05-32.2枚目 ※リオン・シロサキ視点
狙撃態勢に入った私は意識を集中させる。
“シャムロック”に内蔵されたPKメタルが反応し、各関節の状態が頭に流れ込んで来ている。
スポッタービットから送られて来た情報を計算し狙撃に反映させる。
“ライラック”との間に遮蔽物は無く、射線はよく通る。しかし風は強く、季節風の影響で気流は乱れている。
計算、経験、そして勘。それらを反映させて合わせたレティクルは“ライラック”からは大きく外れた位置を指し示している。レティクルのリセットを行うと、それらの情報を反映させた状態のまま照準がピッタリと“ライラック”に合わさる。
微調整し、円の中の十時マークの中心に胸部を合わせて固定。
ふぅと小さく息を吐き、集中する。
照準を合わせたとて目標が動かないはずもなく、微妙にズレ続ける照準を左スティックのボールポインタで微調整して追い続ける。親指が動くか動かないか、そんな繊細な調整を続ける。本来ならPKメタルを介しての微調整も当然可能なのだけれど、この最終的な微調整だけは今までやって来たこの方法がやはりしっくりくる。
目標の胴体がこちらを向いた瞬間を狙う。……まだ……まだ……今
「……っ!」
右スティックのトリガーボタンを押し込むとTHK-09対物ライフルが吠えた。猛烈な反動を“シャムロック”の高性能な姿勢制御システムは見事に相殺し、コクピットにはさほど反動は伝わって来なかった。
水平よりやや上方に放たれた弾丸は空気を切り裂き目標に向かって飛翔していき、命中。胸部に甚大な被害を被った“ライラック”は膝を降り、転倒した。
ルナティック合金製の装甲をこうも容易く貫く事が出来るのは、120mmのチタニウム合金製の弾丸の硬度と、それと特別に配合した火薬が為せる技だ。
ボルトハンドルを引き、空になった薬莢を排出して次弾を装填する。その間も“ライラック”から視線は逸らさない。とどめが必要ならもう一度狙撃する。そうではくても単機では無い可能性もある。観測に向かわせたスポッタービット達からの映像などにも注意を向ける。
……それにしても、なんてあっけない。あれば本当に今までのMKにおける技術の全てを注ぎ込んだ【MGシリーズ】の一角を担う“ライラック”だったんだろうか。いや、でも、相手のパイロットは一度の狙撃を失敗して私を見失った。そして再び私を捉えることが出来なかった。それだけで戦果が左右される、そういう事なのだろうか。
どれだけ素晴らしい機種を持っていても、上手く扱う事が出来なければ意味はない。そう、だからこそ日々の訓練は手を抜かなかった。せっかく手に入れたこのMKを、“シャムロック”でコータを守る為に。
『リオ、シャルが“クレピス”を撃破した! ガーランドの戦艦に一気に肉薄する!』
「やった! 了解、ポイントブラボーに移動するね」
『気をつけてリオ、狙撃手が潜んでる可能性がある。ミーティングで話した通り“ライラック”は長距離狙撃が得意な機種で……』
「そっちは大丈夫、もう堕とした」
『え、そんなにあっけなく……?』
コータの声色にはは驚きの感情も織り込まれていたけれど、進撃を開始する重要なタイミング。一言二言言葉を交わした私はスポッタービットに帰還を命じてから“シャムロック”を次のポイントに向かわせる事にした。
フライトシステムを起動させて機体を浮遊させる。背面スラスターをアイドリンせて機体前方に空気抵抗を少なくする為のフォトンフィールドを発生させる。フットペダルと左スティックを操り機体を飛行させた。
目覚すは11時方向に見える小高い丘だ。背の高い木が茂っており、それでいて視界の開けた狙撃に最適なポイントだ。コータやシャルの現在地のやや後方に位置するポイントはこの戦場で1番の狙撃ポイント――。
『――』
「……っ!? なに、これ?」
飛行中に走るあの予感。正面から突き刺すような殺意が飛んで来たのを感じて私は咄嗟に操縦桿を捻った。
鋭いフォトンビームが機体を掠めて通り過ぎて行った。
狙撃された!? どこから……正面から?
私は慌てて前進を中止し、光学迷彩を展開、身を隠す。こんなもの最新鋭のセンサー、高性能機の熱源センサーなどには何の効果もなさないが気休めにはなる。
機体の姿を消して海面ギリギリを鋭く蛇行し射線から逃れる。
そのうちにも一発、二発、フォトンビームの弾丸が飛来し、海面に着弾。水飛沫と高熱により蒸発した海水の水蒸気がもうもうと上がった。
「くっ……!」
『リオ、どうした!?』
インカムからコータの声。それに短く適切に応えつつ操縦に集中する。
PK-LINKコンタクト。スポッタービット射出……
『――』
……来るっ!
今はまだ敵の位置が分からない状態。しかも遮蔽物が無い海上だ。今第二射を受けるのはマズイ。
私は過った直感だけを頼りに機体を操作……いや、機体に命令を下す。意識を集中し、告げる。
「お願い、ディフェンダービット!!」
私の掛け声と同時に“シャムロック”の背面に二つ折りに取り付けられた6枚のディフェンダービットが展開し、重力など無いかのように飛び出した。
そしてバラバラの軌道を取り、しかし“シャムロック”の前面で繋ぎ合わさり強固な盾になった。
射線に対して角度を付けて展開されたその盾にはフォトンフィールドの皮膜が貼られており、狙撃手から放たれたフォトンビームをまるでいなすかのように防いだ。
フォトンビームが表面に触れた瞬間に粒子が飛散し空中に散った。
ディフェンダービットの盾の後ろで私は静かに銃を構える。
手足の操縦ではなく、意識のみで防御が可能なこのディフェンダービットはこれが強い。防御しつつ、それと同時に反撃の準備を整える事が出来る。
今の射撃であらかた敵のポジションは割れた。先立って放ったスポッタービットも朧げながら狙撃手の位置を割り出している。
これからコータたちはこの作戦で最も重要な相手と戦う。敵の狙撃手がいては作戦に甚大な支障がうまれてしまう。そしてそれが出来るのは、今目標にされている私だけ。
一撃で、仕留める。
実弾対物ライフルではなく、より精密で相手の装甲を撃ち抜く一撃必殺の威力を誇るフォトンスナイパーライフルを。
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