05-21.用意周到
ガーランド率いるネオ・レイズ軍の戦力は国際連合軍の物量には遠く及ばない。その差が原因で前大戦の敗北の原因になった。
もともと地球上にある多数の国々が加盟している国際連合軍に対し、レイズは北欧諸国連合という名前なだけあってヨーロッパ諸国を中心とした非常に小さな規模の連合だった。
宇宙事業で多額の資金を得られており、国連加盟国からの経済制裁などは一切効果を見せず独自のルートで自給する事が叶うような国力が非常に強い国。
科学力も持ち合わせており、所持している兵力も十分に脅威になり得るものだ。
しかしやはりというのか、国連軍の兵隊との比率は1:10とも言われており、レイズ軍の戦力は確かに脅威ではあるが、それでもいつでも押し返せるだろうと思われていた。
しかしそこで現れたのが、カスタマイザーの存在だ。
ひとりのカスタマイザーがもたらす戦果は、それこそ一般兵士の10倍、20倍だと言われており、一度戦場に降り立てば瞬く間に屍の山を築いて行った。
これによりすぐに治ると思われていたレイズ軍の進攻は安易に止める事が出来なくなり、前大戦の長期化に繋がることになった。
最終的には国連軍が有する物量で抑え込む形になり、レイズ軍の抵抗も尻すぼみになっていき、やがてそのまま終戦を迎えることになった。
しかし平和は続く事はなく、再び奮起したネオ・レイズ軍。ソメイヨシノの情報部が掴んだ情報によると、奴らの本隊は日本に侵攻するつもりらしい。
日本の周囲には水深の深い海がたくさんある。潜水艦など隠密性の高い艦を潜ませておくには最適な環境ともいるし、何より国内には多数のMK関連の研究所が多数ある。
その価値といえば月にあるアークティック社のそれに引けを取らないだろう。
その分、日本の警備は厳重でアメリカを中心とした国際連合軍所属の各部隊が常駐している。
いきなり攻め落とされる事は無いだろうし、物量では圧倒的に国際連合軍側に利がある。よほど無謀な戦いは挑んでは来ないと踏んでいるが、だからこそ強行手段に出て電撃的に占領されてしまっては敵わない。
日本全土とは行かないまでも、そう、北海道のようなMK開発の重要拠点を占領されたとあっては今後の戦況を左右しかねない。
そこでソファに腰掛けて作戦会議の様子を眺めていたシャルが口を開く。
「で、ネオ・レイズ軍が北から来るってのはマジなのか」
「うん。前に話したソメイヨシノの情報部の人が得た情報だし、間違い無いと思う」
「私を守ってくれてたって人たち? だったら間違い無さそうだね」
E.M.S内にある小さなブリーフィング室。空間投影型のモニターに極東地区の地図を展開させて作戦会議が開かれていた。メンバーは僕、リオ、シャル、ヨナ、エディ、メイリンさんという主要メンバーだ。この会議で決定した作戦を更に吟味してから各部署に通達する。
レイが持ってきてくれた情報によるとガーランドがいるネオ・レイズ軍本隊はロシアの東部に潜伏し、そこから南下して来ているらしい。
光学迷彩を纏わせた軍艦を多数持っているようで、感知にはそれなりに時間がかかるだろう。
「その情報を得た国際連合軍はどう動くかな」
「北海道にある部隊で迎撃は出来そうだが……エディータ先輩はどう思いますか?」
ヨナに話を振られたエディはふと視線を上げると小さく呟いた。
「……迎撃は無理。多分」
「数では国連に軍配が上がるだろうが奴らは【MGシリーズ】の大半を所持している。それらの多くを投入してくるだろうから量産型メインの編成では分が悪いだろう」
エディを補足するようにメイリンさんが口を開く。
【MGシリーズ】とは国際連合軍が製造した“ダリア”や“ライラック”などの新型MKの総称だ。各機に付けられた型式番号からそう呼ばれる様になった。
今の北海道に駐屯している国連軍の戦力では、多数の新型MKを有するネオ・レイズ軍の侵攻を阻む事は出来ないだろう。
もちろん国連軍とて馬鹿では無いし、僕たちと同等の情報を持っているはずなので戦力を北海道に集中させるだろう。
今の戦力で数日、ないし数週間持ち堪えられたとすれば世界中から援軍が駆け付けてくる。そこまで戦闘を長引かせることが出来たらガーランドも兵を引かざるを得ないだろう。でもきっとそうはならない。
当のガーランドは馬鹿では無い。前大戦の英雄と名高い名将がそんな新機体に甘えた戦法を取ってくるはずがないんだ。
「多分だけど、ガーランドは電撃作戦を仕掛けてくる可能性がある」
僕がそういうとリオとヨナ、そしてメイリンさんは頷き、エディは相変わらずの無表情。そしてシャルだけは首を傾げる。
「戦力を一点に集中させて拠点……旭川基地を掌握して戦力を吸収してしまうかも知れない」
国連軍といえど、彼らはガーランドの元部下だ。直接会った事はないだろうけど、奴は軍に属する兵士の憧れの対象であり続けた。持ち前のカリスマ性と演説力で再び兵士の心を掴む事など造作もない。
直接会談した僕、大切な人を奪われた事があるという事実がなければ僕はあの時奴の手中に堕ちていたとさえ思う。
そこまで話すとシャルも理解してくれたようだった。でも納得は出来ないというふうに溜息を吐く。
「……アイツらの狙いは分かった。それはそれとしてアタシらはどう動く? ネオ・レイズ軍と戦うったってアタシらはもう反国連のテロリストだぜ? 今更連携して戦うなんて出来んのかよ」
「あ」
「どうした、リオ?」
と、ここまで話を聞いていたリオが何かに思い至ったように手を打つ。頭の上に豆電球でも浮かんだようにさえ見える。
「もしかしてこの為にアレを用意してたの?」
「アレ? アレってなんだよ」
感心したような表情のリオとは対象的に合点がいっていない様子なのはシャルをはじめ全員……と、ヨナも何かに思い至ったみたいだね。
「コータ、もしかして最初からこれを予想して……?」
「まさか。でもアレがあれば今後の作戦に役立つと思ったんだ。特に僕たちみたいに小規模の部隊にはね」
「なんだよ、全然話が見えてこねーぞ。勿体ぶらずに教えろよ」
焦れたように答えを催促するシャルをなだめて僕は閃いた作戦概要をみんなに話した。
その作戦を聞いたリオとヨナはやはりと頷き、メイリンさんは呆れ、シャルは驚き、エディは静かに紅茶を飲んだ。
アレの正体。それは超巨大弾道ロケット。
そう、それこそMK数機が格納出来てしまう程の大型ロケット。それに5機のMKをパイロットごと格納し発射。ネオ・レイズ軍の背後を取り、一気に大将の首を取る。
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