05-22.発射準備
“ワルキューレ・ブレイズ”のコクピットの中。室内にある多数のコンソールパネルを操作して各所に問題がないか入念にチェックをする。
事前にE.M.Sのスタッフ、整備主任のミーシャさんや、エディータ隊解散後から参加してくれているロイ元軍曹により何重にもチェックを繰り返してくれているので何ら問題はない事は分かりきっているのだけれど。
でもやっぱりこうして何度目かのチェックは怠ってはいけないし、やらなければパイロットである僕自身、居心地が悪い。やはり僕はパイロットであるけれど、整備畑の人間であるし、僕もパイロットもいうよりは整備士がパイロットとして働いている、という感覚に近い。
球体の内側のような360°モニターに表示されている機体の展開図。そこには各所の大まかなチェック事項が展開されており、数千箇所にも及ぶチェック項目の全てがクリアされていることを示していた。
チェックには余念がないが、最後の仕上げとして多数インストールしてあるソフトのうちの一つを起動させ、プログラムによる最終チェックも行う。
ソフトを起動させて数十秒。【clear】の文字が表示されたのを視認してから僕は傍に置いて置いたパイロットヘルメットを手に取った。
ここ一年程愛用しているロゼッタにもらったヘルメット。度重なる作戦を繰り返す中であれだけ綺麗だったこのヘルメットにもいくつもの傷が付いてしまっていた。でも手入れは欠かさなかったし、何より“ソメイヨシノ”で仲良くしてくれた友人がくれたシロモノだ。出来るだけ綺麗に保ってきたつもりだ。
そのヘルメットの側面にある星印のシール。シャルやメイリンさんが面白がって付けたものだ。
親指の爪ほどの大きさのシールが1個、それよりも小さいのが4個。更に小さいのが8個……そう、これは僕が今までに堕としたMKの数。謂わば撃墜マーク。
僕は僕の目的のためにこれだけの犠牲者を産んできた。
それの全ては任務中の出来事であり、全ての先頭において僕は楽しんだつもりは一切無いが、それでもやはりたくさんの人を殺してきた。
中には戦闘を楽しんでいるような敵もいたけれど、きっと多くの敵は家族や大切な者を守るために戦って来たんだと思う。対峙した時に流れ込んでくるあの感覚の中で敵の意志を感じることが多くあったから。
全ての敵に戦う理由があって、それは僕も同じで。お互いに向く方角が違うだけで、何かのために戦うという事には変わりなくて。
重い意志の乗った一太刀を僕は跳ね除けてその意思を砕いてきた。全てはリオと幸せに暮らす未来のために、僕はわがままな剣を振るってきた。
ガーランドを倒せばその全てが終わる……そんな単純に世界は出来てはいないけれど、それでもそうしなければ少なくとも僕には平穏な日々は訪れない。
なんとかしてガーランドの反乱を阻止出来れば。当初はそう出来れば良いと思って行動してきたが、完全に開戦してしまった今となってはどうする事も出来ない。
『コータ、首尾はどうだ』
「ああ、大丈夫だよ、ヨナ。調子は良い」
様々な方向に意識を飛ばしているとヘルメットに内蔵してあるヘッドセットから管制室にいるであろうヨナの声が聞こえてきたので我に帰り、返答する。そうだ、争いが争いを産むこの負の連鎖を断ち切る為に僕は戦わなければならない。
僕がガーランドを討ち取ったとしても、これが最後の戦いには多分ならない。しばらくの間平穏が訪れても、すぐになんらかの形で戦いは始まるだろう。
それは人類が歴史を綴り始めるずっと前からそうであるし、もはや人間とはそういう性質を持ち合わせた生物でと言って良い。でも、それでも平穏で幸せな明日を夢見ずにはいられない。夢を見るのもまた人間の性質であり、特権であると思うから。
だから僕は戦わなければならない。
細やかながら平穏を楽しんでいた世界に混乱をもたらしたガーランドと。
E.M.Sが唯一保有するヴィーナス級強襲揚陸艦“ナガラ”は北大西洋沖の深海に潜伏し、弾道ロケット発射に向けて用意を進めていた。
“ワルキューレ・ブレイズ”、“シャムロック”、“エーデルワイス”、“ブルーガーネット・リバイヴ”、“ティンバーウルフ”の5機を収容し、大気圏外に打ち出す。軌道に乗って移動し、ロシア東部から南下するネオ・レイズ軍を背後から強襲して北海道で待ち受ける国連軍と挟み撃ちにする。
南下するネオ・レイズ軍の背後を取れば恐らく後方で指揮をするガーランドを狙う事が出来る。
奴は確かに指揮官であるが、安全な場所でふんぞり返っているタイプの人間じゃない。前大戦でも自ら前線に立ち、自らの剣で活路を切り開いて来た男だ。
前線には居ないまでも戦場には必ず居る。僕はそう確信していた。
意図的にと言って良いほど簡単に手に入れたという北海道侵攻作戦の概要。どれくらいの人に掴ませた情報かは推測する他ないが、ただ単に情報が漏れたわけでは無いと考えた方が良い。
『……私たちをおびき寄せるため?』
「多分、だけどね」
インカムから発進準備を整えているであろうリオがきいてきた。その声色に不安の色はないが、ガーランドが何を考えているのか分からない故なのか、なんらかの疑念は抱いているようだった。
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