04.1-03.幕間
「コータ、これ……」
「うん、僕が作ったんだ。どうかな?」
「コータが? すごく、綺麗……ありがとう」
“ワルキューレ・ブレイズ”のコクピットの中、会えなかった時間を埋める様な長い長いキスの後、それと同じくらい長い時間抱き合っていた僕たちはどちらともなく抱擁を解いた。
リオが視線で示しているのは僕が月で作った指輪。“ワルキューレ・ブレイズ”の装甲に使われているルナティック合金とスタークリスタルを結合させた合金を加工して作った指輪。
ほんのりと透ける雪色の中に虹色に光るラメが混じったような不思議な色をしているその金属は、白魚のように綺麗なリオの指にすごく似合っていた。
自身の右手薬指にはめられたそれをうっとりとした表情で眺めるリオ。その表情を見る限りは、うん、すごく喜んでくれているみたいで安心したよ。指輪なんて少し重いかなと思ってたから。
「けどサイズが……」
リオがしている指輪に触れてみると少しサイズが大きいようで、指輪がくるくると回ってしまう。こればっかりはリオの居ないところで作ったから、リオの手の感触を思い出して勘で作るしかなかったからなぁ。うーん、少し残念だ。加工し直すにしろフォトン溶接機が無いとこの金属は加工出来ないし……。綺麗だけどそれがネックだな。
僕がそんな事を思っていると、リオが優しく微笑む。
「ふふっ、大丈夫だよコータ。……こっちの指なら」
「……え」
と、リオは一旦指輪を外して僕に渡す。そして、自分の左手薬指を指してそんな風に言った。
左手の薬指に指輪って、それって……。そんな大事な箇所に簡単に指輪をはめてしまって良いんだろうか。左手薬指は結婚指輪をはめる指、なのに。
僕が少しだけ躊躇しているとリオは翡翠色の瞳で僕を見つめる。
「大丈夫だよ、私、左手の方が指太いから」
「いやいやそういう事じゃなく」
見当違いな物言いに少し吹き出してしまった。けどリオはふっと笑った。なぜ僕が躊躇しているのか分かっているといっているように。
「……大丈夫。コータなら」
「リオ……」
「お願い」
リオの翡翠色の瞳に僕が映る。その綺麗な瞳からリオの気持ちが全部僕に伝わってくる。気のせいではなく、テレパシーとか、そんなんじゃなく。
以心伝心……とでもいうのか、リオが何を考えているのか、リオがどうして欲しいのか、そんな事が伝わってくる。頭じゃなく胸に、心に。
コータなら、とリオは言った。
僕は右手の薬指に指輪をはめた。それは遠慮からそうしただけであって、僕だって本当はリオの左手の薬指に指輪をはめたかった。その綺麗な指に僕の印を刻みたかった。
でもリオが良いと言ってくれるなら、求めてくれるなら。
僕は膝の上のリオの左手を取り、指輪にゆっくりと薬指を差し入れていく。すると指輪はするりと収まった。本当に採寸していたかのようにピッタリと。
するとリオは満足そうに、そして嬉しそうに、本当に嬉しそうに目を細めて「ありがとう」と言った。その笑顔が本当に眩しくて愛しくて、僕の心がきゅうと高鳴った。
「コータ、大好きだよ」
そう言うとリオはもう一度僕にキスをした。さっきまでの情熱的なキスではない優しいキス。
けどそのキスもやっぱり官能的で、柔らかくふわふわしたリオの唇からリオの気持ちが流れ込んでくる。
唇を離したリオは少し悪戯っぽく、「もう逃さないから」と可愛く、でも少し猟奇的にそう言った。
こんな可愛くて大好きなリオに逃がさない宣言されるなんて。うん、それは望むところだ。けど、僕は少しだけ笑ってから言う。ちょっとだけ不満があったから。
「僕が先に言うつもりだったのにな」
と。僕とリオの恋愛は僕から告白しようとずっと前から、そう、それはもう死ぬ前からずっと思っていた事だったから。
けどリオはそんな僕の髪を撫で、優しい表情で言う。
「今からでも間に合うよ?」
「そうかな」
「うん」
「好きだ、リオ。ずっと前から、君だけを想ってた」
するとリオはシートに腰掛けたままの僕に覆いかぶさる様にして僕の両頬を優しく包んで、リオは僕の唇を三度奪った。
リオの舌が僕の唇をこじ開けて口内に侵入してくる。そしてまるで別の生き物のようにぬるぬると動き、僕の舌を犯す。その甘美な感触に僕の頭は何も考えられなくなり……更なる快楽を求めてしまっていた。
僕の唾液をたらふく飲み込んで満足したのか、リオが唇を離すと唾液の糸がつうと引いた。
リオの頬は高揚しており、目は快楽からきているのか、とろんとしてまだ物欲しそうに僕を、いや、僕の唇を見つめている。リオのぷっくりとした唇も僕の唾液でテラテラと光っていて、すごく、その、官能的だった。
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次回は12月7日(水)19時に投稿予定、幕間です。
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