05-33.対艦兵器 ※リオン・シロサキ視点
さっきの“ライラック”は偽物……?
いや、そもそも“ライラック”は複数機存在していた可能性はないか。そうだ、どの機種にも元になった機体やワンオフ機ならば試作機というものは存在しているはずだ。見た目だけで“ライラック”だと判断したけれど中身は全く違うものの可能性もある。
現に今私を狙撃してきている砲手は明らかに手練れだ。私の動きを予測してさらに推測した上で精度の高い射撃を行ってきた。最後の一撃は正直ディフェンダービットが無かったらそこで撃ち落とされていた。間違いなく。
でも、そのディフェンダービットのおかげで反撃が出来る。フォトンビームの射線の先に目標がいる。
私は防御体制のまま狙撃用スコープを覗き込む。回避行動をとりつつなので、先程の精密射撃の際にとった腹這いの態勢になれるはずもなく、機体は空中を浮遊した状態で、更には飛び回りながらなので非常に狙いは定めにくい。
だけど、的は動かない、そう、発射した直後なら動けない。狙撃箇所は分かる。あそこだ。
スコープの中の景色は流れ、何が映っているのか、どこを覗いているのか分からない。しかし左目で360°モニター、つまり低倍率の映像と照らし合わせ、右目で覗き込んだスコープの照準に反映させる。
“シャムロック”の機体が空中で流れるように動き続ける。照準の固定は出来ない。止まったら撃ち抜かれる。次弾はもう撃たせない。これで決める。
情報? 計算? いやもう狙っている時間すらない。感覚のみで撃ち抜く。
右目で覗くスコープに一瞬だけライフルを構えた“ライラック”が見えた気がした。その瞬間にトリガーボタンを押し込んだ。
機体の頭部が海面を向いた上下逆さまの状態で放たれたフォトンビームの弾丸は爆発的なスピードで目標に向かったはずだが、私にそれを確かめる術は無い。
展開しっぱなしのディフェンダービットに帰還を命じて再び狙撃ポイント、ブラボーに向かう。もちろん“ライラック”の撃破が確認出来てない以上、細心の注意を払って。
するとしばらくもしない内にスポッタービットから情報と映像が送られてきた。
映像から判断するに、私が撃ち抜いたのは間違いなく“ライラック”みたいだった。フォトンビームをくらった“ライラック”の胸部の装甲は融解し、コクピットブロックは無惨にも跡形もなくなっていた。
“クレピス”に“ライラック”。MGシリーズのその2機を撃墜する事が出来た。あの国際連合の技術の集合体であるMGシリーズを。
やっぱりコータとアカギ教授が作ったこの試作機はすごい。私やシャルのような新米パイロットの操縦でもあのエドワーズ元大尉が駆る“クレピス”や“ライラック”を圧倒出来てしまうんだから。
“ライラック”のパイロットの情報は得られていないけれど、並大抵なパイロットは搭乗させないだろう。
この調子ならあの“ダリア”ももしかして……。
そうだよ、私たちならきっとあのガーランドとだって戦える。奇襲により敵を掻き回し、混乱させて陣形を崩した。更にはエース級の2機、いや、3機を墜した。大きな損害を与えたと言っていい。
流れは確実にこちらに来つつある。ここで一気に仕掛ける。
危険を犯して機体をこのポジションに移動させたのは予め潜ませていた兵器コンテナがこのポイントブラボーにあるから。そう、これこそ今回の作戦の要。E.M.Sが持つコネクションを使って用意した切り札だ。地点に到着し次第、手早く準備を行う。
“ワルキューレ・ブレイズ”、“シャムロック”、“エーデルワイス”、“ブルーガーネット・リバイヴ”、そして“ティンバーウルフ”。5機全てが配置についた。それを確認したコータが私に合図を出す。
『リオ、【ハイパーメガランチャー】の用意は』
「ちょっと待って……うん、いつでも行けるよ」
私はコンソールパネルを弾き、“シャムロック”最強の対艦兵器である【ハイパーメガランチャー】の発射準備に取り掛かっていた。
【ハイパーメガランチャー】は大出力のフォトンビームを収束し弾丸として放つ大型フォトンキャノンだ。その威力はジュピター級戦艦の主砲に匹敵する。
大出力故にMK単体のフォトンジェネレーターでは到底扱いきれず、大型のフォトンジェネレーターが必須になる。当然携帯は不可能なので固定砲台の様な運用しか出来ない。
太いバイポッドで支えられた巨大な砲身を“シャムロック”の腹部に固定し、両側面にあるグリップをしっかり握らせる。
強力な反動を相殺するために背面にディフェンダービットを展開させる。きらきらと光るフォトン粒子の障壁が現れて機体を支える。
照準完了、安全装置解除、外部フォトンジェネレーター最大出力、収束開始。
“シャムロック”の側にある大きなフォトンジェネレーターが熱を帯び始めて何やら危うげな水蒸気が上がり始めた。高出力故に砲身が保たないので撃てるのは一度きり。狙うは右舷に突起した大型フライトシステム。それさえ落とせば奴らの進軍は止まる。母艦を放置するわけにはいかず、彼らはここで戦うことを余儀なくされるだろう。
もちろん戦艦の中心に照準を定めて撃ち落とす事も可能だけれど、何千人という兵隊を乗せた大型機動戦艦を撃ち落とすのはあまりにも悪手だ。
あくまでも私たちの目標は敵の大将ガーランド。綺麗事だけど、命を軽々しく奪うつもりはE.M.Sのメンバーは誰1人持ち合わせてはいなかった。
「エネルギー充填完了。……カウント、3、2、1……」
上がっていくエネルギーゲージが基準値に達した事を確認した私は、容赦なくトリガーボタンを押し込んだ。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!