05-16.分配
お待たせ致しました。
最新話の更新です。滞ってしまい、申し訳ありません。どうぞお楽しみください。
『会場を襲った武装集団は宇宙へ逃亡したとの見解もありますが、所在は依然分かってぃせん。追撃を試みた国際連合軍の対応を疑問視する意見もありますが――』
E.M.Sの地下にある格納庫で僕たちはディスプレイから流れるニュース映像を見ていた。
事件から一晩明けてもどのチャンネルも昨日、僕たちが引き起こした試作機強奪の事件の事を報道している。
結果から話すと、試作機の強奪は成功した。
その強奪役を買って出てくれた二人に怪我などなく、機体にも大きな損傷は無い完璧な状態で奪還出来た。今回相手側だった国際連合軍にも死者は出ておらず、負傷者は数名確認されているけれど死者、重傷者は出ておらず、入念な下準備の元に行われた今回の作戦は大成功だと言ってもいいと思う。けれど、
「あ〜ぁ、とうとうやっちまったな」
折りたたみの長椅子に腰掛け、自身の黒髪をクシャと鷲掴みにしてうなだれるのはシャルだ。まぁ目的があるとしても、こんな凶悪事件を引き起こしてしまった。更には負傷者も出してしまったと言えば落ち込む気持ちも分かる。
「どうしたんだ、シャル? 悪さは慣れてるだ――げふぅ!?」
「殴るぞ」
「……な、殴られた方がマシだ……」
シャルの全力頭突きを額に食らったヨナが患部を押さえて涙目でそう訴えた。いや、今のはヨナが悪い。彼の金髪を両手で鷲掴みにした瞬間に顔面飛び膝蹴りかと思ったから実刑にしては軽い方だったと思うけど。
奪った試作機を隠しながらE.M.Sに持ち込むのは至難の業だったけれど、みんなの協力と、ここ数ヶ月で完成させた光学迷彩装置が上手く働いてくれていてくれていたから上手く搬入出来た。
みんなにタイムリープの件を打ち明けた事によって、僕が持つ知識を何の遠慮や考慮も無く提示できるようになった。それによってこうして作戦の成功率を上げることが容易になった。
とは言っても、既に科学技術の水準は僕が過ごしていた未来のそれに匹敵するほどに進展している。それどころか、アカギ教授が尽力してくれたおかげで未来では完成しなかった新素材【PKメタル】が完成した。
PKメタルはパイロットの念のような物、意思を機体に伝達し、機体操作の補助に役立てる機構だ。
シートに腰掛け、手足で操作する従来の操縦方法に加えて、パイロットの意志を機体に伝える事により機体レスポンスの向上を図っている。
それに加えてチェイサーミサイルの様な兵器とも意思伝達を送ることが可能だ。
一見強力な兵器で、万全な状態でガーランドの反乱に備えられたかと言えばそうではない。
このPKメタルを操るには残念ながらパイロットの素質、持って生まれた才能が必要になる。ある一定の脳波を持つ者でないと起動しない。
事前に調査した結果、幸いに僕とリオにはその才能があるらしく作動基準値以上の脳波を発する事が出来る。
けどシャルにはその才が無かったらしく、残念ながらPKメタルは作動させる為に必要な値、“念動力”と名付けたその数値には届かなかった。
「でも本当にアタシが1号機に乗るって事でいいのかよ。才能は無いんだろ?」
けど、僕は1号機のパイロットにはシャルを指名した。それに首を傾げるのは他ならないパイロット本人だ。それに乗って戦う事が嫌なわけは当然ないだろうから、彼女が疑問に思う理由は何となくわかる。
彼女が疑問に思うのも当然分かるけど、それでも僕は1号機のパイロットにシャルを指名した。
「確かにPKメタルは作意味が無くなってしまう。でもそれを抜きにしてもシャルの腕なら十分にこの機体を扱えるよ」
「どうだかな。アタシよりエディータ先輩の方が適任だと思うけどな」
「……私には、“ブルーガーネット”、あるから」
シャルの言う通り、カスタマイザーであるエディの方が効率的に機体を操れるかも知れない。けれど、エディは既にカスタマイザーの呪縛から解き放たれている。確証は無いけど、元カスタマイザーのエディをPKメタルを介して機体と身体をリンクさせる事は完全に安全だとは言い難い。
「隊長はコータが造った機体が気に入ってるんだ。1号機のパイロットに文句は無いさ」
「……」
エディはメイリンさんの言葉にコクリと小さく頷いた。退役した後も相変わらず隊長と呼ばれる事にも慣れた様子だ。
「それに1号機のコンセプトはシャルのスタイルにも合ってるしね」
「……まぁ、そう言うなら良いけどよ。で、後衛特化型の2号機のパイロットは……」
と、シャルが言葉を切ったところで皆の視線が一点に集まる。僕も皆の視線の先を辿ると、紅茶が入ったカップを手にしていたリオがきょとんとした表情をしていた。
「え、私?」
「そうなるだろ。この中で一番射撃が得意なのはお前なんだから」
新型試作機のコンセプトは〝対になる機体〟だった。前後衛、それぞれの個性を機体に持たせる事により複数機での作戦行動を前提とした機体に仕上げた。
ガーランドの様に卓越した操縦技術を持つ者に対して単体での戦闘を挑んでは返り討ちに遭ってしまう可能性があったからだ。もちろん単体での戦闘能力も申し分無いけど、それでも打倒ガーランドを想定した機体である以上はその様なコンセプトの元で開発してもらった。
「けど、いいの? このチームのリーダーであるコータに乗ってもらわなくても」
そう僕に気を使うってくれるリオはやっぱり優しい女性だなと思う。その言葉には、僕にも最新鋭機に乗って身を守ってもらいたいと思う気持ちが含まれているだろうから。でも、それは僕も同じで、“ライラック”が手に入らなかった今となってはとなっては最強の機体である試作機にリオに乗ってもらう事が良いと思ってる。
「大丈夫だよ、リオ。僕には“ワルキューレ・ブレイズ”がある。それにこの5人のチームなら十分戦えるよ」
戦う。そう、これから僕たちは戦わなければならない。
新型試作機を奪われた国際連合軍は、いや、ガーランドは恐らく強行手段に出るだろう。奪われた機体が脅威になるのはわかっているのだから。
僕の予想通りに数日後、ガーランド本人による演説が世界に放送され、レイズから派生した新国家誕生に向けた独立運動を行うと発表された。
それは即ち、レイズと国際連合との大戦、世界大戦の再戦だった。
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