05-14.セレモニー護衛任務
『こちらリオ、配置についたよ。狙撃手の射程だからかなり遠いけど、通信の感度はどう?』
「うん、バッチリ聞こえてるよ。シャルも聞こえてるね?」
“ワルキューレ・ブレイズ”のコクピット内にある360°モニターの端にパイロットヘルメットを被ったリオのバストアップ画像が小さく表示される。
長距離狙撃を得意とするリオとは作戦中、機体間の距離が離れる場合が多く、以前までは通信が乱れる事が多々あった。けど新しく取り入れた通信デバイスの調子が良いらしく、音声、映像共に非常にクリアだ。
姿は見えないけれど、彼女専用に、精度の高い長距離狙撃が行えるようにカスタムされた“ティンバーウルフ”に乗り込んで配置に着いているはずだ。
僕はその問いに空間投影型のコンソールパネルを弾きながら応える。
『おう、聞こえてる。……つーか、なんでアタシらがこんな任務に着いてんだ?』
今度はリオと反対の端におそろいのヘルメット姿のシャルの姿が表示される。シャルもリオと同じく、オリジナルにカスタムされたシャル専用“ティンバーウルフ”に乗り込み、僕よりやや前線に配置している。
彼女はリオとは違い、浮かない表情……この任務がどうも気に入らないといった様子である。
まぁ、その気持ちもわかる。実際僕もこの依頼を聞いた時には色んな意味で耳を疑ったから。
開発期間三年を要した、軍が開発を主導した“ダリア”を中心とした新型機がとうとう完成し、ガーランドが率いる軍に正式に新型機の配備が決定した。
開発期間3年というのは確かに時間がかかってはいるが、1周目のそれとは倍ほどの進展スピードで完成まで漕ぎ着けた事になる。
ガーランドが駆る事になるであろう“ダリア”を始めとした新型機は複数開発されたわけだけど、軍はそれらの機体の完成セレモニーを催すと発表した。
このセレモニーは単純に新型機の完成を祝うためのお祭り……では当然無い。
お前たちが相手をしている軍はこんなにすごい機体を開発した。だから無駄な抵抗はやめて完全に降伏しろ、と未だに抵抗を続けるレイズに対するアピールだろう。
そのセレモニーの護衛任務がなんとE.M.Sに転がり込んできた。
いや、セレモニーの護衛だけで僕は驚いたりはしない。今までも軍から多数の依頼を受けていたわけだし、それを確実にこなす事により確実に信頼を得てきたわけだし。
驚いたのは、アカギ教授が開発を手がけた試作機
1号機と2号機までもそれらのMKと同じくお披露目されてしまうという事だ。
僕らから奪った機体の護衛をやらせるのか、そう思ったけど……多分、E.M.Sにこの依頼が来たのは偶然だと思う。だって、この話にガーランドが一枚噛んでいたとしたらわざわざ僕な所属する民間軍事会社に依頼をするだろうか。
僕が試作1号機と2号機の開発に携わっていると、ガーランドは知らない可能性もあるのだけれど。
いずれにしても気持ちの良いものではない。だからシャルも納得はしていない様子であった。彼女が『こんな任務』と言ったのもわかる。その上で彼女はこうも続ける、「まぁ適当にするけどな」と。
「まぁ、うん、そうだね。気が乗らないのも分かるけど」
『だよな。安全が保証されてる依頼なんてよ』
『それは分からないじゃない? いつ何があるか分からないから私たちに依頼が来たわけだし』
『何言ってんだ、アタシらは――』
ロクでもない事を言いそうになるシャルの言葉を遮る。MK間の通信でする会話、ましてや今はもう任務中だ、私語は控えるべきだ。いや、今更なんだけど。
基本的に僕たちは3人、ないしはエディとメイリンさんを加えた5人で作戦にあたる事が多い。エディとメイリンさんは今は別任務についている為に不在だ。
インファイトが得意なシャルが前衛、射撃が得意なリオが後衛。その中間に位置する場所に配置するのが僕。“ワルキューレ・ブレイズ”の機動力を使って前後に臨機応変に対応する。
基本的には前衛で戦うシャルの援護を僕とリオで行う様な形になるんだけど、後方から正確な射撃を行うリオの存在が敵としては脅威になるようで、必ず撃墜しようとしてくる。
そんな時にすぐに駆けつけられる間合いにいる事が出来るこの中衛的なポジションが僕の力が一番発揮出来るんじゃないかと思ってる。“ワルキューレ・ブレイズ”は火力もあるけど、防御力もかなり高いから。
“ワルキューレ・ブレイズ”の機体スペックは確かに高い。けれど、アークティック社での改修から一年以上が経過した今となっては周りの機体との性能差はかなり縮まっている。その分、僕の腕も上がってる……といいのだけど。
いずれにせよ、実質的にE.M.Sの作戦部の隊長的なポジションを任せられている身としては、まずは任務を全うする心算だ。
超高性能の新型機のお披露目セレモニーとあって、各国のトップまでは行かないまでも要人が多数出席する予定だ。
セレモニーまで半刻ほど。僕ら以外にも多数の正規軍と傭兵、それに属するMKを始めとした兵器が身を隠そうとする事もなく、威圧的に護衛にあたっている。
その様は非常に壮観で、物々しさももちろんあるけど、参加者達は屈強な兵器に守られているという安心感が得られるだろう。
けどその時は突然訪れた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!