05-24.降下
『……4……3……2……』
管制室の男性クルーが行うカウントダウンを終わるのを僕はじっと待っていた。
パイロットシートに腰掛けた状態ではあるが、機体を上向きで寝かせた状態なので当然僕達パイロットも上方を向いていることになる。
カウントがゼロになるのと同時に弾道ロケット最後部に取り付けられた超大型スクリューモジュールが高回転を開始し、ロケット発射菅の内部に満たされた海水を掻き回した。
MK5機を載せた巨大弾道ロケットはやがてゆっくりと浮上し始め、発射口から解き放たれて行く。
『帰って来い、コータ』
「うん、大丈夫だよ、ヨナ」
徐々に加速し浮上していく際の圧力を感じながらヨナに僕はそう言った。
浮力とスクリューモジュールの推進力を利用して海面に浮上。それと同時にスクリューモジュールをコンピュータが自動でパージ。アイドリングを続けていたジェットエンジンの出力が一気に上昇する。
「……っ」
『ぐっ……!』
猛烈な負荷がシートに身体を押し付ける。パイロットスーツの生命維持装置が作動して加重を和らげてくれた。
それでも何百トンもある重力を大気圏外に打ち出すほどの力があるこのジェットエンジンの力は凄まじく、それ以降はただただ加重に耐える他なかった。
弾道ロケットはあっという間に白い雲を貫き、視界は一気に真っ青な空のみになる。
やがて大気圏に突入し、発生した熱エネルギーにがロケットの装甲を真っ赤に染め上げて機体を軋ませる。
『っ!? お、おい! 今バキって言ったぞ、大丈夫なのかよ!?』
ロケットから発せられる異音に驚いたシャルが上擦った声でそう叫んだ。
僕は大丈夫だよと一言だけ言うとモニターに視線を落とす。
大気圏を抜けて重力から解放された後に巨大なメインブースター2基を切り離す。ロケットを地球の周回軌道に乗せ、目的地であるロシア東部に展開しているネオ・レイズ軍の背後に落下し、奇襲を仕掛ける。
巨大なロケットも宇宙に出て終えば訳目を終える。5機のMKが格納されているコンテナをやはり5基排出するとそのまま周回軌道をそれて宇宙の彼方に飛び去っていった。
音も重力もない世界。眼下に広がる蒼く清らかな地球。いつか地球を初めて観た時に感じた感動は少し薄れてしまってはいるが、やはり綺麗だと感じた。
コレから最強の敵と対峙するんだというのに、そんな事を感じられた自分の心境に驚いた。思っていたほど冷静で、頭の中はクリアだ。心地の良い緊張感は少しあるだろうか、その程度だ。
無重力を感じるのも束の間。再び強力な重力に引っ張られるように落下を始めていった。
◇
白い雲を貫き、円柱型のコンテナが地表に向けて落下する。減速用の大型パラシュートが開き、そしてすぐにパージされ、更に2枚目のパラシュートが開く。
オートバランサーが作動し、コンテナ各所に仕込ませている小型スラスターから小刻みにジェットが噴射されて姿勢を微調整する。
僕は落下するコンテナの中で待機しつつもコクピット内で味方機の状況確認を急いだ。
実質この“ワルキューレ・ブレイズ”は隊長機という位置付けになっているため、情報処理能力の向上を測っているため、最新鋭機の“シャムロック”や“エーデルワイス”のそれに勝るとも劣らない機能を有している。
味方機からの位置情報を受信し、素早い演算で落下予測点を割り出す。
いくら技術が向上しているとはいえ、大気圏外からピンポイントで目標地点に着陸するのは至難の業だ。
高度を落としてから機体で飛び立つにしろ、コンテナをある程度の地点まで誘導しないと味方機との合流が遅れて、せっかくの奇襲も効果が薄れてしまう。
僕はパイロットシートに腰掛けたまま、空間投影型のキーボードを展開させ、素早くキーを弾く。
“ワルキューレ・ブレイズ”のOSが弾き出した数字を元に、プログラムで補えない計算をし、情報に組み込んでいく。そうしてこちらが意図したところの付近にコンテナを誘導するために。
“シャムロック”、“エーデルワイス”、“ブルーガーネット・リバイヴ”、“ティンバーウルフ”……すべてのコンテナに、それぞれのプログラムを組み換えて送信。それを受信した各機がそれぞれ最適な位置へと軌道修正していった。
『こんな状況で良くそんな事が出来るものだ』
「普段からプログラムの書き換えをしていますから」
『それにしても早い』
そう言うメイリンさんの声はやや上ずってしまっている。落下のスピードはまだまだ早い。
元軍人であるメイリンさんではあるけど、実際の宇宙からの降下訓練などは何度も出来るものではないだろうからやはり恐怖は多少あるみたいだ。それを表に出さないようにしている心持ちはさすがだけど。
MKのパイロットである以上、空間戦だろうが地上戦だろうが、個々で得意なフィールドは当然異なる。ここにいる全員の主戦場は地上だったので、今からの戦いは心配はしてないけど、こんな作戦はなかなか行う機会はないからね。
それぞれがそれぞれのポジションに向けて降下して行く。だんだんと迫る大地に小さく見えるのは、すでに交戦を開始した国際連合軍とネオ・レイズ軍。
青々とした草原に広く展開して侵攻を食い止めようとする国連軍に対して、槍のように鋭くまとまった陣形を組んで一点突破を図ろうとするネオ・レイズ軍。
その陣形の最後方に一際大きな戦艦が待機しているのが見えた。
「あれだ」
そう、それこそ僕たちの目標。総大将であるガーランドがいるであろうネオ・レイズ軍の戦艦だった。
僕は各機に指示をするべく、音声通信アプリケーションを読み込んだ。
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