05-10.ふたりで
僕はリオに全てを話した。何から何まで、全て。
中学卒業後、僕は防衛学園に、リオはアカデミーに進学した事。
防衛学園の連中は最低な奴が多かったという事、けどそこでシャルと出会ったという事。
兵士学校在学中はリオと全然会えなかったという事。でも電話で話したりする事が本当に嬉しかっだという事。そんな生活を送る中、孤児院施設の先生が亡くなってしまった事。すごく悲しかった事。けど僕もリオも頑張って、卒業する頃には学生最高栄誉である〝レッドバッヂ〟を授与されるほどの生徒になれたという事。リオが新型MK“ライラック”のパイロットに選ばれて、卒業後に僕と一緒に月の基地で働ける様になっだという事。
そして、あの日の事。
「僕はあの日、死んだはずだったんだ。でも、理由は分からないけど、こうしてまた生きてる。だから僕はこの人生では、絶対にリオを守るって、そう決めたんだ。信じられないかも知れないけど、本当に僕の身に起こった事なんだ」
リオは僕の話に時折驚きながらも、言葉のひとつひとつをしっかりと噛み締めて静かに飲み込んでいく。
僕の話は自分でも分かるくらいに非常識的で、一歳、理論的に説明することなんか出来なくて。でも、やっぱりリオは僕の全てを受け入れてくれる。
それだけで僕は胸がいっぱいなのに、
「私も、信じられないかも知れないけど……」
「……?」
と前置きしてから、その可愛らしい口を開く。
「……そう、なんじゃないかなって。心のどこかで思ってた。あ、ううん。コータが未来から戻って来たのを知ってるとか、そういうんじゃなくて。あの日の放課後、廊下で会ったコータからは、なんて言えばいいのかな……色んな気持ちが伝わってきたから」
「リオ……」
「あの日からずっとコータは一生懸命だったの、私見てきた。あれだけ好きだったゲームもやらなくなったし、毎日勉強とトレーニングする様になったし、あちこち走り回って色んな事をしてきてくれたんだよね」
そう言ってからリオはその美しい翡翠色の目を細める。その微笑みはこの世のものとは思えないほど綺麗で、僕は、僕の心はリオの虜になってしまう。
「……ありがとう。コータ」
「……っ」
ありがとう。ただその一言で今までの全て、焦り、憤り、怒り、様々な負の感情が吹き飛んでいく。
「だから今度は私の番」
「え、それって……」
「私も一緒に戦わせて」
リオはそう言い切った。
MKのパイロットになりたいと言うリオの夢を叶えさせたくて、リオを守りたくて始めた僕の計画。
その中には卓越した操縦技術を有するリオの力も必要であると思ってるし、実際頼りにしていた。
それは僕が望んでいた事のはずなのに、いざとなったら躊躇ってしまった。
だってそれは、今まで僕がしてきた事をリオにもやらせてしまうという事なんだから。
MKを駆り、戦場に出ればその命を奪おうと敵が襲ってくる。
至極当然の事。僕は運良く機体に恵まれたし、あの感覚の補助があるおかげで何とか戦えたけど、やっぱり僕は危険な目に遭ってきた。
僕の命を奪おうと迫る敵を斬り殺し、撃ち殺してきた。
パイロットという仕事は、そういうものなのかも知れない。パイロットになりたいというリオの夢を叶えてあげたい。でも、今のこの世の中は混沌としている。そんな状況でリオにパイロットをやらせるには……。
ガーランドが率いる軍の練度は、今E.M.Sで受けている依頼の中で対峙する敵とは桁違いだ。最新鋭の試作機も手に入らない。
こんな圧倒的劣勢の状況でリオに協力してもらうのは最悪だ。
リオにはこのまま腕を磨いてもらって、1周目と同じように“ライラック”を獲得してもらう心算だった。でもそれも恐らく叶わない。今のリオは腕こそ素晴らしい物を持っているけど、知名度は皆無だ。恐らく候補にもならないだろう。
そう、この状況では返ってリオを危険に晒してしまう。リオのその言葉を望んでいたはずなのに、どうしても頷く事ができない。
「それは……」
「……出来ない?」
僕が頷くとリオは怒るでも、落胆するでもなく。優しく微笑んで首を傾げる仕草をして、敢えて優しく問う。
「どうして?」
「リオを、危険な目に遭わせられない」
そう、試作1号機と2号機が僕らの手から離れてしまった今となってはリオのその申し出は受けられない。もし1周目と同じようにリオに“ライラック”が与えられたとしても、僕にあの反乱に抗う術が無い以上、このままでは1周目と同じ轍を踏む事になってしまう。
それだけは避けなければいけない。僕が次の手を思いつくまでは、手を回して打開出来る策を練るまでは……。
今はまだ……そう、スタート地点に戻っただけ。
もう一度、計画をし直して……。
そう思った。思おうとした。でも、本当は分かっている。もう一度スタートを切る時間などない事は。
“ダリア”などの新型MKの完成。それのパイロットの選抜、水面下で動く膨大な金、人の動き。試作1号機と2号機。今まで切ってきたさまざまなカード。それら全てが膨大な力、権力によって奪われていく。
落胆し、絶望する。自分の力の無さに。
もしかしたらもう一度あの絶望感を味わうかも知れない。
もう、札は無い。この劣勢を覆す切り札何で持っていない。
多分、今の僕は絶望に染まった顔をしている事だろう。
でも、リオは、僕の大切な人は、そうでは無かった。
いつもの優しい笑顔でこう言ってくれたんだ。
「もう一度言うよ。コータはもうひとりじゃない。貴方の命は私の命だよ。私にも貴方を守らせて」
「リオ……」
「今までひとりで戦ってくれてたんだよね。本当にありがとう。でも、私もコータのために命を賭けたい。私にとってコータの命は自分の命より重いの」
「そ、そんな事……」
……ない。そう言いかけて、ふと思い留まる。そう、僕には僕の命より重いものがある。
リオの命。リオが明日を幸せに生きていけるような世界。それを手に入れる為なら僕は僕の命をを捧げられる。
この世には自分の命より重いものがある事を僕は知っていた。
『――』
「……っ」
リオから流れ込んでくるリオの気持ち。言葉などいらない。全て、分かる。
僕が命を賭けられる様にまた、リオも僕のために命を賭けてくれるんだと。
ふたりがふたりでいられない世界にどんな価値があるんだろうか。そんなエゴが僕の心を支配していく。
「だからコータ、私の命を使って。貴方の為に使いたい」
そしてリオは、僕の大切な人はそんな言葉を口にした。けど、
「そんな事は絶対にさせないよ。僕の命はリオの為に使う。僕はリオを守る為に生きている。だからリオの命は絶対守る」
そうだ、まだ諦めるな。この命ある限り、いや、僕はリオを、死んでも守るんだ。絶対諦めるな。生きてれば何とかなる。
さっきまでの暗く淀んだ気持ちはとうに掻き消え、確かに強い意志が心に宿る。リオに話たから、リオがそうさせてくれた。僕は再び立ち上がる。大好きで大切な人を守る為に。大好きな人に支えられながら。
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