05-03.対面
国際連合を実質的に統括するアメリカ合衆国。アメリカの首都ワシントンD.C.にはその本拠地といえる施設があり、連合加盟国より集まった指揮官や官僚が連合を統括し、指揮している。
着るのは去年の入学式典の時以来だろうか、クローゼットに仕舞い込んでいたアカデミー指定の制服を着てその施設、ヘキサグラムに僕は来ていた。
全ての元凶とも言えるガーランド。そいつから直接呼び出しがかかるなんて。
その理由にはいくつか心当たりがある。そのうちの一つにあの“ワルキューレ”を大破させてしまった宇宙での戦いがあると思う。“ワルキューレ”はワンオフ機だし、何より国際連合軍の持ち物だ。機体の外観映像さえあれば特定は容易だと思う。
“ワルキューレ”が改修された理由についてはテロリストが勝手に改修した機体を強奪して帰還した、という事になっている。だからあの宇宙で遭遇した“ワルキューレ・ブレイズ”のパイロットは僕ではない。建前上では。そう地球に帰還した際に軍には報告した。
ただ、その言い訳を通用させる為には“ワルキューレ・ブレイズ”の操縦者限定制限を解除する必要があったから苦労したけど。月にオム氏が居なかったらそれは叶わなかった。
世間からはテロリスト扱いされる“ソメイヨシノ”と共同で戦っていたという事には言い訳が効いた。でも僕がこうして帰還するにはそういうウソもついていかなけばならない。
ウソ。……ウソ、か。
僕がタイムリープしてきたというのは相変わらずアカギ教授以外には話していない。
それを公にしてしまうと僕が持つ未来の知識を僕にとって都合の悪い連中に独占されてしまう可能性があったから口外はしなかった。
自身の目標のために他人を薬物でコントロールする様なヤツらだ。僕の持つブラックテクノロジーを欲するあまりどんな手を講じてくるか分からなかったし、僕の周りの仲間、大切なリオや友人に危害が及ばない補償は無かったから。
けど如何なる理由があっても、やっぱりそれはウソであるし、僕の知識の多くは先人の努力の結晶。それをあたかも自分が考えたかの様に振る舞うのはあまり気持ちの良いものではない。僕にそんなつもりが無かったとしても。
いつかきっと打ち明けよう。そう思った。
◇
ヘキサグラムに到着した僕は受付でガーランドから届いた手紙を提示し、呼び出された旨を伝える。
すると受付の女性はどこかに電話をすると、すぐにスーツ姿の男性が現れて応接室と思しき部屋に通された。
ヘキサグラム内部は非常に手入れが行き届いており、接客用のフロアだという事もあり、床には高級ではないにしろ上質な絨毯が貼られていたりする。
各国の首脳レベルの要人も来賓するとなればこの施設も納得だ。
それは防衛学園卒業時に国際連合から与えられた勲章を授与する際に僕は1周目の人生でこの場所に訪れた事がある。
その時とは何も変わっていない……というのは少し変かな。だって僕にとっての当時も、この世界においては未来なんだから。
応接室で待つこと数分、さっき案内してくれた男性が準備が出来たと僕を呼びに再び現れる。僕は飲みかけの紅茶のカップをソーサーに戻して男性の後に続く。
いつか歩いた廊下の突き当たり。観音開きの木製ドアの前に立った、その時だった。
未だ閉ざされたドアの向こうに、確かに感じる気配。そう、それはあの戦場で感じた気配。大きく太い、存在感の塊の様な気配。
「入って良い」
男性職員が立派なドアノッカーに手をかけようと手を伸ばすのと同時に中から声がかけられた。太く低い、男の声。間違いなく本人の声。手にじっとりと汗をかいている事に気づく。どうやら知らない間に拳を握りしめていたらしい。
男性は少し驚いた様子だったけど、失礼しますと言ってノブに手をかけ、ドアを開け放った。
ドアの真向かい。広い部屋の真ん中に置かれた重厚感のある木製机に着いた男と目が合う。
白髪の混ざった口髭。グレーの長髪をオールバックにした中年の男。猛禽類を連想する鋭い目つき。国際連合軍でも数名しか着る事が許されない、英雄の証、赤い軍服の胸には幾つもの勲章が飾られていた。
座っているだけ。それだけなのにも関わらず、この部屋を包み込む程の存在感を放つ男。その佇まいは、そう、武人を具現化した様な、そんな印象すら受けた。
とうとうここまで来た。ヤツこそ全ての始まり。僕から全てを奪った張本人、〝聖騎士〟ジョナサン・ガーランドだ。
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次回は12月19日(月)19時に投稿予定です。