05-15.奪還
何かが破裂したような音がセレモニー会場に響いたかと思った瞬間にそれに伴う衝撃波が、会場付近で護衛に当たっていた僕のところにも伝わってきた。なんらかの事件が起きたのは明らかで、すぐさま作戦を統括する指揮官より命令が下される。
突然の事件で多少の混乱はあれど、さすが百戦錬磨の正規軍。ひとつひとつの仕事を確実に処理し、それに対応していく。
『E.M.SはB班の援護、来賓者の護衛に向かえ!』
「E.M.S班、コピー」
僕宛に送られてきた命令に短く返事をし、機体を現場に向かわせる。
全ての状況は把握出来ていないまでも、やはり各国の首脳クラスのVIPが多数来場しているのでそれは無視できない。
「シャルは1番ゲートから会場内に侵入、リオは狙撃ポイントをCに変更して。僕は空に上がる」
『了解だよ』
混乱する会場はパニックに陥る。僕たちは逃げ惑う人々に気を配りつつ、現場に急行する。
リオ短く応答し、すぐさま行動に移るが、シャルはやや気の抜けた返事をする。
『りょ』
「シャル、真面目に」
『へいへい、りょーかーい』
恐らく気が乗らないのだろう、やや緊張感のない返答に僕は内心ため息を吐く。
まぁ、シャルの気持ちも分かる。リオのように生真面目にこんな任務に向かえる方がすごいんだ。
目的のためには一芝居打たなければ行けない時もある。
そう、今の僕たちのように。
◇
『1号機と2号機が起動した!? 一体誰が乗っているんだ!?』
『分かりません!』
『モニター出来ないのか! 遠隔で強制的に電源を落とせ!』
『ダメです! コクピット側からロックされていて全ての信号を受信しません!』
『なんて事だ! 警備兵は何をしていた!!』
『警備兵の中にテロリストが潜んでいた模様です、内通者の可能性も――』
管制室からの無線がインカムからダダ漏れになっており、上層部の混乱ぶりが手に取るように伝わってきていた。
もちろんこんな通信は一般兵には聴こえているはずもない。上官の動揺は戦闘をより混乱させる。現場を指揮する将校がこんな調子ではろくに統率も出来ないだろう。そんな混乱を小隊に伝わらなようにするのも副官以下の仕事でもあった。
そんな通信を傍受していると片耳に潜ませていたインカムに聞き慣れた声で通信が入ったので、軍の通信端末のマイクのみオフにした。
『聞こえるか、2号機の起動に成功したぞ』
『……1号機も起動』
「素晴らしい手際だよ、二人とも」
『全く我ながらそう思う。よくもここまで死人を出さずに来れたものだ』
『……麻酔銃とティザーガン、使った、から』
通信の相手は、今回のセレモニー護衛の任務には着いていなかった二人、エディとメイリンさんだ。彼女らにはこの作戦で最も重要な役割を担って貰っていた。
僕はこの完成セレモニーでお披露目される予定だった新型試作機2機を強奪しようと考えていた。
このようなセレモニーが行われる日を選んだのは、多大なインパクトを軍に与えるためでは無い。奪還できる機会をずっと伺っていたけど、それは叶わず、奇しくもこの日が一番警備が薄くなり、尚且つ、奇襲にはもってこいだと判断したからだ。
E.M.Sに護衛の任務が来たのは予想外だったけれど、それを隠れ蓑に出来るし、僕らが会場護衛に着く事で、最悪の場合は密かに警備兵の中に紛れさせていたエディとメイリンさんの援護が出来るのではと考えたからだ。
軍の中では有名人だった二人だ。そんな彼女らを一般兵に紛れさせるのは難しいかと思っていたけれど、幸い、警備兵はつま先から頭まで完全防護のフル装備状態。顔が見えなくても誰も気にしない。
しかし精鋭ともいえる警備兵を相手したというのに、二人の声はいつも通りだと思える。
メイリンさんもすごいけど、エディもカスタマイザーではなくなって、戦闘感覚が衰えたと言ってもまだまだ戦士の様相である。
「二人で逃げれそうですか? 援護は」
『必要無い。私たちを援護して要らぬ疑いを買ってしまっては全ての計画が水の泡だ』
「そう、ですか。気をつけて下さい。……すみません、危険な仕事をさせてしまって」
そう、今回の作戦で最も危険な仕事をしているのはこの二人だ。
警備を掻い潜り、場内を駆け抜けて機体を奪う。更にはそれを持ち出して逃走までしなければならない。誰の力も借りずに、二人だけで。相手は当然生きて捕まえようとはしてこない。そんな危険な仕事をさせる事に僕は最後まで納得は出来なかった。
『……慣れてる、から』
「エディ……」
『……死なない』
静かにそう口にするエディの声はやはり細くて、何かの拍子にかき消えてしまいそうだけれど、彼女の持つ意志が確かに乗った言葉だった。
『コータが持っていた設計図のおかげで操縦も予習出来たわけだしな。無問題だ』
彼女らは今からこの会場から逃走しなければならない。最新鋭の機体が多数いるこの会場から。それに何より……。
「はい、ですが戦闘はなるべく避けて下さい。連中の新型機は既に完成しています。それに乗るパイロットは――『分かってる。だが問題ない』
それを駆るパイロットは超一流のエースパイロットばかり。その中にはあのガーランドも含まれる。
この世の全てを詰め込んだ、最強、最悪の機体“ダリア”を駆るガーランドも当然この会場に居る。今頃はきっと慌てて起動準備に取り掛かっている事だろう。
けどそれなど最初から心配はしていない様子でメイリンさんは言う。
『君が創ったこのMKはヤツらの機体に遅れをとるような代物か?』
音声のみの通信なので顔は見えないが、それでもメイリンさんが不敵に笑っているのが見て取れた。
そしてそれはエディも同じで、いつもの通りに透き通った声で小さくつぶやく。
『……コータが創った機体、絶対無事に届ける』
こうして試作機奪還作戦が開始された。
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