04.1-04.幕間
「……で、やったのか?」
「ぶふぁあ!?」
対面のテーブルに頬杖をつき、ジト目で僕を睨むシャルに僕は口に含んでいたホットコーヒーを盛大に吹き出した。
その飛沫をジト目のまま受け止めて、冷静に「汚ねぇな」と言いつつシャルは僕の上着の裾で自分の顔をゴシゴシと拭いてから再び同じ姿勢になって「で?」とだけ言った。
三日月型に吊りあがったルビー色の瞳が本当に燃えているかのように輝いたように見えた。怖すぎる。
地球に降りてきて色々あった。本当に色々。軍やら国やら、本当に色々あった。その事については後々に話すとして、今僕はその色々を済ませて一息ついたと言うところ。
うん、シャルがこの調子だと全然休めないんだけどね。まるで尋問だよ、まったく。僕は尋問され続ける運命なんだろうか、まさかシャルもウエハラみたいに机に飛び乗って殴ってこないだろうね。
僕はその尋問官から目線を逸らして改めてコーヒーを啜った。
「……別に、それだけだよ」
「はぁ!? そこまでしておいてキス止まりかよ! 意気地無しめ!!」
シャルの言葉に僕はもう一度コーヒーを吹き出しそうになる。ちょっと待った、意気地無しとはひどい言われようである。僕はたまらず立ち上がる。
「仕方ないだろ! コクピットの中だったんだよ!」
「コクピットの中じゃなかったらしてたのかよ!?」
立ち上がった僕の鼻先にシャルは構わず顔を寄せて声を荒げる。額同士がくっつきそうになるけど、構うもんか。ここで引いたら負けだ。シャルは女性だけど、それ以上に友人だ。こんな喧嘩も一度や二度じゃない。
でもさすがにさっきの問いに対しては返す言葉は持ち合わせていないので、言葉が尻すぼみになってしまう。
「……え、いや、それは……」
「言い淀むなよ、なんかリアルだから……」
シャルは片手で頭をクシャと掻いて頭を振った。そして「それは冗談として」と言って改まる。いや、あの様子は冗談なんかじゃないでしょ。
どうやらシャルは、僕がその色々をしている間にリオからあの夜の事を聞いたらしい。それも結構詳細に。
相当嬉しかったんだろうな、とはシャルの言だけど、リオは誰から構わず言いふらすようなタイプじゃないから、リオとシャルの信頼関係はより強くなっていたと感じる。
僕を探すために寮を飛び出して行こうとするリオを止めてくれたみたいだし。それは本当助かった。ナイス判断だ、シャル。
「まぁ、お前とリオの仲が進展したことはめでたい事だけどさ。エディータ先輩の方はどうするんだよ」
「……何言ってるかわかんない」
「しらばっくれんなよ。もう気づいてんだろうが」
「……」
そう言ってシャルは頬杖をついてルビー色の瞳を逸らした。
アメリカに帰国してからはもちろんエディとも再会した。
エディは僕の顔を見るなり僕を抱きしめて来た。涙まで流して。エディの視線に熱っぽいものが混ざっている事は何となく感じていた事だったけど、シャルからそう言われて、やっぱりそうかと確信した。してしまった。
エディはすごく魅力的な女性だけど、その気持ちに僕は応える事が出来ない。僕にはリオがいるし、僕の心はリオのものだから。
エディと再会した場にはリオも同行しており、エディが胸に飛び込んで来て、僕がどうすれば良いか迷っていた時もリオは優しい表情で頷いていて。それで僕はエディの背中に手を添えることにしたんだ。だから多分リオもエディの気持ちには気づいていて、彼女の気持ちを尊重しようと思っているんだと思う。
けどその気持ちに僕が甘える事は許されないし、何よりエディにうやむやな態度を取るのは彼女に対して失礼だ。とはいえ、
「でも、エディが何か言ってきている訳じゃないから僕の方から何かする事はないよ」
「ん、まぁ、そうなんだけどな。テキトーな態度は取るなって事だ」
「それは分かってるよ」
そうなんだ。エディの方から何か言われたわけでも無い。それなのに僕の方から何かアクションを取るのは、何というか、少し違うんじゃ無いかと感じた。少なくとも今の感じなら。
もしかしたら僕とリオの関係に気付き、または何かのタイミングで恋人同士になった事を話す機会が有ればその時にエディなりに何かを感じるかも知れないから。
それを彼女の判断に委ねるのは、少し残酷かも知れないけど、それは僕が言えることでは無いし、やっぱり中途半端な態度を取ることこそがエディに失礼だと思うから。
それに、きっとそれが恋愛というものなのだろうから。
「先輩泣かせたらぶん殴るからな」
「いや、それは……約束出来ないよ」
そうだ、シャルはエディの事を……。
少しだけネタっぽい口調ではあるけど、シャルのエディに対する想いは本気だ。
彼女の過去の恋愛傾向から、なかなか上手く事が運ばない事は知っている。だからと言ってエディとも上手くいかないかと言えば、それは分からないけれど。
けどやっぱりシャルの過去の恋愛の多くは実らなかった事がほとんどで。それでもシャルはシャルなりに好きな人への思いやりは忘れない。
同性婚が常識になった時代ではあるけど、それでも少数派である事は間違いないから。シャルはシャルで傷ついてきた。だからこそ自分の好きな人に他人が、ましてや僕が不義理な態度を取ろうものなら、それを許そうとは思わないだろう。
でも僕にとってもエディはかけがえのない友人だ。敢えて彼女の心を弄ぶような態度を取ろうはずがない。そうなればリオの心をも弄ぶ事になってしまうから。そうなればシャルも、エディを大切に思うメイリン准尉に対しても。
僕とリオの関係が進展した事で周りの人間関係に不協和音をもたらすのは絶対避けたいから。
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