05-19. 【AGX-001】“エーデルワイス”
“ソメイヨシノ”の情報部が掴んだ、掴まされた情報によると反乱を起こしたガーランド率いるネオ・レイズ軍は主力を数週間後、日本に侵攻してくる作戦に向けて準備を進めているようだ。
日本は兵器生産に於いて世界トップクラスの技術を有する国で、その製造工場もアメリカに次いで多い。
それになんと言ってもアカギ教授という博士がいる。彼の元には世界中から技術者が集まってくる。それによりもたらされた技術力は宇宙を含めてトップクラスだ。
そんな技術を吸収し、新たな兵器を開発し、独立戦争を優位に進めたいと考えているであろうネオ・レイズ軍が目標にするのは妥当な線であるといえる。
しかしそんな重要な作戦の情報を何故掴む事が出来たのか。この情報は意図的にこちら側に流されたとしか思えない。
何故そんな重要な情報をわざわざ……。
理由は分からないし、何かの罠である可能性も高い。しかし掴んだ情報に対応しない理由にはならない為、不審に思いつつも僕は2機の新型試作機に手を加えている。
そう、アークティック社で製造されたこの機体は完成はしているものの、それはあくまでも固定パイロットが居らず、誰でも扱える最強の機体であるというコンセプトで作らせた機体。
つまりは非常に高い汎用性は持ってはいるが、特定のパイロットが得意とする戦法を特化させるような機体では無いという事だ。
でも国際連合軍から奪った今となっては、1号機はシャル。2号機はリオというふうにパイロットは固定されている。彼女らの専用機となった今となっては彼女たちに合わせた、尖ったカスタマイズも許されると、そういう事だ。
「変形は空中でも出来るのか?」
「出来るよ。人型に変形後もフライトシステムを使って飛行出来る」
「だよな? じゃあファイターモードの意味が無いじゃないのか。ファイターモードでもMKモードでも飛べるなら」
E.M.Sの地下格納庫。地面に対して水平に機体を寝かせる国際連合スタイルの整備用ラックに固定された試作1号機、“エーデルワイス”を見上げるようにして僕とシャルは立っている。
空間投影型のモニターに“エーデルワイス”の展開図を表示させ、指しながら項目を確認していく。
「MK形態では飛行速度は半分に落ちるから、しっかり使い分けした方が良いと思う」
「使い分けねぇ。ろくに訓練もしないでそんな事出来るかよ」
「シャルなら出来るさ」
「どうだかな。まぁやるしかねぇんだけど」
そう言うとシャルは肩をすくめてから、艶やかなショートヘアをかき上げた。
仕方ないなと言った口調ではあるけど、内に秘めた熱いものは確かに持っている。気の乗らない素振りもそんな心のうちを悟られまいとする彼女なりの照れ隠しである事を僕は知っていた。
口ではそう言っているけど、その辺りの事情をしっかりと飲み込んでいてくれている。
新型試作MK1号機。型式番号【AGX-001】“エーデルワイス”
全体的にシャープな印象を抱かせる外部装甲は炎を連想させる紅色に塗装されている。その材質は“ワルキューレ・ブレイズ”と同じく希少合金であるルナティック合金を採用している。
人間の眼の部分に当たるメインカメラはツインアイ方式を採用。側頭部に対に装着されたブレードアンテナ。
背部には航空機の翼を連想させる大小のスタビライザーが計6枚、強烈な推進力を誇るエンジンに取り付けられている。
僕とアカギ教授、それにチームの先生方が必死で開発した新素材“PKメタル”をコクピット周辺に使用しており、本来ならパイロットの意思、念のようなものを感知し感覚的な操縦が可能となっている。
「けど、アタシは能力者じゃないから使えないんだろ?」
「うん、残念だけど」
そう言ってはいるものの、シャル自身はさして気にしていないような素振りである。
彼女としては、そんな意味のわからない原理で動く機械の方が余程扱いにくそうだ、という意見を持っている。
それにシャルの腕があればそんな事もハンデにすらならないだろう。彼女の技とこの機体があればPKメタルの補助無しでも十分に活躍するはずだ。それになんといってもこの“エーデルワイス”最大の特徴である飛行形態を一番上手く扱えるのは彼女しかいない。
「にしても、こんな人型がどうやって飛行機になるってんだよ。どこをどうやっても飛行機の形になんてならないだろ」
と彼女は首を傾げる。確かにシャルの言う通りだ。人型から飛行機に。似ても似つかないその二つの形態を素早く、合理的に行き来する事ができなければならない。何よりその変形機構こそ苦労して開発した。
変形させる事が目的では無く、より多くの戦果を上げるための機構でなくてはならない。
「一度上半身と下半身を切り離してからそれぞれを素早く変形させてからドッキングさせる様にしたんだ。PISを一旦解除させて操縦系統を上半身と下半身で分ける。ヴァリアブル・トランス・フォーメーション機構、VTFを作動させて分離状態で変形。そのあとマグニアスシステムで――」
「ああ、なんとなく分かった……」
僕の説明が長いと思ったのか、シャルがもう結構だという仕草をした。もううんざりだと言わんばかりに。な、なんだよもう良いの? もっと説明させてくれよ。
まぁシャルは頭で理解するタイプじゃないしね。今の質問もただの興味だろう。
さて、作成まで時間がない。急ぎつつも丁寧な仕事をしなければならないな。僕は間違いなく世界最先端の機種を整備できる喜びを感じながら作業に移った。
まずはこの“エーデルワイス”から。それと同時進行で2号機の作業もしていきたいしね。
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