05-31.狙撃 ※リオン・シロサキ視点
意識を集中して6機のビットを操作する。
適切な箇所に適切なスピードで。頭に思い描いた軌道をしっかり取っているのか確認しながら。
ビット達から送られてきた映像を受信した“シャムロック”がPKメタルを介して私の頭の中にその映像を映し出した。
「……」
自分以外の六つの目玉が送ってきた映像が視覚として認識されるこの感覚は多少訓練しただけの私にとっては過剰とも言える情報量であった。
けれどそれぞれの映像に集中して観測を続ける。
ビットから送られてくる映像は遥か遠くにポジショニングしている“シャムロック”の光学センサーでは捉えきれない多くの情報を孕んでいる。しかしどの映像もその違和感に対する解には結びつかない。
「おかしいな、気のせいなんかじゃないはずなのに……」
光学センサー、熱源センサーなどどのセンサーにも反応は見られず、その木々の間に小さく出来た空間に対しての情報が何も得られない。
気のせいか、ビットに帰還を命じようか。そうも思ったけれど、拭い去れない違和感が私の後ろ髪をひく。
『――』
「なにっ!?」
気のせいか。そう思った刹那、直感が警笛を鳴らす。
考えるより早くに私の脳波を感知した“シャムロック”のシステムが作動し機体操作をアシストした。
数瞬ののちにさっきまで機体があった場所に火の玉じみた弾丸が横切っていく。危なかった。完全に意識を逸らされていた。
完璧に不意をついた狙撃。こちらの注意を引いて側面から狙ってくるだなんて……。今の狙撃といい、相当に腕の良い狙撃手がいると見える。
私は遥か遠方に派遣していたスポッタービットに帰還を命じると狙撃があった方向に意識を向ける。
私が居るのはコータ達が戦う戦場の遥か後方の上空。長い射程を誇る“シャムロック”の装備であれば物陰に隠れずとも射程の暴力で最適なポイントから狙撃を行えると思っていたけど甘かった。
もちろん何の対策もしずに空中にただ浮いていたわけじゃない。援護射撃を行いながらもポイントを移動していた。それでも“シャムロック”を捕捉して精密な射撃を行ってきた。
私もすぐさま光学迷彩を纏い姿を眩ませ、機体を操作して予め用意していた幾つかの狙撃ポイントの中から一番身近なポイントに移動させる。
戦場は今は三つ巴だ。南方でネオ・レイズ軍を待ち受ける国際連合軍。そのネオ・レイズ軍を北から攻撃しているのが私たち。
そのどちらからの狙撃とも捉えられたが、布陣や軍の位置関係から推測するにネオ・レイズ軍側からの狙撃だということは明らかだ。
どこ……?
初弾を外した相手も素早くポイントを移動したはず。そうだとしてもテレポートが出来る訳じゃない。方角。それだけ分かっているなら後は最適なポイントになるであろう場所に目星を付けてそのポイントをひとつひとつ探っていけば良い。
周辺にある狙撃ポイントになり得る場所は最も適したポイントらS級からさほど適さないB級ポイントまで選定してある。その中から方角と射線の通りを見ればさほど難しい事は無い。
現にほら、もう見つけた。遥かな遠方の山の頂上付近。崖上にある小さな平地に膝を折って姿勢を低くして索敵を行う機体が見えた。あれはデータにあった【MGシリーズ】の一角“ライラック”だ。
遠距離射撃に適したチューニングが施された機体で、他の機種より繊細な動きが出来る機体だと聞いている。距離を詰められた際にも対応出来るように近接戦闘にも重きを置いているらしい。つまりはこの“シャムロック”と似たコンセプトで製造された機体だと言っていいだろう。
幸いこちらが先に目標を発見する事が出来た。距離は遠いが十分射程内。相手に気づかれる前に一撃で仕留める。
私は操縦桿の側面にあるボールポインターを親指で操作して一度格納した武器を再び装備させる。私が選んだのはフォトンスナイパーライフルではなく、使い慣れた実弾銃、THK-09対物ライフル。
折り畳まれた砲身を伸ばしてバイポッドを立てる。機体を腹這いにさせてAIに精密射撃モードに移行するように命じる。
するとコクピット上部から狙撃用スコープが降りてくるので引き下ろして右目で覗き込む。
“シャムロック”も狙撃用バイザーを装着し、私と同じ様にライフルのスコープを覗き込む。ライフルの照準用カメラとMKのシステムはリンクされており、本来ならこの様に本当のスナイパーの様な姿勢をとらせる必要はないけれど、この“シャムロック”においてはPKリンクシステムを介することにより私が思い描いた狙撃態勢を取っている。
スコープの倍率を調節していると観測から帰ってきたスポッタービットが格納された。彼らは燃料などの補給を“シャムロック”から受けて再び飛び立っていった。より正確な狙撃を行うには彼らの力が必要だ。
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