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05-25.副官の意志 ※ヤン・メイリン視点


『エディは左翼から回り込んで。メイリンさんはエディの援護を。風が強いから流されないように』

『……コピー』

「メイリン、コピー。隊長、いけますか?」

『……うん』


 コータからの指示を受けた私はコクピット内のタッチパネルを操作して降下準備を行っていた。

 ワイプモニターに表示されている隊長はやや緊張しているように思えた。まぁ、これだけ長い間一緒にいる私ですら感じ取れる程の表情の変化だけれど。恐らく他の誰かは気づくまい。


 いや、もしかしたらコータなら気づいているかも知れないな。

 

 彼は本当に感の鋭い男。人を見る力が本当に長けていると思う。

 それをもたらすのは戦闘中に過ぎるとされる直感めいた閃きの恩恵があるのかは分からないが、それ以上に彼本人の優しさがそうさせているんだと私は思っていた。


 相手を思い、理解することで相手の考えを読み取り、行動する。その思いを作戦に反映するかどうかは状況によるだろうが、個々の持っている能力を正確に把握している。

 だから彼の立てる作戦は(ことごと)く成功してきた。


 以前、私は彼に指示を出す立場だった事があるが、今はその逆。そしてもちろん私は今の環境に満足している。


 まだまだ経験こそ浅いが、彼は一流のパイロットであるし、又、優秀な指揮官でもある。いや、それを彼に言えば自分は技術屋だからと言われてしまうだろうが。

 

 とにかく私は今のこのE.M.Sという環境がものすごく気に入っている。


 流れ流れて国際連合内のカスタマイザー育成機関に配属になってからずっと私は心にしこりを残して来た。


 命を救う手助けをと思って国際連合で看護資格を取得した。しかしパイロット不足により戦場に駆り出され、気がつけば裏でカスタマイザーを生み出してしまうような部署に配属されていた。


 そう、私は気がつけば命を救う事は愚か、率先して命を投げ出させるような人間兵器製造の一端を担ってしまっていた。


 それに気づいた時は物すごくショックだったし、もちろん私は抜け出したかった。しかし多くの秘密を間接的にとはいえ知ってしまっていた私はとてもその沼から抜け出すことは出来なくなっていた。


 そして私は出会う、エディータ・ドゥカウスケートという少女。湖に張った薄い氷のように透き通るかの様に美しい女性は後に〝女傑〟の称される国際連合のエースだった。


 当時はまだ幼かったものの、整った容姿を持っていた彼女は他のカスタマイザーとは違い、軍のタレントとしての役割を与えられていたため表に立つ事が多かった。

 だからしっかりと投薬の管理を行わないといけなかったため、私は彼女の身の回りの世話をする様に命じられた。


 まだ幼い内から戦闘のノウハウのみを教え込まれて来た彼女は身の回りの事が一切出来なかった彼女の身の回りの世話をする内に、私は彼女を本当の妹の様に思い初めて来た。


 その生活の中で私は思う様になっていた。

 

 彼女はカスタマイザーとして一生を過ごさなければいけないのだろうか、と。


 カスタマイザーはその特性上、いつか必ず命を落とす。いや、それはもちろん人間に関わらず、命あるものはいつか生涯を終えるのだが、そういう事ではなく。

 

 カスタマイザーが裏側で生まれてからほんの十数年程しか経っていないが、その死亡率は極めて高い。

 なんとか隊長を救いたい。しかし私には彼女をレギュレータから解き放つような手段は持ち合わせてはいなかった。私に出来る事などたかが知れている。せいぜい腕っぷしの強さに甘えて戦争、又は紛争を早急に終息させる事しか出来ない。

 

 私が剣を振う事で戦争は確実に終わりに近づくと信じて。


 例え、それをする事で追い詰められた敵軍が新たなカスタマイザーを生み出そうと私は目の前の大切な人の命さえ守れれば良いとそう思うようになっていた。


 だからこそ。そう、だからこそ私は戦わなければならない。


 レギュレータの呪縛から解き放たれた隊長が緩やかで幸せな生活が送れる平和な世界を、争いのない素晴らしい世界を今度こそ掴む。


 その為に私は剣を取る。

 かけがえの無い彼女の、彼女が犠牲にしてきたかけがえのない時間を取り戻す為に。



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― 新着の感想 ―
[一言] エディだけではなくメイリンさんも幸せになってくれなきゃ駄目なのよ… コータ君に全てを委ねるのは非情に酷だけれど、皆で幸せになって欲しい…
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