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05-05.思いやり



「僕……自分が新型機のパイロットに、でありますか?」


 ガーランドから聞かされた話を僕はようやく理解して、やっとでそう口にした。

 それはガーランドの話が分かりにくいかったり、内容が難解だからというわけではなく、その話が僕の想定の範囲外だったから驚いてしまっていたから。


 話をようやく理解した僕にガーランドは相槌を打つ。


「ああ。現在の我が軍が有する科学力を用いて製造された超高性能機だ。知っての通り、大戦は終結したにも関わらず戦火は絶えない。未だ抵抗を続けるレイズに対して新型MK(モビルナイト)を有しているだけでその行動を制限するほどの力がある。その一角を貴君に預けたい」

「……」


 なるほど、あたかも正義はこちらにあるといった言い回しだな。


 持っているだけで相手の行動を制限してしまうほどの兵器。確かに国際連合が製造している新型MK(モビルナイト)達はそれ程のポテンシャルがある機体だ。当然無敵というわけではないだろうし、レイズが持つ技術力や資金力を駆使すれば、それに近い機体を生み出すことももしかしたら出来るかも知れない。ヤツのいう事も間違ってはいない。


 でも、奴はその力を平和のために使おうとしない。〝聖騎士〟ガーランドの言葉は多くの人間を納得させるものかも知れないが、未来を知る僕に取っては薄っぺらい紙切れの様な重みしか感じない。


 部屋には僕とガーランドの2人きり。僕は対面のソファに腰掛けるガーランドの目を見て問いかける。


「……宇宙でお会いしたと仰いましたか」

「ああ。あれは君だろう」

「……」


 コイツ、あっさりと認めたぞ。


 それは、つまりは自分はカスタマイザー研究施設に関与していますと言っているのと同じ事だぞ。カスタマイザーは禁忌の存在。いかに軍の暗部で研究が進んでいたとしても、そう簡単に認めてしまっては、何よりガーランドなどという大物が認めてはいけない。決して。


 それに落ち着け。奴は一度も〝戦った〟とは言っていないだ。下手すれば今まで手を回してきたいろんな物事が水泡に帰すこともあり得る。言葉は慎重に選ぶ必要がある。


「宇宙には行きましたが、それは海賊(・・)の捕虜としてです。中将とお会い出来ようはずがありません」


 僕が“ソメイヨシノ”に居た事については軍に報告してある。けれど捕虜として捕らえられていて、期を見計らって敵の手によって改修された“ワルキューレ・ブレイズ”を奪って逃亡してきたという事にしてある。

 捕虜になっていたため、敵の全貌は分からないという事にも出来たし、“ワルキューレ”に施されていたパイロット限定のロックも今は外す事が出来ている。


 確かに僕は“ワルキューレ”でガーランドと対峙した。でもそれのパイロットは僕ではない誰か。僕はその意見を通す心算だし、それはもう事実(・・)だ。そういう事にしなければいけない。


 ガーランドは僕の視線を躱す事なく受け止める。それはまるで僕の心の中を読んでしまっているかの様に感じてしまって、そう、とても居心地が悪い。かと言ってここで押し切られるわけにもいかない。僕は冷静を装いつつ、その視線を受け止める。

 ややあってガーランドはひとつ瞬きをして、ここでフッと息をついた。


「……そうか。私の思い違いだったようだな。あの感じ(・・・・)は間違いなく君のものだと思ったのだが」

「……自分には分かりかねます。申し訳ありません」


 あの感じ、か。


 戦場を駆け巡ったあの重く鋭い威圧感のような感覚。あれは確かに今目の前にいるガーランドから発せられているものと同じ……ヤツも今の僕の様に、あの時の感覚を再び感じているのだろうか。


 もしそうだったとしたら、どんな言い訳も通じないだろうな。


「しかし、何故自分がその様な重要な機体のパイロットに選ばれたのでしょうか。自分には実績がありません。何より軍人ですらない、ただの学生です」


 軍が製造している新型MK(モビルナイト)の完成は間近だそうだ。それは事前に“ソメイヨシノ”の諜報員から情報は仕入れていた為、状況は把握していたし、何よりこうしてガーランドからその話を持ちかけられたわけだから確定情報だ。


「謙遜するな。君の活躍は私の所にも届いてきている。流星の如く戦場を駆け回り、スコアを稼いでいく蒼き流星、〝蒼星(そうせい)〟コータ・アオイ、とな」

「自分はその様なパイロットではありません。まだまだ発展途上の――」


 パイロットです。そう言おうとした所でガーランドが低く太い声で僕の言葉を遮った。


「過剰な謙遜は時に失礼になる。もちろん私にではなく、君が打ち破った者に対してだ。磨きに磨いてきた技術が未熟者に通じなかったとあっては敗者の全てを否定する事になる。ならば単に己の力が勝っていたと言われた方が私は良いと思うがな」

「……中将のおっしゃる通りであります」


 ガーランドのその言葉は、確かに一理ある。全然努力してない様なやつに努力してきた者が敵わない場合は確かにある。あるが、ガーランドの言うところの過剰な謙遜は敗者の努力を全て否定する事になる。

 もちろん時にはその様な否定も確かに必要だとは思うが、敢えてその様な態度は取らなくても良い気もする。


 敗者は敗者。さりとて人間。


 そんな事葉を口にするガーランドは確かに国際連合を代表する武人なんだなと思う反面、なぜあんな事をしでかしたのか、本当に理解出来なかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 遂にタイトルの一部(蒼い)が出て来ましたね。 しかし蒼い流星… 思わずコータにV maxを発動させてみたくなります(^^;) 小ネタにばかり反応してすいません。 それも含めて楽しませていただ…
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