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05-04.ジョナサン・ガーランド


 ジョナサン・ガーランド中将。

 

 国際連合軍の大隊の指揮官であり、自らもMK(モビルナイト)のパイロットでもある、前大戦の英雄。

 軍の中にMK(モビルナイト)の操縦で右に出るものはおらず、その働きから〝聖騎士〟と謳われた人物。

 活躍も去ることながら、容姿も整っている事から軍隊に興味のない人々からの人気も非常に高く、政界進出の噂も何度も浮上する事もあった。

 けれど、自分は(まつりごと)が出来る人柄ではないと謙遜する姿勢すら人気に繋がっている。そういう人物だ。


 そう、それは整備士を目指していた僕ですらも彼に憧れた事はある。

 

 寡黙で堅実で謙虚。されど最強。そんな姿に確かに憧れた。

 ……あの日(・・・)ですらも、僕はガーランドの姿を見る事が出来るんだと思ったほどに。


 けれど、そんな憧れの感情など今の僕には1ミリも無い。

 国や軍を裏切り、何の罪もない非武装の人間を、生身の人間を最新のMK(モビルナイト)“ダリア”で次々と虐殺したテロリスト。

 僕の目の前で大切な、大切なリオの命を奪った張本人。


 それが、今、目の前にいる。


「……貴様、敬礼をしろ!」

「……」


 気がつけば僕は敬礼もしずにガーランドを睨みつけてしまっていたらしい。

 ヤツの隣に控えていた副官……親衛隊の類いだろうか、20代そこそこと思しき大尉が僕にそう叫んだ。


 いや待てよ。この顔どこかで……。


 ああ、いや、それよりも。そうか、敬礼……しなきゃな。と思いつつも身体がそれを拒む。何が悲しくてこんなヤツ(・・・・・)に礼を尽くさなければいけないのか。

 いや、でも形だけでもと思って敬礼の姿勢を取ろうとすると、業を煮やした大尉が眉端を吊り上げて僕に迫ってくる。


「貴様っ、中将に無礼だぞ!」

「……」


 一瞬、どうしてこんな奴に、なんて考えが過ったけれど大尉が言う事も確か。僕は軍が運営する兵士学校の学生で、ヤツはその軍の中核を担っているといっても過言ではない将校だ。

 

 それに感情を表に出してしまったら足元を掬われかねない。例えどんな理由で僕を呼びつけたとしても。そうだ、落ち着け。

 僕はそう気持ちを切り替えて、今度は背筋を伸ばして模範的な敬礼の姿勢を取った。


「失礼しました。英雄と名高い中将殿にお会いできて舞い上がっていました。国際連合学園二年のコータ・アオイです。お目にかかれて光栄です。中将殿」

 

 もちろん光栄だなんてひとつも思っていないが、少なくとも頭に血が昇っていた大尉には通じたようで、そうかと言って引き下がった。

 しかし、それに対してガーランドは着席したまま言い放つ。


「そうか。宇宙で会った時(・・・・・・・)はそうは思ってくれなかった様だがな」

「……っ!?」


 ……コイツ!


 そうか、やはりあの時に戦ったのが僕だと分かっていて呼び出したのか。いや、でも何故一年も放置していた。

 不意を突かれて危うく表情に出してしまいそうになったけれどポーカーフェイスを貫く事が出来た。出来たけど……ヤツの確信めいた口調から推察するに、そんな小細工は不要だと思う。


 全てを見透かした様な切れ長の鋭い瞳が無性に腹立たしい。けど相手の意図が分からない以上、動揺を表に出すわけには行かない。飲まれるな。落ち着け。


 僕は何も知らない少年の仮面を顔に貼り付け首を傾げて見せる。


「僕が宇宙に居たのはテロリストに拉致されていた時です。宇宙で中将殿にお会い出来ようはずがありません」

「……中将?」

「ふ。いや、そうだな、私の気のせいだ。忘れてくれ」

「……」


 会話の真意が読めていない大尉が小首を傾げるが、ガーランドは軽く首を振る。納得はしていないだろうが、それでも大尉はそれ以上、疑問を投げかけてくる様な事は無かった。


 僕を呼びつけた理由があの時に戦ったからだったとして、今更呼び出す理由がわからない。

 自分がカスタマイザー研究施設に出入りしていたなどという情報はどう考えてもヤツにとって不都合でしかないはず。それの口止めなら裏から手を回して如何様にも出来るだろう。

 それをわざわざこうして、公的な方法で僕を呼び出した理由はなんだ……?

 それにあれから一年以上経っているという事が引っかかった。


「それはいい。私は君に話があってな。少し長くなる。ハリー、茶を用意してくれ」

「はっ!」

 

 ハリーと呼ばれた大尉はビシリと敬礼をして、キビキビとした軍人らしい動作で部屋を後にした。

 

 ハリーって、ハリー・エドワーズ大尉か? 

 彼も国際連合軍の中でも腕の立つパイロットだと有名な軍人で、あのリオやガーランドにあてがわれた新型機の一機が彼にも配備された筈だ。道理で見た顔だと思った。


 部屋に残されたのは僕とガーランドのふたり。まさかこんな日が来るなんて思ってもみなかった。

 軍を裏切り、あんな残虐なテロを引き起こしたヤツと同じ部屋にいるなんて。


 ほんの一瞬だけ、ここでコイツの息の根を止めれば……なんていう馬鹿な考えが浮かんではすぐに掻き消える。

 そんな事を今しても何の意味もない。僕の目的はあの日の様な運命からリオを救う事であって、コイツの殺害ではない。もちろんそうする必要がある時はその限りではないが、今はその時じゃない。


 僕がまさかそんな事を考えているなんて思わないだろうけど、ガーランドは立ち上がると今度は僕にソファに腰掛けるよう薦めてきた。


 失礼します、と言って腰掛けるとソファの柔らかさに少し戸惑う。間違いなく上等な品の様だ。


 そんな僕に気安い様子で、けれど軍人の威厳を保ちつつ。そんな口調でガーランドは口を開く。


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

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