05-17.発起
英雄〝聖騎士〟ガーランドが主導した形で行われた国際連合への宣戦布告を受けて、世界は混乱に陥っていた。
何故彼が裏切ったのか。その理由を演説で多くは語らなかった為にメディアを中心に様々な憶測が飛び交っていた。
ひとつ、国際連合上層部の彼に対する評価が妥当ではなかったからではないか。
ひとつ、彼の祖母がレイズ出身で幼い頃にそれに対する差別を受けていたからではないか。
ひとつ、そもそも裏切ったわけではなく、最初からレイズ側が送り込んだ諜報員だったのではないか、など。
どの噂も憶測も信用するに値するものの様にも感じるし、その逆であるともいえるものばかりだと僕は感じた。
奴と直接会談した際に受けた印象としては、個人の感情で動く様な単純な人間では無さそうだと感じたから、前述したどの理由も僕個人としてはピンと来なかった。
けれど、他人から見てどんなに単純な理由だったとしても、当の本人にとっては人生を捧げるほどに大きな事だという場合も十分ある。
実際僕は一人の女性を守るためなら世界を敵に回すつもりまであるし、実際にそうするつもりだ。
だから演説で述べられた『平等で、差別のない国家の建国』という事にも嘘は無いとは思うが、その裏にある本当の理由については未だ見当は付いていない。
ひとつ確かなのは、奴と国際連合は正式に対立し、戦争が起こってしまったという事だ。
それは僕としても予想外で、1周目の人生で起こったあの日の出来事の様なテロが引き起こされなかった。
もちろんこれからその様な事態が起こらないとも限らないが、それでもあのような最悪な事態が引き起こされなかった事は僕としては少しだけ救われたような気分になった。
あのような地獄みたいな事態が引き起こるんだと覚悟していたから。それからリオを守る為にここまで来たのだから。
じゃあこのまま身を引けばリオを守り抜けるんではないか。そう思わなくもなかった。なかったけど、僕は、僕たちはもうヤツの反乱に対抗する事が出来る手段を持ち合わせている。
僕が持ちうる知識の全てを詰め込んだ最強のMKが2機も手中にある。
第二、第三の僕たちの様な不幸な人達を産むわけには行かない。正義とか世界平和とか、綺麗事を言うつもりは無いけど、世界情勢に対してネガティブな要因を討ち滅ぼす手段を持っているのに関わらず、それを行使しないという選択肢は僕たちは持ち合わせてはいなかった。
ガーランドは独立しレイズに渡った。それに対する敵、つまりは国際連合。敵の敵は味方、というわけにはどうもいかない。
何故ならば僕たちは先日、セレモニー会場からMKを奪い去るという大罪を犯している。
それが例え対ガーランドの為に行った行動で、結果的に国際連合の為になったのだとしても国際連合側はその行為を許容しないだろう。
それはそうだよね。僕たちが行ったのは立派なテロ行為なんだから。試作機を奪った犯人が僕たちだと知ったアカギ教授は、してやったりと言った様子で笑っていたけれど、そう思ってくれる人はほんのひと握りだろうから。
つまり僕たちが国際連合と手を組むことはない。
それでも僕たちは表向きは国際連合側の人間だから、それは維持しながら。
「つまり私たちはテロリストって事、かな?」
「いや、裏切ったガーランドを討つ為の集団なんだから正義の味方だろ」
人差し指をシャープなアゴに添えて首を傾げるリオにタンクトップ姿のシャルがそう言った。
テロリストは言い過ぎにしても、もはや僕たちはそれに近い組織になった……という事になってしまうのかなと僕も思う。
けど組織という呼び方も相応しくないと思える程に僕たちの組織は大きくない。
民間軍事会社であるE.M.Sのメンバーのみで形成されているわけだけど、その中の全ての傭兵を引き込んでいるわけでは無い。
E.M.Sに登録してくれている傭兵の多くは信用に足る人物ばかりではあるけれど、中には素性がはっきりしないメンバーも数人いる。
傭兵の人生とは得手して得てして複雑なもの。傭兵を雇う時点でそんな事はわかっている事だし、世間的に見たら犯罪者となってしまった今の僕たちに無理に付き合わせる事は出来ない。彼らは彼らの人生の為に、仕事として兵士をやっているんだから。
それを踏まえて僕は彼らに協力を仰いだ。シャルやエディたちと同様に僕がタイムリープして来た事を全て話した上で僕に協力して欲しいと。
数々の任務を遂行する内に生まれた彼らとの友情は確かに感じていたし、彼らは信用に足る人物であると僕は思っている。
時には連携ミスで死にかけたり、それが原因でつかみ合いの喧嘩に発展してしまう様なメンバーもいる。けれど一度コクピットから出れば気の良い連中ばかりだ。それでもし裏切られでもしたら……まぁ、それはそれ。僕の目が曇っていただけだという事だ。
E.M.Sは非戦闘系の人員を含めて70人程度。そのメンバー全員が僕たちの活動に同行してくれる事になった。
それが今後どう転ぶか分からない。でも、これだけの人員を確保出来たという事は非常にありがたい事だ。例えば僕たちパイロットが必死に働いたとしても、MK数機を運用する事は不可能だと思うから。
MKを運用するには相当の人員が必要だ。E.M.Sでノウハウを備えたクルー達がそのまま味方になってくれるのは心強い。
「みんな、ありがとう」
「ははっ、まぁやる事は変わりないからな。ちゃんとこっちの方も弾んでくれるんだろ?」
とクルーの何人かは親指と人差し指で丸を作り、金銭を連想させるポーズを取った。それを見たヨナは苦笑いするでもなく、快活に笑いうなづいた。
「もちろんだ。今までみんなが稼いでくれた貯蓄もある。見事ガーランドを討ち取った暁には大盤振る舞いだ」
「おい、みんな聞いたか!? 聞いたな!?」
人種も年齢も性別もバラバラの傭兵達がそれぞれに歓声を上げる。所属する民間軍事会社ごと世間で言うところのテロリストに成り下がったのにまぁお気楽なものである。でもやっぱりそんな彼らが僕は大好きで、勇気を出してみんなに打ち明けて本当に良かったと、心から思った。
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