ・レイズ軍の軍旗が刻印してある。そして、主兵装とも言える高出力フォトンライフル……。そう、あの日僕を撃ち殺そうとしたあのフォトンライフルだ。
『……国際連合軍に勧告する』
「オープンチャンネル? 一体何を……」
世界共通通信チャンネル。救難信号や緊急時のために世界共通で設定された唯一のチャンネルだ。
太くて低く、そして冷たく、しかし確実に心に届く声でガーランドは言葉を放つ。
『私はネオ・レイズ軍、総帥ジョナサン・ガーランドだ。国際連合の同胞達、剣を納めて引け』
その言葉を皮切りにガーランドは口上を述べる。正義や平和を語り、あくまでも大義はこちらにあるんだと主張する。語彙を乱す事なく、冷静に淡々と。その言葉の全ては理想的で魅力的な言葉だった。
でもだからこそ僕の心には響くことはなかった。この数年間、僕はガーランドを追い続け、卑劣にもカスタマイザーを育成している元凶がコイツだと言うところまで辿り着いた。
その事実を知っているからこそ、耳障りの良い理想論を語るガーランドの言葉は刺さらない。そう、簡単に言えば虫唾が走る。
もしかしたら国際連合側の幾らかの兵士の心には刺さったかもしれないが、それを束ねる指揮官クラスの人間の心までは動かすことは出来なかったようで攻撃は緩む事はなかった。
兵を引くつもりが無い様子を見たガーランドの声のトーンがひとつ下がる。落胆したような、本当は無意味な戦いなどしたくない。まるでそう言っているかのような声色で。
『残念だ。……奮起せよ』
『ーー』
「……? え、な、なんだ」
ガーランドがそう言った瞬間に戦場に殺気が駆け巡った。いや、戦場とは得てしてそういうものなのだけど、今までの比べものにならない殺気……そう、もっと恐ろしく、鋭い殺気が。
『何、この感じ……怖い』
「リオも感じたの?」
『うん、鋭くて、胸に刺さるみたいな……すごく、怖い殺気……』
そう言うとワイプモニターの中のリオは自らの肩をさすった。多分、悪寒のようなものを感じているのかもしれない。僕にも同じような感覚がある。
でもシャルやメイリンさんにはそれはわからないらしく、身体の異変を訴えるリオに心配そうに声をかける。
『……っ』
「エディ?」
『……頭が……くっ、ダメ……私は、私はもう……くっ』
ワイプに表示されたエディが顔をしかめ苦しみ始める。額には脂汗が滲み、頭痛を訴えている。
『隊長!?』
まさか。
ガーランドはレギュレータで精神をコントロールされた兵士を従えている。その全ての兵をレギュレータへの依存性のみでコントロールするのは困難。
そう、いくら言葉巧みに人の心に入ってこようと、所詮は個々の志がある兵士の集まり。それ以上に1人の人間。それを簡単に従わせるためのキッカケ。例えるなら催眠術や、そう魔術の呪文のような。今の言葉の中にそのキーワード。精神に埋め込んだ忠誠心を引き出すトリガーが隠されていたとしたら。
あの日からずっと疑問だった。何百、何千の兵を、国の家族や友人すべてを裏切らせられる方法があるんじゃないか。
ニウライザでレギュレータを中和したはずのエディですらこの反応だ、今戦場にいるカスタマイザー達はきっと……。
「エディ、しっかり!」
『……ど、どうしたんだろ、私……自分が自分じゃないみたい……』
エディは必死に自分を律して理性を保っている。メイリンさんが側についていてくれているから心配は無いとは思うけど、元カスタマイザーの彼女になにかあっては心配だ。
「メイリンさんはエディを。シャルと僕は前に出る。リオは援護を」
『『『了解!!』』』
僕の言葉にエディ以外のメンバーが応答した。
局面は終盤だ。ネオ・レイズ軍の最終兵器“ダリア”を堕として全てのカスタマイザーを解放する。
そして、今度こそあの呪われた一日からリオを、僕自身を解放するんだ。
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