05-18.情報
「――と、ここまでが私たちが掴んだ情報だ」
「ありがとう。その情報の信憑性は……言うまでもないね」
僕のその一言にうなづいて相槌を打つと彼女は手元のティーカップに視線を落とした。
アカデミーのカフェテリア。青空が広がるテラス席のパラソルの下で僕は目の前に座る少女からガーランドにまつわる情報を入手していた。
黒髪のショートボブにアジア人特有の切長の目。実年齢は不明だが、容姿は13、4歳くらいに見える。見た目は確かに幼いが、彼女がくぐり抜けてきた修羅場は僕なんかよりも格段に多い。
それは彼女が働く部署がテロリストの情報部、それも最前衛の部署だからだろう。その幼い容姿から発せられる言葉には軽さが一切感じられない。
彼女……レイ・ミフォンは僕と同じくアカデミーに通うひと学年下の生徒だ。けどその実態は対テロ極秘傭兵組織ソメイヨシノが抱える諜報員のひとりだ。日頃はアカデミーに通いつつ、ソメイヨシノからもたらされる情報をこうして僕に繋いでくれている。
僕にが“ソメイヨシノ”にいた時にリオの影から護衛をしてくれていたのも彼女だ。
そんな彼女から少し不穏な雰囲気が感じられた。
「だが今回に関してはどうもきな臭い」
「……? どういう事?」
「情報があまりにもクリアでな」
「情報がクリア……」
「事態からさほど時間が経っていないのに関わらずこれ程重要な情報を得る事が出来た。いとも簡単に、あっさりと、だ」
レイ曰く、本来この手の情報の入手には相当に骨が折れるのだという。
国際連合に宣戦布告したガーランドの足取りを掴む事自体が難しいというに、それだけでなくヤツの次の目標の情報すら入手出来てしまっている。
いや、彼女ら情報部の人間が必死になって情報を集め、それを集約して結論付けた物であっても、今回の諜報で得たものの信憑性は高く、だからこそ違和感があるという事だった。
「意図的に掴まされた可能性も?」
「そう考えて良いだろう。私たちがこれ程簡単に手に入れた情報だ。当然、国連軍の連中も掴んでいるはずだ」
「……」
意図的に掴まされた情報。それはこちらの行動を誘導する為のフェイクかも知れないし、逆に本当の情報を敢えて掴ませる事により要らぬ警戒をさせて行動を制限させる為に情報を流した可能性もある。
それを踏まえて僕は今後の行動を思考する。
実質的にE.M.Sを導く立場にあるのだから、安易な行動は慎まなくてはならない。今までもそうだったけれど、これから先の選択肢は間違うわけには行かない。
僕の言動や行動が恋人のリオや友人、仲間達の命と直結する。今の僕の言葉は非常に重い。
「それから、これを」
「ん、ロゼッタからか。ありがとう」
最後にレイはポーチから便箋を取り出して机に置いた。ピンクの可愛らしい封筒の宛名には筆記体で僕の名前が記されている。
“ソメイヨシノ”から離れてしばらくの間は月に二.三通程度の頻度で行われていた文通も今では半分ほどになってしまった。
内容は日常の些細な出来事などの報告や、それに対して彼女がどう思ったのか。それとレベッカさんやマリオンさんなどの仲間たちの様子が大半を占めており、当然といえば当然だけど“ソメイヨシノ”の任務内容などは一切書いていない。
高度な技術を持つ“ソメイヨシノ”の情報部のルートで流通させているとは言え、何かの拍子で紛失などしては問題だからね。任務内容を匂わせる言葉すら入っていない。僕はそんなロゼッタとのやりとりが好きだった。
「返事はいつも通り明日でいいか」
「いや、今すぐ書くから待ってて」
そういうと僕は手紙を開封して目を通す。日本人の僕にも分かりやすいように丁寧な英語、正しい文法で書かれたロゼッタの文章は本当に読みやすい。彼女の気遣いの表れだ。
いつもならゆっくり目を通してから、ひと晩で返事を書くんだけど……レイが持ってきた情報によるとどうやらそうしている時間もないみたいだからね。
ガーランドは既に動き始め、戦争は始まったばかりだ。戦火が広がる前にこちらも行動しなくては。
意図的に流されたと思しき情報。ヤツにどんな考えがあるのか分からないけど、こちらも準備をしなければいけないのは変わらない。
「はい、これをロゼッタに」
「確かに受け取った」
走り書きにならないように気をつけて書いた手紙をレイに渡し、僕は席を立つ。
次の戦場は決まった。それに向けて出来る準備を早急にしなければ。強いて言えば、新型試作機2機をより実践向きにカスタムしなければならない。
時間は無い。でも、それでもやっぱり僕は技術屋なんだなと思う。だってこんな状況だというのに腕が鳴って仕方ないんだから。
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