05-02.経過
「はいこれでアタシの3連勝だな! 夕飯奢り決定ー」
「く、くそ、何故勝てない……」
アカデミーのシミュレータ実習室。
両手を腰に当てて、得意げに勝ち誇るシャルに対して僕はシートに身を預けて脱力していた。
今晩の夕飯を賭けて行われた決闘方式の模擬戦は彼女が言った通り、シャルの三連勝で幕を下ろした。
「お前、あっちでサボってたんじゃないのか」
「そんなはずないだろ」
確かに作業室には入り浸っていた様な気はするけど、トレーニングもシミュレータ実習も毎日こなしてきた。もっというならあのウエハラに勝ち、あの〝聖騎士〟ガーランドにも引き分けたんだぞ!
などとは言えず、僕は天狗……もとい、机に登って僕を見下ろすシャルに恨めしそうな視線を送った。
「あはは、でもコータすごく上手くなってるよ」
「いや、でも前はまだ勝てたのに……」
「……上手くなった」
「そ、そうですか? ありがとう、エディ」
「……シャルが」
「そ、そうすか……」
傍らで僕らの対戦を見守っていたリオとエディ。
せっかくのリオのフォローも、エディの倒置法を食らって項垂れる僕。そんな僕を見てリオは苦笑し、シャルは快活に笑い、そしてエディは何が可笑しいのか解らず、コテンと首を傾げた。
アメリカに帰国して一年が経った。そう、もう一年が経った。
あれから僕はアカデミーの進級試験になんとか合格し、みんなと一緒に進級する事が叶った。
二年生から専攻コースが分岐するアカデミーのシステムだから、パイロット科へ進む僕たちとは違い、経営管理科志望のヨナとは別のクラスになった。
けど僕達は相変わらずヨナの実家が経営する民間軍事会社E.M.Sでアルバイトをしているので、共通点が無くなったわけじゃない。
今やE.M.Sの経営は完全に持ち直しており、大戦中の全盛期の売り上げには及ばないまでも、軌道に乗っていると言っても差し支えない。
経営を持ち直したのは業務の大半をこなしているヨナの手腕も大きく影響しているのは言うまでもないが、それ以外にも大きな要因がある。それは軍を退いたエディとメイリンさんが在籍しているという事。
〝女傑〟と云われたエディとその元副官のメイリンさんのネームバリューは凄まじく、彼女らが居るというだけで各依頼が殺到してた。
それはMK操縦者として戦地に派遣される任務もあれば、国営軍の軍事パレードに来賓として招かれたり、時にはそのルックスの良さから、メディアのタレントとしてモデルの様な仕事も舞い込んでくるらしい。
エディの側でスケジュール管理をするメイリンさんはまるで彼女の専属マネージャーと言った様相だ。
僕はメディア関連の仕事には同行しないけれど、作戦関係の仕事には僕も“ワルキューレ・ブレイズ”で同行する事も多々あった。
世の中は相変わらず小さな小競り合いが絶える事はなく、あちこちで小中規模の紛争が絶えない。
その紛争の全てではないにしろ、その裏にはやはりカスタマイザーの影が見え隠れしている。ニウライザが普及し、絶対数は減っているとはいえ、生み出そうとする者はまだ居る。残念ながら。
けど民間軍事会社であるE.M.Sは自らそれの制圧に向かう事は許されない。そんな事をすればやはり犯罪者になってしまう。作戦を行うには軍やそれに相当する組織からの依頼がなくては動く事は許されない。
でも僕達はそれに関係する戦場に赴いている。
何故それが出来るのかというと、もちろん依頼主が居るから。そう、その依頼の影にいる組織こそ“ソメイヨシノ”だ。
僕たちはナナハラ重工の後ろ盾を得ている組織からの依頼を受けて戦場に赴いている。その裏には“ソメイヨシノ”で得た情報が殆どで、実質的に僕たちは“ソメイヨシノ”と協力してカスタマイザー根絶に向けて活動しているという事になる。
僕がそれを直接ヨナやエディに話す事は無いけど、僕の言動を見て何かを感じてくれているのだろう、追求はせずとも彼らなりに理解して着いてきてくれている。
“ソメイヨシノ”の情報によると、最近はその成果もあり、カスタマイザーは確実に減少傾向にあるみたいだ。
それとちょっと予期しなかった事が起こった。それはリオとシャルもMKの1級ライセンスを取得してその依頼の多くに同行する様になったという事だ。
元々センスの塊のような2人だったけど、エディとの訓練が身を結んでこんなに早期に取得に至ったみたいだ。
それにリオはアラスカで僕が拉捕縛された時に何も出来なかったからと、その時の後悔が彼女の大きな原動力になったらしい。
実戦で着々と実力を付けている彼女ら。僕としてはすごく嬉しいし心強いんだけど、国際連合との距離が少し離れているという事が少し問題だ。
アカギ教授がアークティック社に開発依頼した新型試作MKの1号機と2号機、何より軍が開発している“ダリア”や“ライラック”などの新型機のテストパイロットにも選出されなければならない。
テストパイロットになるには軍と良好な関係を築く必要がある為、いくらカスタマイザー根絶に向けて活動しているとはいえ、このまま軍との距離が離れてしまうのはいい傾向とは言えないんじゃ無いかと、そう思っていた時に僕の元に僕に会いたいと言っている将校がいるという連絡が入る。
その相手こそ全ての元凶、ガーランドだった。
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次回は12月16日(金)19時投稿予定です。